退職金は、退職後の生活費や住宅ローン返済、資産運用の原資になる大切なお金だ。
ただし、理学療法士だから必ず一定額の退職金を受け取れるわけではない。退職金の有無や金額は、勤務先が公立病院なのか、民間病院なのか、クリニックなのか、介護・福祉施設なのかによって大きく変わる。
また、理学療法士に限定した公的な退職金平均額は確認しにくい。そのため、自分の退職金を把握するには、勤務先の就業規則、退職金規程、企業年金や共済制度の加入状況を確認することが重要だ。
本記事では、理学療法士が退職金を確認するときのポイント、退職金の計算方法、受け取り方、税金、退職金の活用方法、相談先について解説する。
退職金の基本知識|理学療法士は勤務先の制度を確認する
まずは、退職金制度の基本を確認しよう。
理学療法士の退職金は、職業名だけで決まるものではない。勤務先の法人形態、退職金規程、勤続年数、雇用区分、退職理由などによって変わる。
退職金は必ず支給されるものではない
退職金制度は、すべての勤務先に法律で義務づけられている制度ではない。
ただし、退職金制度を設ける場合は、就業規則に退職手当に関する事項を記載する必要がある。具体的には、適用される労働者の範囲、退職手当の決定方法、計算方法、支払方法、支払時期などが確認ポイントになる。
理学療法士として退職金を受け取れるか確認したい場合は、まず勤務先の以下の資料を確認しよう。
- 就業規則
- 退職金規程
- 賃金規程
- 雇用契約書・労働条件通知書
- 企業年金・退職共済・中退共などの加入状況が分かる資料
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、医療・福祉の退職給付制度あり企業割合は75.5%とされている。ただし、この数字は「医療・福祉」産業全体のデータであり、理学療法士個人やすべての病院・施設に退職金制度があることを意味するものではない。
理学療法士の勤務先別に見る退職金制度の確認ポイント
理学療法士の退職金は、勤務先の種類によって確認すべき制度が異なる。
| 勤務先の例 | 退職金制度の確認ポイント |
|---|---|
| 公立病院・自治体病院 | 地方公務員や地方独立行政法人の退職手当条例・規程を確認する |
| 国立病院機構など | 法人の職員退職手当規程を確認する |
| 民間病院・医療法人 | 就業規則・退職金規程・企業年金制度を確認する |
| クリニック | 退職金制度がない場合もあるため、労働条件通知書と就業規則を確認する |
| 介護老人保健施設・福祉施設 | 社会福祉施設職員等退職手当共済制度や中退共への加入状況を確認する |
介護・福祉施設に勤務している場合、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入しているケースがある。この制度に加入している施設であれば、退職時にWAMから退職手当金が支給される可能性がある。
また、中小規模の医療法人やクリニックでは、中小企業退職金共済制度(中退共)を利用している場合もある。制度名が分からない場合は、人事・総務担当者に「退職金制度や退職共済に加入しているか」を確認しよう。
退職金の計算方法と要素
退職金の計算方法は勤務先ごとに異なる。法律で全国一律の計算式が定められているわけではない。
代表的な計算方法は以下のとおりだ。
| 計算方法 | 概要 | 確認する項目 |
|---|---|---|
| 基本給連動型 | 退職時の基本給や算定基礎額に、勤続年数や支給率を掛けて計算する | 基本給 勤続年数 退職理由係数 |
| 定額制 | 勤続年数ごとに支給額が決まっている | 勤続年数 支給額表 |
| ポイント制 | 勤続年数、役職、評価などで付与されたポイントをもとに計算する | 累積ポイント 1ポイント単価 |
| 外部共済型 | 中退共やWAMなど外部制度に基づいて支給される | 掛金 加入期間 被共済職員期間 |
| 企業型DC・企業年金型 | 掛金や運用成果、年金規約に基づいて受け取る | 加入制度、運用状況 受け取り方法 |
基本給連動型では、以下のような式で計算されることがある。
ただし、これはあくまで一例だ。実際の計算では、自己都合退職、定年退職、会社都合退職などの退職理由によって支給率が変わることがある。
退職金額を知りたい場合は、自分で一般的な式に当てはめるだけでなく、勤務先に退職金の試算を依頼するのが確実だ。
