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【弁護士監修】退職金トラブルを未然に防ぐ 事例と対応法

会社の従業員にとって退職金が支給されるか否かは、退職後の生活設計において重要な問題です。

それゆえ、労働基準法では、退職金を支給する場合、適用される従業員の範囲、退職金の決定・計算・支払方法および支払時期を明記することとされています(労基法89条3号の2)。

しかしながら、裁判例をみますと、退職金の支払いを巡って争われる事案が多く見られます。

ここでは、退職金を巡るよくあるトラブル事例とその対応法をご紹介します。

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目次

就業規則に定めのない退職金

事例

Aさんは、入社する際、退職金はないと聞いていました。しかし入社してみると、一部の退職者に退職金が支払われていることが分かりました。

就業規則には退職金の定めはありませんが、社長の判断で退職金を支払うか否か、支払う場合の金額を決めているようでした。 Aさんが退職する際、退職金を請求できるのでしょうか。

結論

原則として請求できません。

ただし、退職金の支給が慣行となっていると認められる場合は請求できます。

理由

就業規則(退職金規程も含む)は、従業員と会社間の雇用契約の内容となります。就業規則に退職金について定められていなければ、会社に退職金の支払義務は生じません。

就業規則などで明示の定めはないが、会社が明示されていない労働条件を長年行っているような場合に、労使慣行としてその労働条件が法的拘束力を有すると解されています。

この点、裁判所は、労使慣行が認められるには次の3つの要件を満たすこととしています(横手ビルディング事件東京地判H27.6.23など)。

  1. 労使慣行が長期間にわたって反復継続していること
  2. 当該労使慣行に対し労使双方が明示的に異議をとどめていないこと
  3. 当該労使慣行が労使双方に、特に使用者側で当該労働条件について決定権又は裁量権を有する者に規範として認識されていること

社長の判断で退職金の支給の有無を決定している本件では、特に上記③の要件を満たすことは難しいと考えます。

対応法

社長の判断という極めて主観的な方法で退職金の支給の有無を決めていますが、退職金の支給が雇用契約の内容となっていない以上、社長の判断に委ねざるを得ないと思われます。

労使慣行を主張する場合、これが成立していることについては、退職金を請求する従業員が証明する必要がありますが、一従業員が立証することは困難と思われます。

なお、裁判例の中には、退職金規程はないが、退職金の支給基準や金額について内規が定められて、長年、内規に従って退職金が支給されてきた事案で、内規で定めた基準で退職金を支給する労使慣行の成立を認めた事案(キョーイクソフト事件東京高判H18.7.19)などがあります。

退職金支給基準を就業規則に明示することを労使交渉していくことが必要になると思われます。

退職金制度の不利益変更

事例

Bさんが30歳で中途入社した会社は、退職金規程があり、定年(60歳)まで勤めれば、約1200万円の退職金が支給される見込みでした。

Bさんが55歳の時、不況の影響で、会社の業績が一時的に大きく悪化し、会社は労働条件を見直し、就業規則が変更され、退職金制度も改定されました。

新しい退職金制度によれば、Bさんの定年時に支給される退職金は約600万円になる計算でした。 なお、会社は希望退職を募集し、定員に達したため、退職金制度を変更しなくても、不況を乗り切ることはできました。

また、退職金額が大きく減額となって世代は50〜55歳でした。他方、若い世代40歳未満については増額となる場合があり、また、56歳以上の減額幅は小さく抑えられていました。

Bさんは、改定前の旧退職金制度に基づく退職金を請求することができるでしょうか。

結論

請求が認められる可能性が高いと考えます。

理由

就業規則は、会社と従業員の間の労働契約の内容となります。このため、会社が一方的に就業規則を変更することはできません。

もっとも、会社による就業規則の不利益変更を認めることができる場合として、最高裁判所(秋北バス事件最判昭和43年12月25日)は、「新たな就業規則の作成または変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、労働条件の統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」と判示しています。

また、退職金や賃金などの労働者の重要な労働条件に関する不利益変更について、最高裁判所(第四銀行事件最判平成9年2月28日)は、「特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである」と判示しています。

就業規則の不利益変更が合理的であるか否かは、次の事情等を総合的判断することとなります。

  1. 労働者の受ける不利益の程度
  2. 労働条件の変更の必要性
  3. 変更後の就業規則の内容の相当性
  4. 労働組合等との交渉の状況

本件において、Bさんの退職金は約半額の600万円減額されることになります。これは相当大きな不利益といえます。

他方、会社は、一時的な業績悪化となったとはいえ、希望退職で乗り切ることができたという事情があります。変更後の退職金制度では、若い世代の退職金が増額されるということから、新退職金制度の内容が相当なものといえるか疑問です。

