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【弁護士監修】退職金の一般的な法律知識

我が国では、勤続年数に応じて、時にはかなり高額な退職金が支給されることがあります。一時金としての退職金に代えて、または、それと併用して、退職年金が採用される場合もあります。

このような退職金は、就業規則などで定められている場合は、会社から恩恵的に受けられるものではなく、従業員の権利として法的に保護されるものとなります。

そこで、法律における退職金の位置づけ、一般的な退職金制度の設計はどうなっているのか、退職金の法的性格はどのように理解されているのか、退職金の支給に関して法的に問題となるケースを整理してみたいと思います。

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目次

法律における退職金の位置づけ

労働基準法上、退職金に関する定義はありません。労働基準法では、「退職手当の定めをする場合」には、その支給条を就業規則に明記すること(労働基準法89条3号の2)とされています。しかし、退職金の定義や法的性格に関する規定はありません。

退職金は法律上義務付けられた制度はなく、労働契約においてその支給が根拠づけられる場合に認められるものとなります。

一般的な退職金制度の設計について

一般的な退職金に関する定め

退職金制度は、労働基準法等で義務付けられたものはありません。

そのため、支給条件要は、各会社の就業規則などによって定められます。

この点、通常就業規則には、①退職金の支給要件、②支給額の計算方法、③退職金の支払い方法及び支払時期、に関する定めが盛り込まれていおり、厚生労働省のサイトに掲載されているモデル就業規則にも同様の規定が盛り込まれています

①退職金の支給要件

退職金の支給については、一定の勤続年数を経過していることが支給要件とされるのが一般的です。

②支給額の計算方法

従来の退職金の支給額は、退職時の基本給の額に勤続年数に応じた支給率を乗じて計算するのが一般的です。

なお、これとは別に、ポイント単価と支給ポイントを設定して、退職時の支給額を計算するという、成果主義型の計算方法もあります。

支給率や支給ポイントについては、自己都合と会社都合(定年退職含む)とで分けられ、自己都合退職の方が低く設定されているのが通常です。

③退職金の支払い方法及び支払時期

退職金の支給日は、就業規則(退職金規程)や労働契約で定めた日となります。就業規則等で支給日が明記されていない場合、従業員が請求をした後7日以内に支給することとなります(労働基準法23条1項)。

退職金支払いのための原資の確保について

退職金制度を設ける場合、退職金の支払を確保するため、一定程度積み立てが必要となります。

会社外部の退職金制度を利用する場合もあります。中小企業退職金共済法に基づく各種退職金制度があります。

この制度の運営は、中小企業退職金共済法に基づき設立された独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)があたっています。

この制度は、会社が機構に一定額の掛金を支払い、退職時に機構が従業員に退職金を支払うものです。

加入するのは会社ですが、この退職金請求権は会社ではなく直接被共済者である従業員に帰属します。

退職金と相続

就業規則では、従業員が死亡した場合も退職金(死亡退職金)が支払われる旨規定されていることが少なくありません。

従業員が死亡した場合の退職金の受取人が就業規則等で定められている場合、その退職金は受取人固有の財産になります。

他方、就業規則等で死亡退職金の受取人が指定されていない場合、死亡退職金は、相続財産として扱われることになりますので、遺言や相続人の協議によって分配されることになります。

退職金の法的性格

退職金の法的性格についても、法律上特に定めはありません。判例や学説においてにおいては、以下のような性格を併せ持ったものと考えられています。

功労報償的性格

退職金は、長年会社に勤務したことによる会社への貢献を評価する側面、すなわち、功労報償的性格を有すると解されています。

判例には、懲戒解雇の場合に退職金を不支給とする条項があったとしても、懲戒の対象となる非違行為の内容が、従業員の過去の功労報償を失わせる程度の著しい背信的な事由が必要であると判示したものがあります(小田急電鉄(退職金請求)事件(東京高判平成年12月11日))。

賃金後払的性格

就業規則や労働契約において退職金の支給条件が明確に定められている場合、退職金は労働の対価として退職時に支払われるということになります。このため、退職金は、労働基準法上の賃金の後払的性格を有していると解されています。

就業規則で支給条件が明確に定められている場合、労働基準法上の賃金に関する規定(全額払の原則など)が適用されます。

このため、後述するように、退職にあたり従業員が会社に対して債務を負っている場合、その債務の支払に充てるべく退職金と貸付金とを一方的に相殺することは認められません。

