退職金を受け取ったあと、「このまま預金に置いておくべきか」「NISAで運用した方がよいのか」と迷う方は多いでしょう。
NISAは、株式や投資信託などの運用益が非課税になる制度です。2024年から制度が拡充され、年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は最大1,800万円になりました。
ただし、退職金は老後の生活を支える大切な資金です。NISAには非課税メリットがある一方、投資である以上、元本割れのリスクもあります。
退職金をNISAで運用する場合は、まず退職金の手取り額を把握し、生活費として使うお金、緊急時に守るお金、長期で運用するお金に分けて考えることが重要です。
この記事では、退職金の仕組みと税金、2024年以降のNISA制度、退職金をNISAで活用する際の注意点、専門家に相談する際の確認ポイントを解説します。
退職金の基本知識

NISAで退職金を運用する前に、まずは退職金の手取り額を把握しておく必要があります。
退職金は額面の全額を自由に使えるわけではありません。所得税・復興特別所得税・住民税がかかる場合があり、制度によって受け取り方や計算方法も異なります。
ここでは、退職金の制度、平均額の目安、税金、支払い時期を整理します。
退職金制度の種類と計算方法
退職金制度には、退職一時金制度、中小企業退職金共済制度、確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(企業型DC)などがあります。
勤務先がどの制度を採用しているかによって、退職時に受け取れる金額や受け取り方法が変わります。
| 制度 | 概要 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 退職一時金制度 | 退職時に会社から一括で支払われる制度 | 退職金規程、勤続年数、基本給、役職、退職理由 |
| 中小企業退職金共済制度 (中退共) | 中小企業向けの退職金共済制度。事業主が掛金を負担する | 掛金月額、納付月数、基本退職金と付加退職金 |
| 確定給付企業年金 (DB) | 規約で定めた給付算定方法に基づき、給付額が決まる企業年金 | 給付見込み額、一時金・年金の選択、受給開始時期 |
| 企業型確定拠出年金 (企業型DC) | 事業主が拠出した掛金を従業員が運用し、掛金と運用成果で受取額が決まる制度 | 資産残高、運用商品、受け取り方法、移換手続き |
退職一時金制度の計算方法には、主に以下のような方式があります。
- 定額制:勤続年数ごとにあらかじめ退職金額を定める
- 基本給連動型:退職時の基本給、勤続年数、退職理由別支給率などで計算する
- ポイント制:勤続年数、役職、評価などをポイント化して計算する
- 別テーブル方式:基本給とは別に、勤続年数・役職・退職理由ごとの表で計算する
実際の退職金額は、勤務先の退職金規程や企業年金の資料で確認する必要があります。退職予定時期が近い場合は、人事担当部署に試算を依頼しておくと安心です。
退職金はいくらもらえる?平均額の目安
厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付制度がある企業における勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者の平均退職給付額は、以下の通りです。
| 学歴・職種 | 定年退職時の平均退職給付額 |
|---|---|
| 大学・大学院卒 管理・事務・技術職 | 1,896万円 |
| 高校卒 管理・事務・技術職 | 1,682万円 |
| 高校卒 現業職 | 1,183万円 |
これは民間企業全体の参考値であり、個別の退職金額を保証するものではありません。実際の金額は、会社規模、勤続年数、役職、退職理由、退職金制度の内容によって変わります。
退職金をNISAで運用するか考える前に、まず自分が受け取れる退職金の額面と手取り額を確認しましょう。
退職金に関する税金
退職金を一時金で受け取る場合は、退職所得として所得税・復興特別所得税・住民税の対象になります。
ただし、退職金には退職所得控除があり、長く勤めた人ほど税負担が抑えられやすい仕組みになっています。
課税退職所得金額 =(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2
40万円 × 勤続年数
※80万円未満の場合は80万円
800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
たとえば、退職金2,000万円、勤続年数30年の場合は以下のように計算します。
1.退職所得控除額を計算
800万円 + 70万円 ×(30年 − 20年)= 1,500万円
