社会福祉法人で働いている人の中には、「20年働いたら退職金はいくらもらえるのか」「福祉医療機構の退職手当共済制度に加入しているのか」と気になっている人も多いだろう。
結論からいうと、社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入している場合、20年間勤務して退職し、退職時本俸月額が28万円のケースでは、退職手当金の支給例は572万4,600円である。
ただし、これは「社会福祉法人全体の平均額」ではなく、福祉医療機構が示している退職手当共済制度の支給例だ。実際の退職金額は、勤務先の退職金制度、福祉医療機構の退職手当共済制度への加入有無、退職前6か月の平均本俸月額、被共済職員期間によって変わる。
この記事では、社会福祉法人の概要、社会福祉施設職員等退職手当共済制度の仕組み、20年勤続時の退職金計算例、退職金を受け取る前に確認したい注意点を解説する。
社会福祉法人とは何か?社会福祉法に基づき設立される法人

社会福祉法人の退職金を理解する前に、まず社会福祉法人とはどのような法人なのかを確認しておこう。
社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として、社会福祉法に基づき所轄庁の認可を受けて設立される法人である。
一般財団法人、一般社団法人、NPO法人とは別の法人類型であり、社会福祉事業の主たる担い手として、福祉サービスの質の向上や事業経営の透明性確保が求められている。
社会福祉法人で働く人の退職金を確認するときは、法人独自の退職金規程だけでなく、福祉医療機構が運営する「社会福祉施設職員等退職手当共済制度」に加入しているかも重要な確認ポイントになる。
社会福祉法人の定義と目的
社会福祉法人は、社会福祉事業を通じて、高齢者、障害者、児童、生活に困難を抱える人などを支援する役割を持つ。
主な事業内容には、特別養護老人ホーム、保育所、障害福祉サービス、児童養護施設、救護施設、相談支援事業などがある。
社会福祉法人の主な特徴は次の通りだ。
- 社会福祉事業を行うことを目的として設立される
- 所轄庁の認可を受けて設立される
- 非営利性・公益性が求められる
- 福祉サービスの質の向上や事業経営の透明性確保が求められる
- 財務諸表等を公表し、法人運営の透明性を確保する仕組みがある
退職金制度についても、法人が独自に設ける制度のほか、福祉施設職員向けの共済制度を利用している場合がある。自分の退職金を知るには、勤務先がどの制度を採用しているかを確認することが大切だ。
社会福祉法人の退職金はWAM共済の加入有無で変わる
社会福祉法人の退職金を考えるうえで重要なのが、独立行政法人福祉医療機構(WAM)が運営する「社会福祉施設職員等退職手当共済制度」である。
この制度は、社会福祉施設職員等退職手当共済法に基づく退職手当金制度であり、社会福祉法人が福祉医療機構と共済契約を結ぶことで、対象職員が退職したときに退職手当金を受け取れる仕組みだ。
令和7年4月現在、約88万人の職員がこの制度に加入しており、令和7年度実績では約8万3千人の退職者に約1,452億円が支給されている。
ただし、すべての社会福祉法人やすべての職員が必ず対象になるわけではない。勤務先が共済契約を結んでいるか、自分が被共済職員として加入しているかを確認する必要がある。
WAM退職手当共済の支給例
福祉医療機構が公表している退職手当金支給額の例は、次の通りである。
| 勤務年数 | 退職時本俸月額 | 退職手当金支給額の例 |
|---|---|---|
| 5年 | 20万円 | 49万5,900円 |
| 10年 | 22万円 | 114万8,400円 |
| 15年 | 26万円 | 269万7,000円 |
| 20年 | 28万円 | 572万4,600円 |
上記は「普通退職の場合」の支給例であり、社会福祉法人全体の平均退職金額ではない。
実際の金額は、退職前6か月の平均本俸月額に応じた計算基礎額と、被共済職員期間に応じた支給乗率で決まる。
社会福祉法人における退職金制度の概要

