退職金とは、勤務先を退職するときに受け取れることがあるお金のことだ。
ただし、退職金はすべての会社で必ず支給されるものではない。退職金制度の有無、支給対象者、勤続年数、退職理由、計算方法は会社ごとに異なる。
そのため、自分が退職金を受け取れるか、いくら受け取れるかを知るには、勤務先の就業規則や退職金規程を確認することが重要だ。
本記事では、退職金の基本知識、制度の種類、計算方法、税金、受け取った後の活用方法をわかりやすく解説する。
退職金にまつわる不安を減らし、退職後のお金を計画的に考えたい人は参考にしてほしい。
退職金とは?基本知識と制度の有無を押さえよう
まずは、退職金の定義や支給対象者、制度の種類を確認しておこう。
退職金は老後資金の一部になることも多いが、制度の内容を知らないまま退職すると、想定より少ない、そもそも支給されない、税金の扱いを誤るといった問題が起こりやすい。
退職金の定義と目的
退職金とは、従業員が勤務先を退職する際に、会社の制度に基づいて支給される金銭のことを指す。
名称は会社によって異なり、「退職手当」「退職一時金」「退職給付」などと呼ばれることもある。行政統計では、退職一時金や退職年金をまとめて「退職給付(一時金・年金)制度」と表現することがある。
退職金の目的は、長年勤務した従業員への功労報償、退職後の生活保障、人材の定着など会社によって異なる。定年退職時だけでなく、自己都合退職、会社都合退職、死亡退職などで支給される場合もある。
ただし、退職金制度は法律で一律に義務付けられている制度ではない。令和5年就労条件総合調査では、退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は74.9%、制度がない企業割合は24.8%だった。
つまり、約4社に1社は退職給付制度がない。退職金を受け取れるかどうかは、勤務先の制度を確認することが出発点になる。
退職金の支払い対象者
退職金を受け取れる対象者は、会社の就業規則や退職金規程によって決まる。
よく確認すべき項目は、以下の通りだ。
- 退職金制度の有無
- 支給対象者の範囲
- 最低勤続年数
- 自己都合退職・会社都合退職・懲戒解雇時の扱い
- 退職金の計算方法、支払方法、支払時期
退職金の対象者は正社員に限られるとは限らない。契約社員、パート、アルバイトなどについても、退職金規程で対象に含まれていれば支給される可能性がある。
一方で、パート・有期雇用労働者だから必ず退職金を請求できるというわけでもない。同一労働同一賃金の考え方では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に不合理な待遇差を設けることは避ける必要があるが、退職金の支給可否は職務内容、責任の程度、配置変更の範囲、制度の目的などを踏まえて判断される。
自分が対象になるか分からない場合は、雇用契約書、就業規則、退職金規程を確認し、人事・労務担当者に問い合わせよう。
退職金制度を定める場合は就業規則で確認できる
退職金制度を設けるかどうかは会社の判断だが、会社が退職手当の定めをする場合は、就業規則に退職手当の対象者、決定・計算・支払方法、支払時期を記載する必要がある。
そのため、退職金の有無や金額を知りたいときは、会社から口頭で説明を受けるだけでなく、退職金規程や就業規則の記載を確認することが重要だ。
求人票に「退職金制度あり」と書かれていても、勤続3年以上、正社員のみ、自己都合退職は減額などの条件が付くことがある。退職前だけでなく、入社前や転職時にも確認しておきたい。
企業ごとの退職金制度の違い
企業が導入する退職金制度は、主に以下の4種類に分けられる。
退職時に、会社から一括で退職金を受け取る制度である。一般的に「退職金」と聞いてイメージされやすいのは、この退職一時金制度だ。
従業員にとっては、退職時にまとまった資金を受け取れる点がメリットである。住宅ローンの返済、生活費、医療費、老後資金などに使いやすい。
一方で、一度に大きなお金を受け取るため、使いすぎや運用失敗に注意が必要だ。会社側にとっては、退職者が集中すると資金負担が大きくなる場合がある。
確定給付企業年金制度は、企業が従業員と給付内容をあらかじめ約束し、その内容に基づいて給付を行う企業年金制度である。
給付内容があらかじめ定められているため、従業員は将来の給付を見通しやすい。年金資産は企業年金側で管理・運用され、運用リスクは企業側が負う。
ただし、受け取り方や一時金選択の可否は会社の制度によって異なる。自分で自由に運用商品を選ぶ制度ではない点も押さえておきたい。