労働組合等との交渉との交渉状況は不明ですが、以上見ただけでも不利益の合理性に疑問が生じる内容といえます。

対応法

会社が労働条件を改める場合、従業員に不利益な変更は、原則として認められません。このため、不利益変更の内容が合理的であることは、会社側がきちんと根拠を示して説明する必要があります。

特に退職金の不利益変更については、高度の必要性が求められ、合理性は厳しく判断されます。本件のように、一部の世代に重い負担がかかるような退職金の切り下げについて、裁判所は、合理性を認めない傾向にあります。

このため、会社との交渉にあたる労働組合ないし労働者代表者から会社の説明を聴き、一方的な不利益変更ができる場合に該当するかをよく確認する必要があります。

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懲戒解雇と退職金の減額

事例

勤続13年のCさんは、Cさんの妻がCさんの上司に告発したことで、私生活上で不倫をしていたことが会社に発覚しました。ファミリー層を相手にビジネスをしていた会社は、事態を重くみて、Cさんを懲戒解雇としました。

この会社の退職金規程には、懲戒解雇の場合に退職金を支給しない旨定められていたことから、会社は、Cさんに退職金を支給しないこととしました。

本来、Cさんの退職金は200万円が支給される予定でした。 Cさんは処分内容と退職金不支給について会社に異議を述べましたが、会社の決定は変わりませんでした。Cさんは退職金を支払ってもらえないのでしょうか。

結論

支払ってもらえる可能性が高いと考えます。ただし、事情に応じて一定程度減額される可能性があります。

理由

  1. 懲戒処分の有効性

不倫は非難されるべき行為ですが、私生活上の行為であり、基本的に会社とは関係がありませんので、原則として会社は不倫したという事実のみで懲戒解雇することはできません。

不倫をした事実が会社内での職場環境を悪化させたり、取引先や顧客からクレームが生じるなど会社に具体的な影響を与えたという事情がある場合に限り、懲戒処分が可能となります。懲戒処分の中でも懲戒解雇はもっとも重い処分であり、相当程度職場環境に悪影響を与えるなどの事情が必要となります。

本件の詳しい事情によっては、Cさんになされた懲戒解雇自体を無効として争うことができます。懲戒解雇が無効と認められれば、Cさんは職場に復帰できることになります。

  1. 退職金減額の可否

仮に、懲戒解雇が有効であるとしても、退職金を減額できるか、減額できるとしてどの程度できるかは、別途検討が必要です。

まず、会社が退職金を減額するには、就業規則や退職金規程に根拠が必要です。

こうした減額を根拠付ける規定がなければ、退職金を減額することはできません。

そうした根拠規定がある場合でも、退職金の減額の可否については、退職金の性格から検討が必要となります。

裁判例によれば、退職金には、賃金の後払的性格、功労報償的性格があることから、その従業員の行った非違行為が、それまでに従業員として培った功労を無にする程度であるか否かによって、減額の可否および減額幅を決定しています。

例えば、鉄道会社の従業員(約11年勤務)が、飲酒して電車に乗車中に女性に痴漢行為を働いたとして迷惑防止条例で罰金刑に処されたことから、会社はその従業員を懲戒解雇とし、退職金を不支給とした事案で、裁判所は、懲戒解雇は有効としながら、その従業員の過去の功労(勤務態度や服務実績等)と非違行為の態様(悪質であるが私生活上の行為で会社の信用低下を招いていない等)を踏まえて、本来の退職金の3割を支給するのが相当と判断しました(小田急電鉄事件東京高判H15.12.11)。

本件においても、Cさんの過去の功労と非違行為の態様を踏まえて、退職金の不支給が妥当かを検討すべきこととなります。その結果、一部が支給される可能性があると考えます。

