退職金の使い道はどう決める?老後資金を守る活用方法と相談先を解説

退職金をどう使うのが適切か、迷う人は多い。賞与を大きく上回るまとまった資金を受け取る一方で、これまでに同じ規模のお金を管理した経験が少なく、使い道や運用方法に戸惑いやすいからだ。

退職金には、老後の生活を支える大切な資金という側面もある。給与収入が減る、またはなくなる中で、目的を決めずに生活費として切り崩すだけでは、想定より早く資金が減ってしまう可能性がある。

大切なのは、退職金を「すぐ使うお金」「将来使うお金」「万一に備えるお金」「運用を検討するお金」に分けて考えることだ。すべてを投資に回すのではなく、生活を守る資金を確保したうえで、余裕資金の活用を検討しよう。

本記事では、退職金の基本知識、賢く使うためのポイント、具体的な活用例、相談先の選び方を解説する。退職金の使い道を整理したい方は、今後の検討材料にしてほしい。

目次

退職金の基本知識|支給基準・計算方法・税金を確認する

退職金の基本知識を確認するイメージ

退職金を活用する前に、まずは制度の仕組みと税金の扱いを確認しておこう。退職金は会社ごとに制度が異なるため、一般論だけで判断せず、自分の勤務先の規程を確認することが重要だ。

退職金の支給基準は会社ごとに異なる

退職金制度は、すべての会社に法律で義務付けられている制度ではない。退職金を支給するかどうか、支給対象、金額、支払時期などは、会社の就業規則や退職金規程で定められる。

会社が退職金制度を設けている場合は、就業規則などに次のような事項が定められている。

  • 退職金の対象となる労働者の範囲
  • 退職金の決定方法
  • 退職金の計算方法
  • 退職金の支払方法
  • 退職金の支払時期

退職前に確認したいのは、自己都合退職と定年退職で金額が変わるか、勤続年数の端数をどう扱うか、退職金の支払予定日がいつかという点だ。退職金の見込み額がわからない場合は、人事部や総務部に試算を依頼できるか確認しよう。

退職金の計算方法は主に4種類ある

退職金の計算方法に、全国共通の決まった式はない。会社の規程によって異なるが、一般的には次のような考え方で算出されることが多い。

退職金=算定基礎額×支給率+特別加算額−減算額

算定基礎額の決め方には、主に次の方式がある。

  • 基本給連動方式
    退職時の基本給と勤続年数などをもとに算出する
  • 定額方式
    基本給に関係なく、勤続年数などに応じて定額で決める
  • 別テーブル方式
    役職、等級、職種などに応じた別表をもとに算出する
  • ポイント制方式
    勤続年数、役職、人事評価などをポイント化して算出する

退職金は、退職理由によって支給率が変わることもある。自己都合退職、会社都合退職、定年退職で扱いが異なる場合があるため、退職前に規程を確認しておこう。

退職金の税金・手続き|退職所得控除を確認する

退職金には所得税・復興特別所得税・住民税がかかる場合がある。ただし、退職金は長年の勤務に対する功労的な性格があるため、通常の給与とは異なり、退職所得控除などにより税負担が軽くなる仕組みがある。

一般的な退職所得の金額は、次の式で計算される。

退職所得=(退職金の収入金額−退職所得控除額)×1/2

退職所得控除額は、勤続年数によって次のように計算する。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数
※80万円未満の場合は80万円
20年超800万円+70万円×(勤続年数−20年)

例えば、勤続30年の場合、退職所得控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円となる。退職金が1,500万円以下であれば、一般的な計算上は退職所得が0円になる。

退職金を受け取る際は、原則として「退職所得の受給に関する申告書」を会社へ提出する。提出していれば、会社側で退職所得控除を反映した源泉徴収が行われる。

一方、申告書を提出していない場合は、退職金の支給額に対して20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収される。この場合は、確定申告によって本来の税額に精算する必要がある。

役員としての勤続年数が短い場合、同じ年に複数の退職金を受け取る場合、前年以前に退職金や確定拠出年金の一時金を受け取っている場合などは計算が異なることがある。判断に迷う場合は、税務署や税理士に確認しよう。