生活保障的性格

退職金は、従業員の退職後の生活を保障する性格も有していると解されています。

前述の小田急電鉄(退職金請求)事件判決においては、退職金は「従業員の退職後の生活保障という意味合いも有する」として、生活保障的性格を有することも認められています。

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退職金の支給に関して法的に問題となるケース

懲戒解雇等における退職金の不支給・減額

懲戒解雇等の場合に退職金を不支給としたり、一定程度減額することを就業規則に取り入れるケースもあります。

このような規定がある場合でも、その従業員の会社に対する貢献等を考慮せずに、不支給ないし減額としてしまうことは、違法となる可能性が高いといえます。

また、退職金の全額不支給が認められるには、従業員の非違行為が犯罪行為に匹敵するような強度の背信性を有することが必要と解すべきでしょう。

全額不支給ではなく、減額の場合でも、従業員のそれまでの勤続の功を抹消してしまうか、減殺してしまう程度の著しく信義に違反する行為が必要と解すべきでしょう。

退職金からの控除

従業員が長期に休職をしており、社会保険料の従業員負担分が未払になっている場合、従業員が会社から資金の貸し付けを受けていてその返済が未了の場合などに退職する場合、未払の社会保険料や未返済の貸付金を、退職金と相殺する形で、返済に充てることができるか問題となります。

就業規則等で支給条件が明確に定められている退職金は、賃金に該当し、全額払の原則(労働基準法24条1項本文)が適用されます。全額払いの原則からは、会社が一方的に賃金から貸金などを控除(相殺)することはできません。

例外的に、賃金控除に関する労使協定を締結した場合、労使協定で定めた金員については退職金から控除することが認められます(労働基準法24条1項ただし書)。

こうした労使協定が存在しない場合でも、裁判例においては、従業員の自由な意思に基づいてなされたと認められる合理的な理由が客観的に存在する場合には有効になるとしたものがあります(日新製鋼事件(最判平成2年11月26日))。

退職金の減額・廃止

入社後に退職金制度が変更され、従前の退職金から減額となる場合や退職金そのものが廃止される場合、これはすでに成立した労働契約の内容を従業員に不利益に変更することになります。

こうした労働条件の不利益変更は、原則とし、会社が一方的に行うことはできません(労働契約法9条)。

例外的に会社が一方的に労働条件の不利益変更を行うことができる場合として、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」とされています(労働契約法10条)。

退職年金

年金方式での退職金の運用は、自社で年金制度を設ける方法(公的な制度を利用せず、会社が金融機関等との契約で設定するもの)もありますが、一般的には厚生年金基金、確定給付企業年金制度、確定拠出企業年金制度によるものがあります。

この点、一時金の退職金制度を年金方式に切り替える場合、先に述べた就業規則の不利益変更の問題が生じます。単純に一時金と年金の額を比較できないため、変更の合理性の判断は難しくなります。

次に、年金方式の退職年金の運用を開始した後に、退職年金を減額したり、廃止したりする場合が考えられます。この場合、現役の従業員に対しては、就業規則の不利益変更の問題として対処することになります。

問題は、既に会社を退職して退職年金を受給している元従業員に対して、退職金の減額や廃止の効力が及ぶかです。

この点、裁判例においては、就業規則の不利益変更の判断基準を類推するものや事情変更の法理などを適用して検討したものがありますが、減額を認めるのは厳格に判断しています。

即時の減額・打ち切りをすることは認められず、関係者と十分協議をし、代償措置を講じたうえ、時間を経過的に減額ないし廃止をするという不利益を緩和する措置も必要になるところです。

まとめ

退職金は就業規則で定められている場合は従業員の権利として認められる者です。

退職金制度は、各会社の就業規則等によって定められますので、自社の退職金制度がどのようになっているか、就業規則(退職金規程)や労働契約書の内容を確認して把握することが必要となります。

就業規則に不支給や減額に関する規定があっても常にそのまま適用されるとは限りません。

万一、退職金についてトラブルが生じた場合、就業規則(退職金規程)や労働契約書を持参した上で、専門家に相談することをお勧めいたします。

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執筆者

鈴木一のアバター 鈴木一 弁護士 パークス法律事務所

1994年3月 青山学院大学法学部卒業
2002年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会)
2002年10月 津山法律事務所
2004年9月 弁護士法人渋谷シビック法律事務所
2006年2月  虎ノ門協同法律事務所
2021年8月 パークス法律事務所
一般市民事件、企業法務案件、訴訟案件等、幅広く手がけています。

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