2.課税退職所得金額を計算
(2,000万円 − 1,500万円)× 1/2 = 250万円
3.所得税・復興特別所得税を概算
250万円 × 10% − 97,500円 = 152,500円
復興特別所得税を含めると 約15万6,000円
4.住民税を概算
250万円 × 10% = 25万円
✅ 税額の概算
約40万6,000円
✅ 概算の手取り額
2,000万円 − 約40万6,000円 = 約1,959万円
勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、退職所得控除を反映した税額で源泉徴収されるため、原則として退職金だけを理由に確定申告する必要はありません。
一方、申告書を提出していない場合は、退職金等の支払金額に対して20.42%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収され、確定申告で精算する必要があります。
なお、退職金にかかる住民税は、市民税6%・県民税4%の合計10%が目安です。
退職金の支払い時期
退職金の支払い時期は、法律で一律に決まっているわけではありません。
退職後1〜2か月程度で支払われるケースもありますが、実際の支給時期は会社の退職金規程や企業年金制度、事務手続きの状況によって異なります。
退職直後に住宅ローン返済、引っ越し、リフォーム、医療費などの支出を予定している場合は、退職前に支給予定日を確認しておきましょう。
NISAの概要

NISAとは、少額投資非課税制度のことです。通常、株式や投資信託などの金融商品に投資すると、売却益や配当・分配金に約20%の税金がかかります。
一方、NISA口座で投資した金融商品から得られる利益は非課税になります。退職金の一部を長期運用する場合、NISAは有力な選択肢のひとつです。
ただし、NISAは「退職金を必ず増やせる制度」ではありません。投資先によっては元本割れすることがあるため、生活資金まで投資に回さないようにしましょう。
2024年以降のNISAとは
2024年からのNISAでは、つみたて投資枠と成長投資枠を併用できます。
| つみたて投資枠 | 成長投資枠 | |
|---|---|---|
| 年間投資枠 | 120万円 | 240万円 |
| 年間投資枠の合計 | 最大360万円 | |
| 非課税保有限度額 | 最大1,800万円 ※成長投資枠は内数で1,200万円まで | |
| 非課税保有期間 | 無期限 | 無期限 |
| 対象商品 | 長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託 | 上場株式・投資信託など ※一部対象外商品あり |
| 対象年齢 | 18歳以上 | 18歳以上 |
2023年までの一般NISA・つみたてNISAで保有している商品は、2024年以降のNISAとは別枠で管理されます。旧NISAで購入した商品を、2024年以降のNISA枠へ移すことはできません。
一方、2024年以降のNISAでは、商品を売却した場合、売却した商品の簿価分だけ翌年以降に非課税保有限度額を再利用できます。
NISAのメリット
NISAの大きなメリットは、投資で得た利益が非課税になることです。
通常、株式や投資信託の売却益、配当金、分配金には20.315%の税金がかかります。NISA口座で得た利益には、この税金がかかりません。
たとえば、NISA口座で投資した120万円が200万円になり、80万円の利益が出た場合でも、その利益に税金はかかりません。
退職金の一部を長期で運用する場合、運用益が非課税になる点は大きなメリットです。
NISAの注意点
NISAにはメリットがある一方で、注意点もあります。
- 元本割れのリスクがある
NISAは投資制度であり、預金ではありません。投資信託や株式の価格が下がれば損失が出ることがあります。 - 損益通算や繰越控除ができない
NISA口座で損失が出ても、特定口座や一般口座の利益と損益通算できず、損失を翌年以降に繰り越すこともできません。 - 年間投資枠には上限がある
年間投資枠は最大360万円です。退職金を一度に大きく投資したい場合でも、NISA枠を超えた分は課税口座での運用になります。 - 商品選びを誤るとリスクが大きくなる
成長投資枠では幅広い商品を購入できますが、値動きが大きい商品に退職金を集中させると、老後資金に影響する可能性があります。
NISAは「税金がかからない制度」であって、「損をしない制度」ではありません。退職金でNISAを活用する場合は、運用益非課税のメリットと元本割れリスクの両方を理解しておきましょう。
NISAを活用した投資対象
NISAで購入できる商品は、つみたて投資枠と成長投資枠で異なります。