企業型DCは、会社が掛金を拠出し、従業員自身が運用商品を選ぶ制度である。将来の給付額は、拠出された掛金と運用成果によって決まる。
運用成果によって資産を増やせる可能性がある一方、選んだ商品によっては元本割れする可能性もある。
また、転職や退職時には年金資産の移換手続きが必要になる場合がある。退職時にすぐ現金で受け取れる制度とは限らないため、制度内容を確認しておこう。
中退共は、主に中小企業の常用労働者を対象とした退職金共済制度である。会社が掛金を負担し、従業員が退職したときに中退共から退職金が支払われる。
中小企業にとっては、独力で退職金制度を設けにくい場合でも、外部制度を活用して退職金を準備できる点がメリットだ。新規加入や掛金増額に対する国の助成制度もある。
ただし、掛金納付月数が11ヶ月以下の場合は原則として退職金が支給されない。12〜23ヶ月では掛金総額を下回り、24〜42ヶ月では掛金相当額、43ヶ月以降は運用利息や付加退職金が加算される仕組みである。
退職金の計算方法を理解する
退職金をどのように計算するかは、会社の退職金規程によって異なる。
ここでは代表的な計算方法を紹介するが、実際の金額を知るには、自社の就業規則や退職金規程を確認する必要がある。
基本給と勤続年数をもとにした計算方法
退職一時金でよく見られるのが、退職時の基本給、勤続年数、退職理由をもとに計算する方法である。
退職金=退職時の基本給×勤続年数に応じた支給率×退職理由に応じた係数
たとえば、基本給30万円、勤続年数に応じた支給率5.0、退職理由係数1.0の場合、退職金は150万円となる。
ただし、この支給率はあくまで計算イメージであり、法律で決まった標準率ではない。会社によっては、自己都合退職の係数を低く設定したり、勤続年数が一定未満の場合は支給しないと定めたりしていることがある。
退職金の代表的な計算方式には、以下のようなものがある。
- 基本給連動型:退職時の基本給に、勤続年数や退職理由に応じた支給率を掛けて計算する方式
- 定額方式:勤続年数ごとに、あらかじめ退職金額を決めておく方式
- 別テーブル方式:基本給とは別に、勤続年数、役職、退職理由などに応じた表で計算する方式
- ポイント制方式:勤続年数、役職、評価などをポイント化し、累積ポイントに応じて計算する方式
基本給連動型では昇給が退職金に影響しやすいが、定額方式やポイント制方式では、基本給が上がっても退職金に直接反映されない場合がある。
労働条件や退職理由による計算の違い
退職金は、雇用形態や退職理由によって計算方法が変わることがある。
たとえば、正社員には退職金制度があっても、契約社員やパートには別規程が用意されている会社がある。また、自己都合退職は会社都合退職や定年退職より支給率が低くなるケースもある。
退職前に確認したいのは、以下の3点だ。
- 自分の雇用形態が退職金の支給対象に含まれているか
- 最低勤続年数の条件を満たしているか
- 自己都合退職・会社都合退職・定年退職で支給率が変わるか
同じ勤続年数でも、退職理由が違うだけで退職金額が大きく変わることがある。転職を予定している場合は、退職時期や退職理由による支給率の違いを早めに確認しておこう。
税金や社会保険料の影響
退職金を一時金として受け取る場合、原則として「退職所得」として扱われる。退職所得は給与所得とは分けて税額を計算し、退職所得控除を使える。
また、退職時に一時金として支払われる退職金は、これまで報酬とみなされず、社会保険料の対象とはされていない。
ただし、退職金相当額を在職中に給与や賞与へ上乗せして支給する「退職金前払い制度」では、社会保険料の扱いが異なる場合がある。退職金の受け取り方によって手取り額が変わる可能性があるため、制度内容を確認しておきたい。
年金形式で受け取る場合は、公的年金等に係る雑所得として毎年の所得に含まれる場合がある。所得税・住民税だけでなく、社会保険料への影響も確認しておこう。
退職金の税制対策のポイント
退職金はまとまった金額になりやすいため、税金の扱いを理解しておくことが大切だ。
特に、一時金で受け取るか、年金形式で受け取るか、同じ年に複数の退職金を受け取るかによって、税額や確定申告の要否が変わる場合がある。
一括受け取りでは退職所得控除を確認する
退職金を一時金として受け取る場合は、退職所得控除を使える。退職所得控除額は勤続年数によって以下のように計算される。
- 勤続年数が20年以下の場合:40万円×勤続年数
※80万円に満たない場合は80万円 - 勤続年数が20年超の場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