社会福祉法人の退職金制度には、法人独自の退職金制度と、福祉医療機構の退職手当共済制度がある。
自分がどの制度の対象なのかによって、計算方法や請求手続きが変わるため、まずは勤務先に制度の有無を確認しよう。
法人独自の退職金制度
社会福祉法人によっては、法人独自の退職金制度を設けている場合がある。
退職金制度の内容は法人ごとに異なり、主に次のような形がある。
- 退職一時金制度
- 企業年金制度
- 福祉医療機構の退職手当共済制度との併用
- 中小企業退職金共済など外部制度の利用
退職一時金制度は、退職時にまとまったお金を一括で受け取る制度である。
一方、企業年金制度は、退職後に年金形式で受け取る仕組みである。ただし、社会福祉法人で必ず退職年金制度が用意されているわけではない。受け取り方法は法人の退職金規程や企業年金規約で確認しよう。
法人独自の制度がある場合は、就業規則や退職金規程に、支給対象、支給条件、計算方法、支払時期などが記載されている。
社会福祉施設職員等退職手当共済制度の特徴
社会福祉法人に特有の退職金制度として、社会福祉施設職員等退職手当共済制度がある。
厚生労働省資料によると、令和7年4月1日現在、16,678の社会福祉法人がこの制度に加入しており、これは社会福祉法人全体の約8割にあたる。
退職手当共済制度の主な特徴は次の通りだ。
- 福祉医療機構が運営する退職手当金制度である
- 社会福祉法人が共済契約を締結して利用する
- 対象職員が退職した場合、福祉医療機構から職員本人に退職手当金が支払われる
- 掛金は職員本人が負担するものではない
- 退職手当金は、退職前6か月の平均本俸月額と被共済職員期間をもとに計算される
- 被共済職員期間が1年未満の場合など、支給されないケースがある
財源は、共済契約者である社会福祉法人が納付する掛金を中心に賄われる。保育所等については国・都道府県から補助が入る一方、特定介護保険施設等職員や申出施設等職員については、原則として公費補助がない。
令和8年度の職員1人あたりの単位掛金額は49,500円で、特定介護保険施設等職員と申出施設等職員については49,500円×3と案内されている。
退職手当共済制度は、職員ごとに積み立てる方式ではなく、各年度に必要な退職手当金の支給財源を掛金や補助金で賄う賦課方式で運営されている。
社会福祉法人における退職金計算の基準
社会福祉施設職員等退職手当共済制度による退職手当金の計算式は、次の通りだ。
計算基礎額は、退職前6か月の平均本俸月額によって決まる。ここでいう本俸月額は、給与支給規程で定められた本俸と俸給の調整額をもとに考える。
支給乗率は、被共済職員期間に応じて決まる。勤続年数が長くなるほど支給乗率が高くなるため、長く加入しているほど退職手当金は増えやすい。


例えば、退職前6か月の平均本俸月額が29万円、被共済職員期間が30年の場合、計算基礎額は28万円、支給乗率は36.1050となる。
この場合の退職手当金は、次のように計算できる。
28万円×36.1050=1,010万9,400円
ただし、実際の計算では、退職前6か月の平均本俸月額、被共済職員期間、加入状況、請求手続きの不備などによって支給額や支給時期が変わることがある。
社会福祉法人で20年勤続した場合の退職金額

ここでは、社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入している場合の、20年勤続時の退職手当金を確認しよう。
福祉医療機構の支給例では、20年間勤務して退職し、退職時本俸月額が28万円の場合、退職手当金は572万4,600円とされている。
この金額は、次の計算で求められる。
20年勤続時の計算例
20年勤続時の支給例では、計算基礎額28万円、支給乗率20.4450を使う。
- 被共済職員期間:20年
- 退職前6か月の平均本俸月額の例:28万円
- 計算基礎額:28万円
- 支給乗率:20.4450
この場合、退職手当金は次の通りだ。
28万円×20.4450=572万4,600円
この計算例から分かる通り、20年勤続時の退職金額は「基本給×勤続年数×給付率」で単純に計算するものではない。
退職手当共済制度では、退職前6か月の平均本俸月額から決まる計算基礎額と、被共済職員期間に応じた支給乗率を使う。
退職金の額に影響する要素
社会福祉施設職員等退職手当共済制度で退職手当金に影響する主な要素は、次の通りである。
- 退職前6か月の平均本俸月額
- 計算基礎額
- 被共済職員期間
- 支給乗率
- 退職理由や支給除外事由の有無
- 共済制度への加入状況
被共済職員期間が長くなるほど支給乗率は上がりやすい。一方で、退職前の本俸月額が下がると計算基礎額も下がる可能性がある。
特に、転職や再就職を考えている場合は、退職手当金をすぐに請求するか、合算制度を利用するかを慎重に判断したい。
退職金受給に向けた対策
社会福祉法人で働く人が退職金を受け取る前に確認したいことは、次の通りだ。
- 勤務先がWAMの退職手当共済制度に加入しているか
- 自分が被共済職員として登録されているか
- 被共済職員期間が何年何か月あるか
- 退職前6か月の平均本俸月額がいくらになるか
- 退職手当金を請求するか、合算制度を利用するか
- 退職手当金の請求期限を過ぎていないか
退職手当金の請求期限は、退職日の翌日から5年間である。請求書だけでは支給できず、共済契約者が作成する被共済職員退職届も必要になるため、退職前後に勤務先へ確認しておこう。
支給までは概ね3か月程度かかるとされている。4月から8月頃は全国から請求が集中し、さらに時間がかかる場合があるため、退職直後の生活費は別に確保しておくと安心だ。
また、退職後3年以内に再び制度加入施設へ勤務する予定がある場合は、退職手当金をすぐに受け取らず、被共済職員期間を合算できる場合がある。
ただし、再就職先の本俸月額が大きく下がる場合は、合算によって必ず有利になるとは限らない。退職手当金を請求する前に、勤務先や福祉医療機構の案内を確認しよう。
社会福祉法人の退職金運用は誰に相談するべきか