勤続年数と退職理由で退職金は変わる
退職金は、勤続年数と退職理由によって大きく変わる。
一般的には、勤続年数が長くなるほど退職金は増えやすい。また、自己都合退職よりも定年退職や会社都合退職の方が支給率が高く設定されている制度もある。
理学療法士が退職金を確認する際は、以下の項目を見ておこう。
- 退職金の支給対象となる雇用区分
- 最低勤続年数の条件
- 自己都合退職時の支給率
- 定年退職・会社都合退職時の支給率
- 休職期間や産休・育休期間が勤続年数に含まれるか
- 懲戒解雇などによる不支給・減額規定
インターネット上の退職金シミュレーションは便利だが、勤務先の制度と完全に一致するとは限らない。特にWAMや中退共など特定制度向けのシミュレーションは、加入している人を対象にした試算である点に注意しよう。
労働条件の変更で退職金が減る場合の注意点
勤務先が退職金制度を変更し、退職金の支給額を減らす場合は、労働条件の不利益変更にあたる可能性がある。
労働契約法では、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更することは原則としてできない。ただし、変更後の就業規則を労働者に周知させ、変更内容が合理的であるなど一定の要件を満たす場合には、変更後の就業規則が適用されることがある。
退職金規程が変更された場合は、以下を確認しよう。
- 変更前後の退職金規程
- 変更内容の説明資料
- 労働者への周知方法
- 労働組合や職員代表との協議状況
- 自分の退職金額にどの程度影響するか
納得できない場合や説明が不十分な場合は、勤務先の人事・総務部門、労働組合、社会保険労務士、弁護士などに相談しよう。
退職金の受け取り方と税金の注意点
退職金は、受け取り方によって税金や資金管理のしやすさが変わる。
理学療法士が退職金を受け取る場合も、一時金、年金、併用のいずれを選べるかは勤務先の制度によって異なる。退職前に選択肢を確認しておこう。
一時金・年金・併用の違い
退職金の受け取り方は、主に以下の3つに分けられる。
| 受け取り方法 | 特徴 | 税金の扱い | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 一時金 | 退職時にまとまった金額を受け取る | 原則として退職所得 | 使いすぎや運用リスクに注意 |
| 年金 | 一定期間に分けて受け取る | 公的年金等に係る雑所得として扱われる場合がある | 公的年金や他の所得との合算に注意 |
| 併用 | 一部を一時金、残りを年金で受け取る | 一時金部分と年金部分で税制が異なる | 制度上選べるか確認が必要 |
一時金はまとまった資金を確保しやすく、退職所得控除を使える点がメリットだ。一方、年金形式は定期収入として受け取れるため、生活費に組み込みやすい。
どちらが有利かは、退職金額、勤続年数、公的年金の受給額、退職後の働き方、住宅ローンの有無、運用方針によって異なる。受け取り方を選べる場合は、税金と生活費の両面から比較しよう。
退職金にかかる所得税・住民税の計算方法
退職金を一時金で受け取る場合、原則として退職所得として扱われる。退職所得には、勤続年数に応じた退職所得控除がある。
退職所得の金額は、原則として次の式で計算する。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
例えば、勤続年数が25年の場合、退職所得控除額は「800万円+70万円×5年=1,150万円」となる。
また、勤続年数に1年未満の端数がある場合は1年に切り上げる。例えば「10年1か月」勤務した場合、退職所得控除の計算上は11年として扱う。
退職所得にかかる住民税は、退職所得の金額に対して市区町村民税6%、都道府県民税4%の合計10%で計算されるのが一般的だ。
なお、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出していない場合は、退職金の支給額に対して20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収され、確定申告で精算する必要がある。
役員等としての勤続年数が5年以下の場合や、短期退職手当等に該当する場合、複数の退職金を受け取る場合は計算が異なることがある。金額が大きい場合は、税務署や税理士に確認しよう。