勤続年数に1年未満の端数がある場合は、税金計算上は1年に切り上げる。たとえば勤続10年2ヶ月なら、勤続年数は11年として計算する。
退職所得の金額は、原則として以下の計算式で求める。
(退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2
ただし、役員等勤続年数が5年以下の人が受け取る特定役員退職手当等は、2分の1課税が適用されない。また、役員等以外でも勤続年数5年以下の短期退職手当等に該当する場合、退職金から退職所得控除額を差し引いた額のうち300万円を超える部分には2分の1課税が適用されない。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、勤務先が退職所得に対する所得税・復興特別所得税を計算し、源泉徴収するため、原則として確定申告は不要である。
ただし、医療費控除や寄附金控除を受ける場合、同じ年に複数の退職金を受け取る場合、前年以前に退職金を受け取ったことがある場合などは、退職所得控除額の計算が異なることがある。必要に応じて税務署や税理士に確認しよう。
ふるさと納税は退職金だけで上限が大きく増えるとは限らない
退職した年にふるさと納税を検討する人もいるが、退職所得を理由に寄附額を大きく増やすのは注意が必要だ。
ふるさと納税の控除限度額は、主に住民税の所得割額をもとに算定される。しかし、退職所得は原則として支払いを受ける年に源泉分離課税されるため、ふるさと納税の控除限度額の算定に使う所得割額には含まれない。
つまり、退職金を一時金で受け取ったからといって、ふるさと納税の控除上限額が大きく増えるとは限らない。給与、年金、事業所得など他の所得も含めて、その年の控除上限額を確認しよう。
また、確定申告を行う場合は、ワンストップ特例を申請していても、寄附金控除を確定申告に含める必要がある。退職年は所得状況が変わりやすいため、寄附前に上限額を慎重に見積もることが大切だ。
損益通算は対象所得と条件を確認する
事業所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得で損失が生じた場合、一定の条件で損益通算の対象になることがある。
- 不動産所得
- 事業所得
- 譲渡所得
- 山林所得
ただし、すべての赤字を退職所得から差し引けるわけではない。たとえば、雑所得の損失や、生活に通常必要でない資産に係る損失などは、他の所得と通算できない場合がある。
損益通算を行う場合は確定申告が必要になる。退職金を受け取った年に事業や不動産投資などで損失がある場合は、自己判断せず、税理士や税務署に確認しよう。
税制対策よりも資金管理を優先する
退職金は税金の負担を抑えることも大切だが、節税だけを優先すると、退職後の生活資金を見誤ることがある。
一時金で受け取る場合は、まとまった資金を使いすぎるリスクがある。高額な買い物、リフォーム、旅行などに使う前に、生活費、税金、医療費、介護費、住宅ローン、緊急資金を分けて考えよう。
退職金をすぐにすべて運用へ回すのも避けたい。投資には値下がりリスクがあるため、当面使うお金と長期で運用できるお金を分けることが重要である。
退職金を活用する方法|使う時期ごとに資金を分ける
退職金を有効に活用するには、「増やす」ことだけでなく、「必要なときに使える状態を保つ」ことも重要だ。
まずは、退職金を以下のように分けて考えると判断しやすい。
- すぐ使うお金:生活費、税金、引っ越し費用、医療費など
- 数年以内に使うお金:住宅修繕費、車の買い替え費用、教育費など
- 長期で運用できるお金:老後資金、余裕資金、相続も見据えた資金など
退職後は収入が減る一方、医療費や介護費など予測しにくい支出が増える可能性がある。生活費の数ヶ月分から1年分程度の緊急資金を確保したうえで、運用を検討するとよい。
NISAを活用する場合、2024年からの制度では非課税保有期間が無期限となり、年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は最大1,800万円となっている。
ただし、NISAを使っても投資元本が保証されるわけではない。退職金は老後の生活資金としての性格も強いため、値下がりしても生活に支障が出ない範囲で活用しよう。
退職金の運用はどこに相談すればいいか
退職金の使い道や運用方針に迷う場合は、専門家に相談する選択肢がある。
ただし、相談内容によって適した専門家は異なる。資産運用はIFAや金融機関、家計全体の整理はファイナンシャルプランナー、税金の個別判断は税理士、社会保険や年金は社会保険労務士、退職金の未払いなど法的な問題は弁護士が相談先になる。
IFAとは何か?