対応法

一般的な退職金規程では、「懲戒解雇の場合は、退職金を支給しない。ただし情状により一部支給することがある」のような不支給・減額規定が見られます。

上記のとおり、懲戒処分と退職金の支給は、別に考える必要があります。

懲戒解雇=退職金不支給ということにはなりません。それまでの功労を帳消しにしてしまうほどの非違行為をしたか否かがポイントになります。

こうした処遇を受けた場合は、弁護士に相談し、ありのままの事実を伝え、懲戒解雇を含め退職金の不支給が妥当か否かを検討することが肝要です。

会社の倒産と退職金

事例

Dさんは、会社(退職金制度あり)に勤務して20年が経ちました。

会社の業績が振るわず、先行きを心配していたところ、ある日突然、会社から、破産を申し立てることになり、従業員は明日付で解雇する旨告げられました。

Dさんの退職金は400万円くらいになる計算です。Dさんは、退職金を支払ってもらえるでしょうか。

結論

会社の資産の状態、外部の退職金制度の利用の有無等により、支給される場合とそうでない場合があります。

理由

  1. 支給される場合
  • 中小企業退職金共済事業(中退共)の退職金制度を利用している場合
    • 中退共は、会社外で運用される退職金制度ですので、会社の倒産にかかわらず、所定の退職金が支給されます。
  • 中退共を利用していない場合
    • 未払賃金立替制度を利用できる場合                                     次の要件を満たす場合、退職金についても、独立行政法人従業員健康安全機構が運営する未払賃金立替制度が利用できます。
      • 会社が1年以上事業活動を行っていたこと
      • 倒産したこと(法律上の倒産だけでなく事実上の倒産を含む)
      • 従業員が、倒産について裁判所への申立(法律上の倒産の場合)または労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者であること

支給額は未払となっている賃金(退職金を含む)の8割ですが、退職時の年齢に応じて、次のとおり立替払の上限が設けられています。

45歳以上296万円
30歳以上45歳未満176万円
30歳未満88万円

なお、未払賃金立替制度による未払賃金が支給されるまでに、ある程度時間がかかります。

  • 上記以外の場合
    • 未払賃金立替制度を利用できない場合、あるいは未払賃金立替制度を利用しても支払われない退職金がある場合、そうした退職金を含む未払賃金は、会社が法律上の破産手続等を経ているときは、法律上の手続に従うこととなります。
    • 退職金を含む未払賃金は、破産法上、優先的に支払われるように扱われています。この場合でも会社資産の状況、債権者数によって支給額が異なります。多くの場合、全額の回収は厳しいと思います。
  1. 支給されない場合

中退共の退職金制度を利用しておらず、未払賃金立替制度を利用できない場合で、会社が法律上の倒産手続をとっていても、会社に資産がないときには、退職金は支給されません。

また、会社が事実上の倒産した場合(いわゆる経営者が夜逃げした場合)に払賃金立替制度を利用できない場合も、事実上、退職金の支給は望めません。自力で会社の財産を持ち出して売りさばくことは住居侵入罪等違法行為となってしまいます。

対応法

まず、退職金制度が中退共を利用しているか否かを確認しておくとよいと思います。

いざ会社が倒産となったときは、多くのケースでは、未払賃金立替制度が利用可能と思われます。法律上の倒産手続においては、会社代理人や破産管財人の方である程度必要書類を準備してくれますが、従業員自身で申請が必要となりますので、かならず期限内に申請を忘れないようにしましょう。

また、会社が事実上倒産をした場合、弁護士に相談して、会社に資産があるときはその資産を差し押さえたり、会社代表者の個人資産を調査して差し押さえたりして回収を図るほかありません。

夜逃げをするような経営者の場合、こうした資産も処分等していることが多いと思われますので、多くは期待できません。

まとめ

退職金は、労働基準法などで定められておらず、その制度については就業規則で定めることが予定されています(労働基準法89条3号の2)。

入社時に交付される就業規則を確認し、退職金制度を自社で運用しているか、外部の制度を利用しているか、自社で運用している場合にその制度内容(支給条件、支給額の計算、支給時期、減額事由など)を把握しておくことが肝要です。

退職金は、将来的な給付になりますので、退職金制度があることで安心しがちです。

しかし、長い会社勤務の中で、何が起きるか分かりません。

退職後の人生設計において退職金は重要になりますので、退職金制度には関心を持っておくことが大切だと考えます。

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執筆者

大橋 卓生のアバター 大橋 卓生 弁護士 パークス法律事務所

株式会社東京ドームにおいて人事部・法務部の勤務経験をした後、弁護士となり、企業法務、スポーツ・エンターテインメント法務を中心に活動しています。
また、金沢工業大学虎ノ門大学院(メディア・エンターテインメント領域)にて教授としてMBAおよび知的財産管理について教鞭をとっています。

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