iDeCoは現役時代からの老後資金づくりに活用する
退職金の税金対策としてiDeCoを検討する人もいるが、iDeCoは退職金を受け取った後に始める制度というより、現役時代から老後資金を準備するための制度として考えると分かりやすい。
iDeCoは、自分で掛金を拠出し、自分で運用する私的年金制度だ。掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除の対象となり、運用益も非課税で再投資される。
受け取り時は、一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除の対象になる。ただし、60歳になるまで原則として資産を引き出せず、加入できる年齢や拠出限度額にも条件がある。
理学療法士として働いているうちにiDeCoを利用する場合は、勤務先の企業年金制度や企業型DCの有無、自分の年齢、退職予定時期を確認してから判断しよう。
退職金を活用する方法と注意点
退職金は受け取るだけでなく、どのように使うかも重要だ。
理学療法士として退職金を受け取った後は、生活費、税金、社会保険料、住宅ローン、医療費、資産運用などを含めて資金計画を立てよう。
勤続年数と昇給の影響を確認する
勤務先の退職金制度が基本給連動型の場合、基本給や役職が上がることで退職金額も増える可能性がある。一方で、定額制や外部共済型では、基本給よりも掛金や加入期間の影響が大きい場合もある。
退職時期を考える際は、以下の点を確認しておこう。
- 勤続何年以上で退職金が支給されるか
- 勤続年数の区切りで支給率が変わるか
- 昇給や役職が退職金に反映されるか
- 自己都合退職と定年退職で支給率が変わるか
- 企業年金や共済の加入期間が通算されるか
退職金以外の資金を増やすことも検討する
退職後の生活を考える際は、退職金だけに頼らない資金計画も大切だ。
退職金はまとまった資金だが、老後生活、医療費、介護費、住宅修繕費などを考えると、すべてを短期間で使ってしまうのは避けたい。受け取った資金を「すぐ使うお金」「守るお金」「長期で運用するお金」に分けて考えよう。
| 項目 | 定期預金 | 個人向け国債 | NISA | iDeCo |
|---|---|---|---|---|
| 主な目的 | 安全性を重視して保管する | 国債で比較的安定的に運用する | 運用益非課税で資産形成する | 老後資金を長期で準備する |
| 元本保証 | 預金保険制度の範囲で保護 | 国が元本と利子を支払う | なし | 選ぶ商品による |
| 流動性 | 高い | 中途換金に条件あり | 売却可能 | 原則60歳まで引き出せない |
| 税制優遇 | なし | なし | 運用益が非課税 | 掛金控除・運用益非課税・受取時控除 |
| 注意点 | 増えにくい | 利回りが低い場合がある | 元本割れリスクがある | 加入条件・手数料・受取時期に注意 |
NISAは、2024年から年間投資枠が最大360万円、非課税保有限度額が最大1,800万円となっている。投資信託や株式の運用益が非課税になる点はメリットだが、元本保証ではない。
退職金を受け取った直後に全額を投資へ回すのではなく、生活費や予備資金を確保したうえで、余裕資金の範囲で検討しよう。
労働組合や労働協定の役割
退職金制度の変更や不利益な取り扱いに不安がある場合、労働組合や職員代表に相談できることがある。
労働組合は、賃金や退職金などの労働条件について、使用者と交渉する役割を持つ。退職金制度の変更、未払い、説明不足などがある場合は、勤務先の労働組合や相談窓口を確認しよう。
ただし、退職金に関する法的判断や未払い請求などは、内容によって弁護士や労働基準監督署への相談が必要になる場合もある。
理学療法士の退職金相談はどこにするべきか
退職金に関する悩みは、内容によって相談先が異なる。
退職金の制度や金額を確認したい場合と、受け取った退職金を運用したい場合では、相談すべき相手が違う。
| 相談したい内容 | 主な相談先 | 確認できること |
|---|---|---|
| 退職金制度の有無・試算額 | 勤務先の人事・総務部門 | 退職金規程 支給条件 退職金見込み額 |
| 退職金規程の変更や未払い | 労働組合、労働基準監督署、弁護士 | 不利益変更 未払い時の対応 請求方法 |