退職金を賢く使うためのポイント|目的別に分けて管理する

退職金の使い道を整理するイメージ

退職金は、ただ生活費として切り崩すだけでも、すべてを投資に回すだけでも不安が残る。まずは使う目的と時期に分け、手元に残す資金と運用を検討する資金を整理しよう。

老後資金は「毎月の不足分」を見込んで考える

老後資金を考える際は、退職金の金額だけでなく、毎月の収入と支出の差を把握することが大切だ。

総務省の2025年家計調査では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における実収入は月254,395円、可処分所得は月221,544円、消費支出は月263,979円だった。可処分所得と消費支出の差は月42,434円であり、この差額は貯蓄などから補う必要がある。

もちろん、必要な老後資金は住居費、医療費、介護費、家族構成、年金額、退職後の働き方によって変わる。「老後資金2,000万円問題」も、すべての人に一律で2,000万円が必要という意味ではない。自分の家計に合わせて試算することが重要だ。

退職金を受け取ったら、まず次の4つに分けて考えると管理しやすい。

  • 当面の生活費
    退職後すぐに使う生活費や税金、社会保険料に備える資金
  • 将来使う予定の資金
    住宅修繕、車の買い替え、医療費、介護費などに備える資金
  • 緊急費用
    病気、災害、家族の事情など予期しない支出に備える資金
  • 運用を検討する資金
    当面使う予定がなく、値動きがあっても生活に影響しにくい余裕資金

緊急費用を確保してから運用を考える

退職金を活用して資産運用を始める場合でも、すべてを投資に回すのは避けたい。投資商品は、金利、為替、株価、景気の影響を受ける。運用益によって資産が増えることもあるが、元本割れする可能性もある。

老後は、医療費や介護費、住宅の修繕費など、予定外の支出が発生することもある。すぐに使う可能性のある資金まで投資に回してしまうと、相場が下落したタイミングで売却せざるを得なくなるかもしれない。

退職金のうち、生活費や緊急費用は預貯金など換金しやすい形で確保し、運用は余裕資金で行うのが基本だ。

資産運用は長期・分散・定期見直しを意識する

退職後は、現役時代より大きな収入を得にくくなる。そのため、短期間で大きく増やそうとするよりも、リスクを取りすぎず資産寿命を伸ばす考え方が重要だ。

退職金の運用目的は「老後資産を守りながら、必要に応じて増やすこと」である。次の方針を確認しておこう。

  • 分散投資
    株式、債券、預貯金など複数の資産に分け、特定の資産に偏りすぎない
  • 長期運用
    短期的な相場変動に振り回されず、時間をかけて運用する
  • 定期見直し
    生活費、年齢、健康状態、リスク許容度に応じて資産配分を見直す

退職金の運用先を選ぶときは、安全性、収益性、流動性のバランスを見る必要がある。代表的な選択肢は次のとおりだ。

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選択肢特徴注意点
預貯金すぐ使いやすく、生活費や緊急資金の保管に向いている一般預金等は、1金融機関ごとに元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護される
個人向け国債国が発行する債券で、満期まで保有すれば元本が戻る発行後1年未満は原則中途換金できないため、すぐ使う資金には向かない
投資信託・NISA少額から分散投資しやすく、NISAを使えば一定枠内で運用益が非課税になる元本保証はなく、相場下落で損失が出る可能性がある
保険商品保障と資産形成を組み合わせられる商品もある途中解約時の返戻金、手数料、保障内容を確認する必要がある

NISAは、2024年からつみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能になり、年間投資枠は最大360万円となっている。ただし、非課税制度を使っても投資リスクがなくなるわけではない。退職金を一括で投資するのではなく、生活費を確保したうえで、余裕資金の範囲で検討しよう。