退職金は、退職後の生活を支える大切な資金である。
ただし、受け取った退職金をすぐに全額運用するのではなく、まずは生活費、税金、緊急資金、医療・介護費、運用資金に分けて考えることが大切だ。
退職金の相談先は、相談内容によって異なる。
| 相談したい内容 | 主な相談先 | 確認できること |
|---|---|---|
| 退職手当共済制度の加入状況 | 勤務先の人事・総務、福祉医療機構 | 被共済職員期間、請求手続き、支給予定 |
| 退職金の税金 | 税務署、税理士 | 退職所得控除、源泉徴収、確定申告、住民税 |
| 退職後の家計 | FP、J-FLEC認定アドバイザーなど | 生活費、公的年金、保険、老後資金計画 |
| 退職金の運用 | IFA、金融機関、FPなど | 資産配分、金融商品、NISA、リスク管理 |
退職金にかかる税金も確認する
退職金を一時金で受け取る場合、原則として退職所得として所得税・復興特別所得税・住民税の対象になる。
退職所得には退職所得控除があり、一般的な退職所得の金額は次のように計算する。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
例えば勤続20年の場合、退職所得控除額は800万円となる。退職金が572万4,600円であれば、退職所得の金額は原則として0円になる。
ただし、過去に別の退職金を受け取っている場合や、同じ年に複数の退職金を受け取る場合などは計算が異なることがある。税額が不安な場合は、税務署や税理士に相談しよう。
退職金は目的別に分けて管理する
退職金を受け取ったら、まず使う時期と目的ごとに分けて考えると管理しやすい。
| 資金の区分 | 主な使い道 | 管理方法の例 |
|---|---|---|
| 短期資金 | 退職直後の生活費、税金、健康保険料、引っ越し費用 | 普通預金など換金しやすい形で管理 |
| 中期資金 | 医療費、介護費、住宅修繕費、家族への支援 | 定期預金、個人向け国債など安全性を重視 |
| 長期資金 | 老後後半の生活費、資産形成、相続対策 | 余裕資金の範囲でNISAや投資信託などを検討 |
退職金は老後資金の土台になることが多いため、高い利回りだけを見て商品を選ぶのは危険だ。
元本割れリスク、手数料、換金しやすさ、税制優遇制度の有無を確認し、生活費に支障が出ない範囲で運用を検討しよう。
IFAに相談する場合の注意点
退職金の運用について相談したい場合、IFAに相談する選択肢がある。
IFAは、一般に独立系ファイナンシャルアドバイザーと呼ばれる。金融商品仲介業者として活動するIFAは、証券会社や登録金融機関から委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行う。
退職金運用の相談では、生活費として残す金額、運用に回す金額、NISAや投資信託などの使い方、資産配分について相談できる場合がある。
ただし、IFAが扱える商品や報酬体系は、所属先や提携金融機関によって異なる。相談前には、次の点を確認しよう。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- 提携している証券会社・金融機関はどこか
- 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用はいくらか
- 提案できる商品の範囲に偏りがないか
- 元本割れや為替変動などのリスク説明が十分か
- 運用後のフォロー体制があるか
J-FLECの無料体験や電話相談では、家計管理、生活設計、NISAやiDeCoなどの資産形成について相談できる。ただし、個別の金融商品・サービスの提案や推奨はできないため、具体的な商品選びまで相談したい場合は相談範囲を確認しよう。
税金は税理士、退職手当共済の手続きは勤務先や福祉医療機構、資産運用はIFAやFPなど、相談内容に応じて使い分けることが重要だ。
社会福祉法人の退職金はWAM共済の加入状況を確認しよう

社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として、社会福祉法に基づき設立される法人である。
社会福祉法人の退職金を確認するときは、法人独自の退職金制度だけでなく、福祉医療機構の社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入しているかを確認しよう。
WAMの退職手当共済制度に加入している場合、20年間勤務し、退職時本俸月額が28万円の支給例では、退職手当金は572万4,600円である。ただし、これは平均額ではなく、退職手当共済制度の支給例だ。
実際の退職手当金は、退職前6か月の平均本俸月額に応じた計算基礎額と、被共済職員期間に応じた支給乗率で計算される。
退職予定がある場合は、勤務先が共済制度に加入しているか、自分が被共済職員か、請求期限や合算制度の利用可否を早めに確認しておこう。
退職金を受け取った後は、生活費、税金、緊急資金、医療・介護費、運用資金に分けて管理することが大切だ。退職金の運用や相談先を比較したい場合は、以下のボタンから確認できる。
出典
厚生労働省「社会福祉法人制度」
厚生労働省「社会福祉法」
福祉医療機構「社会福祉施設職員等退職手当共済制度について」
厚生労働省「社会福祉施設職員等退職手当共済制度の現状及び課題について」(公開日:2026年4月23日)
福祉医療機構「社会福祉施設職員等退職手当共済制度リーフレット」
福祉医療機構「退職される皆さまへ」
福祉医療機構「退職手当金計算シミュレーション」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
金融経済教育推進機構 J-FLEC「専門家に相談したい」
日本証券業協会「金融商品仲介業者」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