| 退職金にかかる税金 | 税務署、税理士 | 退職所得控除 源泉徴収 確定申告 |
| 企業年金・社会保険 | 年金事務所、社会保険労務士 | 年金、健康保険 任意継続 企業年金 |
| 退職金の運用・生活設計 | FP、IFA、金融機関 | 資金配分 NISA・iDeCo 運用方針 |
自分の退職金額を知りたい場合は、まず勤務先に確認するのが基本だ。税金や法律、運用などの個別相談は、それぞれの専門家に分けて相談しよう。
IFAとは
IFAとは、独立系ファイナンシャル・アドバイザーのことだ。
日本では主に、金融商品仲介業者として、顧客のライフプランやニーズに合わせて、金融商品の選定、運用、売買取引の支援などを行う人や法人を指す。
退職金の相談では、退職後の生活費、公的年金、預貯金、NISA、iDeCo、保険、住宅ローンなどを踏まえて、資産全体の配分を相談できる場合がある。
ただし、IFAは金融機関と業務委託契約を結んで業務を行う立場でもある。相談する前に、金融商品仲介業者として登録されているか、所属金融機関や提携金融機関、手数料、取扱商品を確認しよう。
退職金運用を相談する前に確認したいこと
退職金は、老後生活を支える重要な資金だ。提案された商品をその場で契約するのではなく、以下の点を確認してから判断しよう。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用はいくらか
- 元本割れリスクを十分に説明してくれるか
- 途中解約時の条件や費用を確認できるか
- 退職後の生活費を確保したうえで提案してくれるか
- 運用開始後のフォロー体制があるか
IFAは退職金運用の相談先の一つだが、すべての悩みを解決できるわけではない。税金は税理士、法律問題は弁護士、社会保険は社会保険労務士など、相談内容に合わせて専門家を使い分けることが大切だ。
まとめ
この記事では、理学療法士の退職金について、制度の確認方法、計算方法、受け取り方、税金、活用方法、相談先を解説した。
理学療法士に限定した公的な退職金平均額は確認しにくいため、自分の退職金を知るには勤務先の制度を確認する必要がある。公立病院、民間病院、クリニック、介護・福祉施設では、退職金制度や計算方法が異なる。
まずは就業規則、退職金規程、企業年金や退職共済の加入状況を確認しよう。WAMや中退共などの制度に加入している場合は、専用のシミュレーションや勤務先の通知で概算を確認できる場合がある。
退職金を一時金で受け取る場合は退職所得として扱われ、退職所得控除の対象になる。年金形式で受け取る場合は、公的年金等に係る雑所得として扱われる場合があるため、受け取り方によって税金が変わる点にも注意しよう。
退職金は受け取った後の使い方も重要だ。生活費や予備資金を確保したうえで、NISAやiDeCoなどの制度、預金、国債、投資信託などを自分のリスク許容度に合わせて検討しよう。
退職金の制度や未払いは勤務先や労働相談窓口へ、税金は税務署や税理士へ、運用はFPやIFAへ相談するなど、悩みの内容に合わせて相談先を選ぶことが大切だ。
退職金の運用や相談先を比較したい場合は、以下ボタンから確認できる。
出典
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」(公開日:2023年10月31日)
厚生労働省「モデル就業規則」
厚生労働省「労働契約法のポイント」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「理学療法士(PT)」
独立行政法人福祉医療機構「退職手当共済事業」
独立行政法人福祉医療機構「退職手当金計算シミュレーション」
独立行政法人国立病院機構「職員退職手当規程」
厚生労働省「中小企業退職金共済制度(中退共制度)」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」
国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
柏市「退職手当等に係る市・県民税の計算方法」
金融庁「NISAを知る:NISA特設ウェブサイト」
国民年金基金連合会「iDeCoの特徴」
国民年金基金連合会「iDeCoのメリット」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