退職金を活用した例|返済・学び直し・起業は資金計画が重要

退職金の活用方法を考えるイメージ

ここでは、退職金の活用例を紹介する。どの使い道が正解ということではなく、自身の資産状況、家族構成、健康状態、今後の収入見込みに合わせて判断することが大切だ。

住宅ローンの一括返済

退職金で住宅ローンを一括返済すると、毎月の返済負担がなくなり、退職後の家計が安定しやすくなる。利息負担を減らせる点もメリットだ。

一方で、退職金の多くを返済に使うと、手元資金が大きく減ってしまう。医療費、介護費、住宅修繕費などに備えるお金が不足しないか確認が必要だ。

また、住宅ローンを完済すると、住宅ローンに付帯している団体信用生命保険の保障も終了する。万一の保障をどのように確保するかもあわせて考えよう。

  • 完済後も生活費や緊急費用が十分に残るか
  • 住宅ローン金利と運用利回りを比較しているか
  • 団体信用生命保険の保障終了後に備えられるか
  • 住宅修繕費や固定資産税などを別に確保できるか

自己投資・教育費

退職金を、学び直しや資格取得、健康づくり、趣味の充実に使う方法もある。退職後は時間を確保しやすく、現役時代には取り組めなかった分野に挑戦しやすい。

自己投資をするなら、将来的に趣味として続けられるもの、健康維持につながるもの、収入や地域活動に活かせるものを選ぶとよい。

ただし、高額な講座や資格取得に退職金を使う場合は、費用に見合う効果があるか慎重に確認しよう。学習費用だけでなく、教材費、交通費、更新費用、開業費用なども含めて見積もることが大切だ。

起業資金としての活用

退職金を起業資金として活用する方法もある。日本政策金融公庫の2025年度調査では、起業家の起業時年齢は50歳代が13.6%、60歳代が4.1%、パートタイム起業家では50歳代が11.4%、60歳代が9.7%となっている。50代・60代の起業も、選択肢の一つといえる。

起業には、店舗・設備・広告・仕入れ・人件費など、想定以上に資金が必要になる場合がある。退職金をすべて起業に使うと、事業が軌道に乗るまでの生活費や老後資金が不足するおそれがある。

起業を検討する場合は、事業計画、生活費、撤退ラインを事前に決めておこう。会社を一から立ち上げるだけでなく、小規模な副業、フランチャイズ、事業承継、M&Aなど複数の選択肢を比較することも重要だ。

資金計画に不安がある場合は、税理士、金融機関、商工会議所、IFAやFPなどに相談し、生活資金と事業資金を分けて考えよう。

退職金の相談先|IFAだけでなく目的に合わせて選ぶ

退職金の相談先を検討するイメージ

退職金の悩みは、税金、生活設計、資産運用、相続、住宅ローンなど幅広い。相談先は、悩みの内容に合わせて選ぶことが大切だ。

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相談したい内容主な相談先確認できること
退職金の税金税務署、税理士退職所得控除、確定申告、住民税、相続税
退職後の生活設計FP、J-FLEC認定アドバイザー家計管理、ライフプラン、制度の基本
資産運用IFA、FP、金融機関資産配分、金融商品、NISA、リスク管理
住宅ローン・保険金融機関、保険代理店、FP繰上返済、団信、保障の見直し
起業・事業資金税理士、金融機関、商工会議所事業計画、資金調達、税務

中立的な一般相談を受けたい場合は、J-FLEC認定アドバイザーの利用も選択肢になる。個別の金融商品を具体的に提案してもらいたい場合は、IFAや金融機関に相談する流れが考えられる。

IFAとは|資産運用の提案や売買取引の支援を行う専門家

IFAとは、独立系ファイナンシャル・アドバイザーのことだ。日本では主に、金融商品仲介業者として、証券会社や登録金融機関から委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行う人や法人を指す。

IFAは、顧客のライフプランやリスク許容度を踏まえて、金融商品の選定、運用方針、NISAやiDeCoなどの制度活用について助言することがある。退職金のような大きな資金を受け取った後、どの程度を生活費として残し、どの程度を運用に回すかを考える際の相談先になる。

ただし、IFAが提案できる商品や手数料体系は、所属先や提携している金融機関によって異なる。「独立系」という言葉だけで判断せず、登録状況、提携金融機関、報酬の仕組みを確認しよう。

