保育士の退職金は、勤務先が公立か私立か、私立なら運営法人がどの制度に加入しているかで大きく変わります。
たとえば、社会福祉法人の保育園で福祉医療機構(WAM)の退職手当共済に加入している場合、勤続10年・本俸月額22万円で約115万円、勤続20年・本俸月額28万円で約572万円が支給の目安です。一方、株式会社が運営する園では、退職金制度そのものがないこともあります。
この記事では、勤続年数別の退職金の目安、勤務先ごとの仕組みの違い、自分の退職金をシミュレーションする方法、税金、相談先を解説します。
この記事でわかること
- パート・非常勤の保育士が退職手当共済の対象になる労働時間の条件
- 公立保育園で勤続10年の自己都合退職の支給率(5.022)と定年退職などの支給率(8.37)
- 福祉医療機構の退職手当共済の1人あたり支給額(2024年度実績で約171万円)
- 勤続20年・30年の退職手当金に税金がかからない理由
保育士の退職金はいくら?勤続年数別の目安
保育士の退職金には全国共通の相場がないため、勤務先の制度ごとに目安を確認するのが確実です。ここでは、社会福祉法人の保育園で使われる「福祉医療機構の退職手当共済」と、公立保育園の「地方公務員の退職手当」の目安を紹介します。
社会福祉法人の保育園(福祉医療機構の退職手当共済)の早見表
社会福祉法人が運営する保育園は、福祉医療機構の「社会福祉施設職員等退職手当共済制度」に加入していることがあります。福祉医療機構が示す支給例は次のとおりです。
| 勤続年数 | 退職前6か月の本俸月額の平均 | 退職手当金の見込額 |
|---|---|---|
| 5年 | 20万円 | 約50万円 |
| 10年 | 22万円 | 約115万円 |
| 20年 | 28万円 | 約572万円 |
| 30年 | 33万円 | 約1,155万円 |
| 40年 | 41万円 | 約1,676万円 |
出典:福祉医療機構「社会福祉施設職員等退職手当共済制度のごあんない(2026年度)」 ※見込額は法律改正や本俸の変動、勤務状況により下回る場合があります
勤続10年までは100万円台にとどまりますが、勤続20年を超えると支給額が大きく伸びるのが特徴です。また、福祉医療機構の2024年度の支給実績は約8万2千人・約1,406億円で、1人あたりに直すと約171万円です(社会福祉施設全体の実績で、保育士以外の職員や短期勤続の退職者も含みます)。
公立保育園(地方公務員の退職手当)の支給率
公立保育園の正規職員は地方公務員として、自治体の退職手当条例に基づいて退職金が支給されます。多くの自治体は国家公務員の支給率に準じており、退職手当の基本額は「退職日の給料月額×支給率」で計算されます。
| 勤続年数 | 自己都合退職の支給率 | 定年退職などの支給率 |
|---|---|---|
| 10年 | 5.022 | 8.37 |
| 15年 | 10.3788 | 16.216875 |
| 20年 | 19.6695 | 24.586875 |
| 25年 | 28.0395 | 33.27075 |
| 30年 | 34.7355 | 40.80375 |
| 35年 | 39.7575 | 47.709 |
※国家公務員の退職手当の支給率。実際の支給率は自治体の条例で確認してください
たとえば、退職日の給料月額が30万円で、勤続35年で定年退職した場合の基本額は、30万円×47.709=約1,431万円です。これに職責に応じた調整額が加算されます。自己都合で勤続10年の場合は、給料月額25万円なら25万円×5.022=約126万円です。
自治体ごとの計算方法は「地方公務員の退職金早見表」で詳しく解説しています。
株式会社・NPO法人などが運営する保育園
株式会社などが運営する保育園は、福祉医療機構の退職手当共済の対象外です。退職金の有無や金額は、勤務先独自の退職金制度や、中小企業退職金共済(中退共)などへの加入状況で決まります。退職金制度がない園もあるため、求人票の「退職金あり」の記載だけでなく、支給条件まで確認しましょう。
公立・私立で違う保育士の退職金の仕組み
退職金制度は法律で設置が義務付けられているものではありません。ただし、勤務先が制度を設ける場合は、対象者や計算方法、支払時期を就業規則に記載する必要があります。保育士の場合、勤務先によって確認すべき制度が次のように異なります。
| 勤務先 | 退職金の仕組み | 確認するもの |
|---|---|---|
| 公立保育園 | 正規職員は地方公務員として、自治体の退職手当条例に基づいて支給 | 自治体の退職手当条例、任用形態 |
| 社会福祉法人の私立保育園 | 福祉医療機構の退職手当共済に加入している場合がある。都道府県などの独自の共済制度に加入している法人もある | 共済制度の加入状況、自分が被共済職員か |
| 株式会社・NPO法人などの私立保育園 | 勤務先独自の退職金制度、中退共、企業年金など | 就業規則、退職金規程、中退共などの加入状況 |
公立保育園:正規職員かどうかで扱いが変わる
公立保育園の正規職員は、給料月額、勤続期間、退職理由、職責などに応じて退職手当が支給されます。一方、会計年度任用職員などは、勤務形態や任用期間によって扱いが異なります。退職手当の対象になるかどうかは、自治体の人事担当で確認しましょう。
社会福祉法人:退職手当共済の加入要件と支給されないケース
福祉医療機構の退職手当共済では、正規職員だけでなく、次の条件を満たす職員も被共済職員として加入します。
| 加入する職員 | 条件 |
|---|---|
| 正規職員 | 雇用期間の定めがない職員 |
| 1年以上の雇用期間を定めて雇われている職員 | 労働時間が正規職員の3分の2以上 |
| 1年未満の雇用期間を定めて雇われ、更新により1年を超えた職員 | 労働時間が正規職員の3分の2以上(1年を経過した日から加入) |
一方、次のような場合は退職手当金が支給されません。
| 支給されないケース | 注意点 |
|---|---|
| 被共済職員となった日から1年未満で退職したとき | 短期間で退職すると退職手当金は受け取れない |
| 被共済職員期間となる月の合計が12か月未満のとき | 加入期間は月単位で数える |
