役員が退任する際、退職金を支給する会社は少なくありません。ただし、役員退職金は一般社員の退職金より金額が大きくなりやすく、「いくらなら妥当なのか」「税務上、問題のない金額はいくらか」で悩む経営者も多いでしょう。
役員退職金は、適正な金額であれば会社の損金として扱える可能性があります。一方で、過大と判断された部分は損金算入が認められず、想定より法人税の負担が大きくなるおそれがあります。
そのため、役員退職金は「相場に近いか」だけでなく、会社の規程、役位、在任年数、最終報酬月額、功績、同業・同規模法人の水準などをもとに、支給額の根拠を残しておくことが重要です。
本記事では、役員退職金の相場の目安、金額を決める際の考え方、計算方法、税務上の注意点を解説します。
役員退職金の相場を知る
役員退職金は、役職ごとの平均額だけを見ても自社の適正額を判断するのは難しいものです。会社の規模や業種、在任年数、最終報酬月額、退任理由、本人の功績などによって、支給額は大きく変わります。
この章では、役員退職金の相場を把握するうえで確認したい基本情報と、役職別の平均支給額、金額に影響する主な要因を整理します。
相場はあくまで目安とし、実際の支給額は税務上説明できる根拠を残して決めることが大切です。
役員退職金の相場とは?
役員退職金には、すべての会社にそのまま当てはまる一律の相場はありません。企業規模、売上、業種、本人の会社への貢献度、在任年数、退任時の役員報酬月額などによって大きく変わります。
また、役員退職金の金額は、各企業の退職金規定や役員退職慰労金規程などに沿って決めるのが一般的です。そのため、同じ「社長」「取締役」であっても、会社ごとに支給額の幅は広くなります。
税務面では、役員退職金のうち適正な額は損金算入の対象になります。しかし、不相当に高額と判断された部分は損金算入できません。
現実的には、同業種・同規模法人の水準、退任する役員の役職、在任年数、最終報酬月額、会社への功績などを総合的に見て、説明できる金額にする必要があります。
役職別の退職金の相場は?
エヌエヌ生命が2020年3月に実施した「中小企業の退職金に関する調査」(全国の企業の役員・管理職10,000人を対象)によると、役位別の役員退職金の平均支給額は以下のとおりです。
社長:約2,476万円
取締役:約1,685万円
監査役:約1,150万円
上記は調査結果の平均であり、自社の適正額を保証するものではありません。実際に支給額を決める際は、自社の規程や過去の支給実績、同業・同規模法人の水準、役員本人の功績を確認しましょう。
退職金相場に影響する要因
役員退職金の相場に影響する主な要因は、企業規模、業種、役位、在任年数、最終報酬月額、退任理由、会社への貢献度です。特に社長や代表取締役は、会社経営への責任や功績が大きいため、取締役や監査役よりも高くなる傾向があります。
役員退職金そのものの比較ではありませんが、企業規模による退職金水準の違いを把握する参考として、一般従業員のモデル退職金データがあります。調査対象や集計方法が異なるため単純比較はできませんが、企業規模によって退職金水準に差が出やすいことが分かります。
主要企業 大学卒・満勤勤続:21,349千円
東京都内中小企業 大学卒・定年モデル:11,495千円
上記の差は約1,000万円です。役員退職金も一般社員の退職金と同じく、会社の規模や収益力、制度設計の影響を受けます。ただし、役員退職金は役職や功績、在任年数による個別性がさらに大きいため、一般従業員の退職金データは参考情報として扱いましょう。
- 主要企業の数値は中央労働委員会「令和7年賃金事情等総合調査」、中小企業の数値は東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」の一般従業員モデル退職金を参照
役員退職金の計算方法
役員退職金の算出方法は各企業によって異なりますが、一般的に広く用いられているのは「功績倍率法」です。
ここからは役員退職金の計算方法を解説します。
計算方法は主に2種類
役員退職金を計算するときに使われる代表的な方法は、「功績倍率法」と「1年当たり平均額法」です。実務上よく用いられるのは功績倍率法です。
役員退職金=最終月額役員報酬×在任年数×功績倍率
役員退職金=類似法人の退職給与の1年当たり平均額×役員勤続年数
例えば、社長の在任期間が5年、年額報酬が3,000万円(月額250万円)、功績倍率を3倍とする場合、功績倍率法では以下のように計算します。
役員退職金=250万円×5年×3倍=3,750万円
ただし、この計算結果が税務上必ず認められるわけではありません。類似法人の支給実績、役職、在任期間、退任事情などを踏まえて、過大と判断されない根拠を残すことが大切です。
役員報酬月額・在任年数と退職金の関係