つみたて投資枠では、長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託が対象です。退職金を一度に投資するのが不安な方は、つみたて投資枠で時間を分けて投資する方法を検討しやすいでしょう。
成長投資枠では、上場株式や投資信託などに投資できます。ただし、整理・監理銘柄、信託期間20年未満の投資信託、毎月分配型の投資信託、デリバティブ取引を用いた一定の投資信託などは対象外です。
退職金運用では、値動きの大きい商品へ一括投資するよりも、リスクを分散しながら長期で保有できる商品を選ぶことが大切です。
退職金とNISAを活用する戦略

退職金をNISAで活用する際は、まず「いくら投資できるか」を考える前に、「いくら投資しても生活に支障がないか」を確認しましょう。
退職金は老後の生活費、医療費、介護費、住宅修繕費などにも使う可能性があります。すぐに必要になる資金までNISAで投資すると、相場下落時に困ることがあります。
退職金を3つに分けて考える
退職金を受け取ったら、まず以下の3つに分けると判断しやすくなります。
- 使うお金
退職直後の生活費、住宅ローン返済、リフォーム、引っ越し、車の買い替え、旅行など、数年以内に使う予定のある資金 - 守るお金
医療費、介護費、家族支援、住宅修繕、収入減に備える緊急資金 - 運用するお金
当面使う予定がなく、長期で資産寿命を延ばすために活用できる資金
NISAで運用するのは、基本的に「運用するお金」の範囲にとどめるのが安心です。
退職直後に生活費や医療費として使う可能性があるお金は、預貯金など流動性が高く値動きのない形で管理しましょう。
一括投資よりも時間分散を検討する
退職金を受け取ると、まとまった金額を一度に投資したくなるかもしれません。
しかし、一括投資をした直後に相場が大きく下がると、精神的な負担が大きくなります。投資経験が少ない方や、退職金を減らしたくない方は、時間を分けて投資する方法を検討しましょう。
たとえば、退職金のうち600万円をNISAで運用したい場合でも、一度に600万円を投資するのではなく、毎月10万円ずつ5年間積み立てる、年間投資枠の範囲で数年に分けて投資する、といった方法があります。
時間分散を行うことで、高値でまとめて買ってしまうリスクを抑えやすくなります。ただし、相場上昇時には一括投資よりリターンが低くなる可能性もあるため、自分のリスク許容度に合わせて選びましょう。
NISAと退職金の組み合わせ方
退職金とNISAを組み合わせるときは、年齢、退職後の収入、家計状況、投資経験に応じて方針を決めましょう。
| 状況 | NISA活用の考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 退職後すぐに生活費が不足する | NISA投資よりも生活資金の確保を優先する | 必要資金を投資に回さない |
| 退職後も再雇用収入がある | 余裕資金の一部を積立投資に回す | 収入が減る時期を見越して投資額を調整する |
| 投資経験が少ない | つみたて投資枠を中心に少額から始める | 値動きに慣れるまで一括投資を避ける |
| まとまった余裕資金がある | 成長投資枠も活用し、複数年に分けて投資する | 株式や投資信託に集中しすぎない |
| 相続や資産承継も考えたい | 運用資産と生活資金を分け、家族とも情報共有する | 税務や相続は専門家にも確認する |
NISAの非課税枠があるからといって、退職金をすべて投資する必要はありません。
特に50代〜60代以降は、運用期間が若年層より短くなる場合があります。元本割れしたときに回復を待てる資金かどうかを確認してから投資しましょう。
退職金とNISAのリスク管理
NISAで運用する商品は、リスクの大小はあるものの、元本割れする可能性があります。
退職金は老後生活を支える重要な資産です。リスクの高い商品に集中投資するのは避け、資産全体のバランスを見ながら運用しましょう。
退職金をNISAで運用する際のリスク管理では、以下を確認してください。
- 生活費や緊急資金を十分に残しているか
- 投資信託や株式に資産が集中しすぎていないか
- 値下がりしても売らずに待てる期間があるか
- 毎月分配型や複雑な商品を選んでいないか
- 手数料や信託報酬を確認しているか
投資目的と資産状況に合った商品を選ぶことが、退職金を守りながら活用するうえで大切です。
知識だけでは不安なら専門家への相談を

退職金の税金やNISAの仕組みを学んでも、実際にどの商品を選ぶべきか、どの金額を投資に回すべきか判断が難しい方もいるでしょう。
そのような場合は、勤務先の担当部署、税理士、金融機関、IFAなど、相談内容に応じて専門家を使い分けることが大切です。