個別のニーズに応じた提案を受けやすい

退職金の使い道は、家族構成、年金額、住宅ローンの有無、健康状態、相続予定、働き方によって変わる。IFAに相談すると、預貯金、投資信託、債券、保険、NISAなどを組み合わせ、資産全体の配分について相談できる場合がある。

特に退職金は、使い方次第で老後の資金計画に大きく影響する。まとまった資金を受け取った直後に焦って商品を選ぶのではなく、生活費や緊急資金を確保したうえで、運用方針を決めることが大切だ。

IFAに相談する場合は、短期的な利回りだけでなく、リスク、手数料、換金性、長期的な生活設計まで説明してくれるかを確認しよう。

資産運用の継続的な見直しを相談できる

退職金の運用は、一度商品を選んで終わりではない。退職後の生活費、医療費、介護費、相続、住まいの変化などに合わせて、資産配分を見直す必要がある。

IFAによっては、定期的な面談や運用状況の確認、相場急変時の相談など、継続的なサポートを行っている。長く相談したい場合は、担当者の継続性やフォロー体制を事前に確認しておくとよい。

ただし、すべてのIFAで同じサービスが受けられるわけではない。相談前に、面談頻度、相談範囲、手数料、提携先、担当者変更の有無を確認しよう。

IFAへ相談する前に確認すべきこと

IFAへの相談を検討する場合は、次の点を確認してから面談に進むと安心だ。

  • 登録状況
    金融商品仲介業者として登録されているか
  • 提携金融機関
    どの証券会社・金融機関の商品を扱えるか
  • 費用
    相談料、販売手数料、信託報酬、その他のコストがどのように発生するか
  • 提案範囲
    投資信託、債券、株式、保険、相続、不動産など、どこまで相談できるか
  • リスク説明
    元本割れ、為替変動、流動性、手数料について十分に説明があるか
  • 継続フォロー
    定期面談や運用見直しの仕組みがあるか

退職金は老後資金の中心になることが多い。「必ず増える」「高利回りで安全」といった説明には注意し、リスクと手数料を理解したうえで判断しよう。

退職金活用は資金の色分けと専門家の活用がカギ

退職金活用の計画を立てるイメージ

本記事では、退職金の基本知識、賢く使うためのポイント、具体的な活用例、相談先の選び方を解説した。

退職金は、退職後の生活を支える大切な資金だ。受け取った金額だけを見て使い道を決めるのではなく、毎月の収入と支出、将来の医療費・介護費、住宅費、家族への支援、相続などを含めて考える必要がある。

まずは、退職金を「当面の生活費」「将来使う予定の資金」「緊急費用」「運用を検討する資金」に分けよう。そのうえで、住宅ローン返済、自己投資、起業、資産運用など、自分に合った使い道を選ぶことが大切だ。

退職金の運用や管理に不安がある場合は、IFA、FP、税理士、J-FLEC認定アドバイザーなど、悩みに合った専門家に相談するとよい。プロの意見を参考にしながら、自分の生活に合った退職金の使い道を検討しよう。

退職金についてIFAに相談し、適切な使い道や運用方法を比較したい場合は、以下のボタンから確認できる。

出典

厚生労働省「モデル就業規則」
e-Gov法令検索「労働基準法」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要」
金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書の公表について」(公開日:2019年6月3日)
金融庁「資産形成の基本:NISA特設ウェブサイト」
金融庁「NISAを知る:NISA特設ウェブサイト」
金融庁「預金保険制度」
財務省「知る|個人向け国債」
日本政策金融公庫総合研究所「2025年度起業と起業意識に関する調査」(公開日:2026年2月10日)
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
日本証券業協会「金融商品仲介業者」
金融経済教育推進機構 J-FLEC「J-FLEC認定アドバイザー」
住宅金融支援機構「機構団体信用生命保険特約制度」

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執筆者

退職金の相談相手 検索サービス「退職金ナビ」を運営する。
「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンにIFA業界のプラットフォームとして、総合コンサルティング事業を展開している。

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