功績倍率法は「最終月額役員報酬」を用いて算出します。厳密には基本給とは異なりますが、月額役員報酬が高いほど退職金額も大きくなりやすい仕組みです。
一方で、退職直前に役員報酬を大きく引き上げ、その金額をもとに退職金を計算すると、税務上の合理性を説明しにくくなる場合があります。最終報酬月額を使う場合は、報酬額の推移にも注意しましょう。
また、功績倍率法も1年当たり平均額法も、在任年数や役員勤続年数を反映します。長く会社に貢献した役員ほど、退職金額が大きくなりやすい点は共通しています。
それぞれの計算方法の注意点
功績倍率法は使いやすい一方で、最終報酬月額の影響を強く受けます。役員の月額報酬が著しく低い場合や無報酬の場合は、実態に合った金額を算出しにくいことがあります。
このような場合に検討されるのが、1年当たり平均額法です。1年当たり平均額法では月額報酬を使わないため、無報酬の役員でも退職金額を計算できます。
ただし、1年当たり平均額法にも注意点があります。類似法人の退職給与データを客観的に把握する必要があるためです。同業種・同規模法人のデータは入手しにくく、データ集や専門家の助言をもとに根拠を整理する必要があります。
税務調査などで退職金額が過大と指摘されないよう、計算方法、参照データ、支給決定の経緯を記録し、税理士と確認しておくと安心です。
役員退職金のメリット・デメリット
役員退職金は、適切に設計すれば会社と役員の双方にメリットがあります。会社側は適正額の範囲で損金算入できる可能性があり、役員側も退職所得控除などの税制上の優遇を受けられます。
一方で、支給額が大きくなりやすいため資金繰りへの影響があり、金額が過大と判断されれば税務上否認されるリスクもあります。
この章では、役員退職金の主なメリットとデメリット、制度を見直す際の注意点を整理します。
役員退職金のメリット
役員退職金を適切に設計すると、企業側にも役員側にもメリットがあります。
企業側のメリットは、適正額の範囲で損金算入できる点です。損金算入が認められれば、法人税の負担を抑える効果が見込めます。
また、退職時に支払われる退職金は、原則として社会保険料の対象となる報酬や賞与には該当しません。ただし、退職金相当額を在職中の給与や賞与に上乗せして前払いする場合は、社会保険料の扱いが異なる可能性があります。
退職金を受け取る役員側にもメリットがあります。退職金は長年の功労に対する報償や退職後の生活保障という性質があるため、税制上の優遇が設けられています。
退職金は他の所得とは分離して計算され、退職所得控除の対象になります。退職所得の受給に関する申告書を提出していれば、原則として退職金の支払者が所得税等を源泉徴収するため、受け取った人が確定申告をしなくてよい場合もあります。
課税退職所得金額の主な計算方法は、以下の表のとおりです。
| 退職手当等の区分 | 課税退職所得金額 |
|---|---|
| 一般退職手当等の場合 | (一般退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2 |
| 特定役員退職手当等の場合 | 特定役員退職手当等の収入金額-退職所得控除額 |
| 短期退職手当等の場合 | ①退職金の収入金額-退職所得控除額≦300万円の場合 (短期退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2 |
| ②退職金の収入金額-退職所得控除額>300万円の場合 150万円+{短期退職手当等の収入金額-(300万円+退職所得控除額)} |
役員等としての勤続年数が5年以下の退職金は、特定役員退職手当等として2分の1課税の対象外になる場合があります。短期退職手当等も通常とは計算が異なるため、支給前に退職手当等の区分を確認しましょう。
役員退職金のデメリット
役員退職金は一般の従業員よりも大きな金額になりやすいため、会社のキャッシュフローが一時的に悪化する可能性があります。支給時期が近づいてから資金を準備しようとすると、資金繰りに負担がかかることもあります。
また、損金算入を前提に役員退職金を支給しても、退職金額が過大と判断されれば、税務調査で否認されるおそれがあります。
節税効果だけを目的に金額を決めるのではなく、法人保険などを活用して退職金を積み立てる方法や、役員退職金の支給に備えて規程を整備する方法を検討しておきましょう。法人保険は契約内容によって税務処理が異なるため、導入前に税理士などへ確認することも重要です。
退職金制度を変更するときの注意点
ここでいう退職金制度の変更は、主に従業員向け退職金制度の見直しを指します。役員退職金規程とは別に、従業員の退職金制度を廃止・減額する場合は、労働条件の不利益変更に該当する可能性があります。