IFA(独立系ファイナンシャル・アドバイザー)の役割
IFAとは、Independent Financial Advisorの略で、日本語では独立系ファイナンシャル・アドバイザーと呼ばれます。
IFAは金融商品仲介業者として、顧客のライフプランやリスク許容度に応じて、金融商品の提案や売買取引の支援を行います。
退職金運用、NISAの活用、資産配分の見直し、退職後のキャッシュフロー整理などを相談できる場合があります。
IFAを利用するメリット
IFAに相談するメリットは、退職金だけでなく、NISA、iDeCo、保険、住宅ローン、相続、年金などを含めて、資産全体から相談しやすい点です。
退職金は一度に大きな金額を受け取るため、商品選びよりも先に「どれだけ生活資金として残すか」「どれだけ運用に回せるか」を整理する必要があります。
IFAに相談すると、以下のような内容を整理しやすくなります。
- 退職後のキャッシュフロー
年金、退職金、生活費、医療・介護費を見える化する - NISAで運用する金額
生活資金を確保したうえで、運用に回せる金額を決める - 資産配分
預貯金、投資信託、株式、債券、保険などのバランスを確認する - 取り崩し計画
老後にどの資産から使うかを考える
ただし、IFAに相談すれば必ず最適な運用ができるわけではありません。相談先によって、提携金融機関、取扱商品、手数料、提案方針が異なります。
IFAの選び方と相談方法
IFAを選ぶ際は、金融商品の知識だけでなく、退職金運用やNISA、ライフプランの相談経験があるかを確認しましょう。
相談前に確認したいポイントは以下の通りです。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
金融庁の登録業者一覧などで確認できます。 - 提携している金融機関はどこか
提携先によって、提案できる商品や手数料体系が変わります。 - 手数料や報酬の仕組み
相談料、販売手数料、信託報酬、継続的な管理費用を確認しましょう。 - リスク説明が十分か
メリットだけでなく、元本割れや価格変動リスクを丁寧に説明してくれるか確認しましょう。 - 税務や相続は専門家と連携できるか
個別具体的な税務判断や相続対策は、税理士や弁護士の専門領域です。
証券アナリストやFPなどの資格は判断材料のひとつになりますが、資格だけで選ぶのではなく、自分の相談内容に合った経験があるかを確認しましょう。
また、IFAはライフプラン相談が有料の場合もあれば、金融商品の売買時に手数料が発生する場合もあります。相談前に費用を確認しておくことが大切です。
条件を入力すると、自分に合ったIFAを探せるIFA検索サービスもあります。退職金とNISAの運用方針で迷う場合は、複数の相談先を比較してみましょう。
まとめ

退職金は、老後の生活を支える大切な資金です。NISAを活用すれば運用益が非課税になるため、退職金の一部を長期運用する選択肢になります。
2024年以降のNISAでは、つみたて投資枠と成長投資枠を併用でき、年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は最大1,800万円です。
ただし、NISAは投資制度であり、元本割れのリスクがあります。退職金をすべてNISAに回すのではなく、使うお金・守るお金・運用するお金に分けて管理しましょう。
退職金を受け取る際は、退職所得控除や住民税、申告書の提出有無を確認し、税引き後の手取り額を把握しておくことが大切です。
退職金とNISAの活用に迷う場合は、IFAなどの専門家に相談するのも選択肢のひとつです。ただし、相談先の登録状況、手数料、提携金融機関、リスク説明を確認したうえで利用しましょう。
退職金とNISAの運用方針で悩んでいる方は、必要に応じて以下ボタンから相談先を確認してみてください。
出典
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況 退職給付(一時金・年金)の支給実態」(公開日:2023年10月31日)
中小企業退職金共済事業本部「退職金計算の方法・考え方について」
厚生労働省「確定給付企業年金制度」
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.2260 所得税の税率」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.1535 NISA制度」(公開日:2025年4月1日)
横浜市「退職所得の課税の特例」(公開日:2026年5月1日)
金融庁「NISAを知る」
金融庁「NISAを利用する皆さまへ」
金融庁「資産形成の基本」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