IFAとは、Independent Financial Advisorの略で、独立系ファイナンシャル・アドバイザーと呼ばれる。
日本では金融商品仲介業者として、顧客のライフプランやニーズに合った長期の資産形成のために、金融商品の選定、制度活用の提案、売買取引の支援などを行う。
IFAは複数の金融機関と業務提携している場合があり、金融機関の営業方針から一定程度独立した立場でアドバイスを行うことがある。一方で、取り扱える商品や手数料体系はIFA法人ごとに異なるため、相談前に確認が必要だ。
IFAに相談できる退職金の内容
IFAに退職金の相談をする場合、主に以下のような内容を相談できる。
- 退職金を預貯金・運用資金・生活費に分ける考え方
- NISAやiDeCoなどの制度活用
- リスク許容度に応じた投資信託、債券、株式などの選び方
- 退職後の資産取り崩しの考え方
- ライフプランに応じた資産配分の見直し
退職金は一度に大きな金額を受け取るため、短期間で判断してしまいがちだ。相談する前に、退職金額、毎月の生活費、住宅ローン、年金見込み額、保有資産、今後の大きな支出を整理しておくと、具体的な相談がしやすい。
IFAに相談する前に確認したいこと
IFAは退職金運用の相談先の一つだが、相談すれば必ず有利になるわけではない。投資には元本割れのリスクがあり、提案される金融商品には手数料や運用管理費用がかかる。
相談前には、以下を確認しておきたい。
- 相談料や手数料の仕組み
- 提携している金融機関
- 取り扱える金融商品の範囲
- 利益相反についての説明
- 提案商品のリスク、費用、解約条件
また、税務申告や個別具体的な税額判断は税理士の専門領域である。退職金の税金、ふるさと納税、損益通算、複数の退職金の扱いで迷う場合は、税理士や税務署にも確認しよう。
まとめ
退職金は、退職後の生活を支える大切なお金だ。ただし、すべての会社で必ず支給されるものではなく、退職金制度の有無や計算方法は会社ごとに異なる。
自分が退職金を受け取れるか知りたい場合は、まず就業規則や退職金規程で、支給対象者、最低勤続年数、退職理由ごとの支給率、支払時期を確認しよう。
退職金を受け取るときは、退職所得控除、社会保険料への影響、ふるさと納税、損益通算、複数の退職金の扱いなども確認しておきたい。特に税金の判断が複雑な場合は、税理士や税務署に相談すると安心だ。
受け取った退職金は、すぐ使うお金、数年以内に使うお金、長期で運用できるお金に分けて考えると判断しやすい。運用を検討する場合は、元本保証ではない点を理解し、必要に応じてIFAなどの専門家に相談しよう。
出典
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況 退職給付(一時金・年金)制度」
e-Gov法令検索「労働基準法」
厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」
厚生労働省「中小企業退職金共済制度(中退共制度)」
中小企業退職金共済事業本部「退職金」
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
企業年金連合会「確定給付企業年金(DB)」
厚生労働省「いわゆる退職金の前払いに係る社会保険料の取扱いについて」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」
国税庁「No.2250 損益通算」
八王子市「退職所得は、ふるさと納税控除限度額に影響しますか。」
金融庁「NISAを知る」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」