退職金は重要な労働条件のひとつです。制度を変更する場合は、変更の必要性や内容の合理性を整理し、従業員への説明や同意の取得、就業規則の変更手続きなどを慎重に進める必要があります。
廃止や減額を検討する場合は、基本給や賞与の見直し、代替制度の導入など、従業員への影響を軽減する措置もあわせて検討しましょう。
退職金支給が会社の負担になりすぎないよう、法人保険や確定拠出年金を活用した退職金準備を検討する方法もあります。企業型確定拠出年金の事業主掛金など、制度によっては損金算入できるものもありますが、対象者や制度設計を確認することが大切です。
共済制度などと組み合わせるときは、どのようなプランが自社に合うのか、税理士や社会保険労務士、IFAなどの専門家に相談して検討するとよいでしょう。
役員退職金の準備・運用でIFAに相談できること
IFAとは、独立系ファイナンシャルアドバイザーのことです。特定の金融機関に所属せず、金融商品仲介業者などとして、資産運用や金融商品の選定に関する相談を受ける専門家を指します。
ただし、役員退職金の適正額、損金算入の可否、税務申告の判断は税理士に確認すべき領域です。IFAには、退職金の準備資金の運用や、退職金を受け取った後の資産運用について相談すると役立ちます。
退職金の最適な対策の策定
IFAは幅広い金融知識をもとに、資産運用や金融商品の選定についてアドバイスできます。特に退職金など大きなお金が動くときは、経験豊富なIFAに相談し、さまざまな面から退職金の使い道を検討するとよいでしょう。
法人保険や確定拠出年金を活用して退職金を準備する場合も、金融商品や制度の特徴を理解したうえで選ぶことが大切です。IFAに相談すれば、リスク許容度や資金計画に合わせた選択肢を整理しやすくなります。
ただし、税務上の効果や会計処理は商品や契約内容によって変わります。最終的な判断は、税理士などの専門家とあわせて確認しましょう。
IFA分析による資産の見直し
確定拠出年金や法人保険で準備する退職金は、運用状況や会社の資金計画に応じて、定期的な見直しが必要になることがあります。
特に、確定拠出年金制度で運用する投資信託は、市況の影響を受けて日々価格が変動します。リスクを取りすぎていないか、資産配分が偏っていないかを定期的に確認しましょう。
自分で見直しをする自信がないときは、IFAに相談するのも選択肢です。現状のポートフォリオを分析し、リスクとリターンのバランスを踏まえた助言を受けられる可能性があります。
専門的なアドバイスによる悩み解消
IFAの中には、法人向けの資産運用や退職金準備に詳しい人もいます。相談する際は、法人向けの提案経験、取り扱える金融商品、税理士など他の専門家との連携体制を確認しておくと安心です。
法人向けの退職金準備では、資産運用、税務、労務、資金繰りが関係します。IFAだけで完結させるのではなく、税理士や社会保険労務士とも役割を分けて相談しましょう。
役員退職金の支給額を決める段階では税理士、退職金の準備資金や受け取り後の運用を考える段階ではIFAというように、相談先を使い分けることが大切です。
まとめ
本記事では、役員退職金の相場、計算方法、メリット・デメリットについて解説しました。
役員退職金には一律の相場がなく、役位、在任年数、最終報酬月額、功績、同業・同規模法人の水準などをもとに判断する必要があります。適正額の範囲であれば損金算入できる可能性がありますが、過大と判断された部分は損金算入が認められません。
支給額や税務上の扱いは税理士に確認し、退職金の準備や受け取り後の資産運用については、必要に応じてIFAにも相談しましょう。
無料相談を活用し、役員退職金の準備や退職後の資産運用について、早めに相談先を整理しておくことをおすすめします。
出典
エヌエヌ生命保険株式会社「役員退職金の相場/簡単シミュレーター/社長の功績倍率データ」
国税庁「No.5208 役員の退職金の損金算入時期」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
国税庁「No.2740 勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(短期退職手当等)」
厚生労働省「いわゆる退職金の前払いに係る社会保険料の取扱いについて」(発出日:2003年10月1日)
中央労働委員会「令和7年賃金事情等総合調査」
東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
国税庁「No.5231 確定給付企業年金等に係る課税関係」
厚生労働省「確かめよう労働条件 使用者による一方的な賃金の引下げ」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
日本証券業協会「金融商品仲介業者」