| 退職した日の翌日から5年が経過し、請求権が時効で消滅したとき | 退職後は早めに請求手続きをする |
なお、退職後に別の社会福祉法人などで再び被共済職員になった場合、一定の条件を満たすと前後の期間を合算できる「合算制度」があります。転職を予定している方は、退職時に福祉医療機構の案内を確認しておきましょう。
株式会社・NPO法人:制度がない園もある
株式会社などが運営する保育園では、勤務先独自の退職金制度を設けている場合、中退共に加入している場合、企業年金を導入している場合など、仕組みがさまざまです。退職金制度がない園もあるため、入職前や転職前に就業規則と退職金規程を確認することが大切です。
保育士の退職金をシミュレーションする方法
自分の退職金の目安は、次の手順で確認できます。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1. 勤務先の制度を確認する | 公立なら退職手当条例、社会福祉法人なら退職手当共済の加入状況、株式会社などなら就業規則・退職金規程を確認する |
| 2. 計算のもとになる金額を確認する | 退職手当共済なら退職前6か月間の本俸月額の平均、公立なら退職日の給料月額が基準 |
| 3. 勤続年数と退職理由を当てはめる | 自己都合退職か、定年退職などかで支給率が変わる |
| 4. 税金を差し引いて手取りを確認する | 退職所得控除の範囲内なら税金はかからない(次の章で解説) |
社会福祉法人の保育園に勤めている場合は、福祉医療機構の「退職手当金計算シミュレーション」で、本俸月額と勤続年数から見込額を試算できます(福祉医療機構 退職手当共済のページから利用できます)。
計算式の例
| 勤務先 | 計算式 |
|---|---|
| 社会福祉法人(退職手当共済) | 退職手当金=計算基礎額(退職前6か月の本俸月額の平均に応じた額)×支給乗率(勤続期間・退職理由に応じた率) |
| 公立保育園 | 退職手当=退職日の給料月額×支給率+調整額 |
| 株式会社など(基本給連動型の例) | 退職金=退職時の基本給×勤続年数別の支給率×退職理由別の係数 |
保育士の退職金にかかる税金
退職金は「退職所得」として、給与とは別に課税されます。勤続年数に応じた退職所得控除があるため、保育士の退職金は税金がかからないケースも少なくありません。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円未満の場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
出典:国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
たとえば、勤続20年で退職手当金が約572万円の場合、退職所得控除額は800万円なので、所得税・住民税はかかりません。勤続30年で約1,155万円の場合も、退職所得控除額1,500万円の範囲内です。
税金の優遇を受けるには、退職金を受け取る前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出します。提出しないと支給額の20.42%が源泉徴収され、確定申告での精算が必要です。退職した年の手続きは「退職金と年末調整」も参考にしてください。
保育士の退職金に関するよくある質問
パートや非常勤の保育士でも退職金はもらえる?
勤務先の制度によっては受け取れます。社会福祉法人で福祉医療機構の退職手当共済に加入している場合は、労働時間が正規職員の3分の2以上で、1年以上の雇用期間がある職員なども加入対象です。「パートだから対象外」と決めつけず、雇用契約の内容で確認しましょう。
自己都合で退職すると退職金は減る?
多くの制度で、自己都合退職は定年退職などより支給率が低くなります。公立保育園の場合、勤続10年の支給率は自己都合が5.022、定年退職などが8.37です(国家公務員の支給率に準じる場合)。退職時期を決める前に、勤務先の規程で確認しておきましょう。
退職金はいつ振り込まれる?
公立保育園は自治体の条例・規則、私立保育園は勤務先の規程や加入している共済制度によって異なります。中退共の場合は、請求を受け付けてからおおむね1か月〜2か月半程度で支払われるとされています。詳しくは「退職金はいつ振り込まれる?」をご覧ください。
転職すると退職金はどうなる?
退職金は勤続年数に連動する制度が多いため、短い期間で転職を繰り返すと受け取れる額が小さくなりがちです。社会福祉法人どうしの転職で退職手当共済の合算制度を使える場合もあるので、転職前に条件を確認しましょう。
保育士の退職金の相談先
退職金の悩みは、内容によって相談先が変わります。
| 相談したい内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 退職金制度の有無・支給条件 | 勤務先の人事・労務担当、自治体の担当部署 |
| 退職手当共済の手続き・見込額 | 福祉医療機構 |
| 退職金の未払い・トラブル | 労働基準監督署、社会保険労務士、弁護士 |
| 退職金にかかる税金 | 税務署、税理士 |
| 退職金の使い方・資産運用 | FP、IFAなどの金融アドバイザー |
退職金を受け取った後は、生活費や予備資金を確保したうえで、残りをどう活用するか考えましょう。退職金の運用を検討する場合は、手数料や取り扱う商品を確認したうえで、専門家に相談するのもひとつの方法です。
まとめ:保育士の退職金は勤務先の制度と勤続年数で決まる
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 社会福祉法人の保育園 | 退職手当共済で勤続10年約115万円、20年約572万円が目安 |
| 公立保育園 | 「給料月額×支給率+調整額」。勤続35年の定年退職なら支給率は47.709 |
| 株式会社などの園 | 勤務先の制度次第で、退職金制度がない場合もある |
| パート・非常勤 | 労働時間などの条件を満たせば退職手当共済の対象になる |
| 税金 | 退職所得控除の範囲内なら税金はかからない |

