医療法人従業員の退職金はある?制度の有無・計算方法・税金を解説

医療法人に勤めている方の中には、「退職金は受け取れるのか」「どのように計算されるのか」「退職後にどう管理すればよいのか」と不安を感じている方もいるだろう。

結論からいえば、医療法人の従業員の退職金は、一般企業と同じく勤務先の就業規則や退職金規程によって決まる。医療法人だから必ず退職金があるわけではなく、制度があるかどうか、対象者に含まれるか、支給条件を満たしているかを確認することが重要だ。

本記事では、医療法人従業員の退職金制度の特徴、確認すべき書類、計算方法、税金、退職金の管理方法、相談先を解説する。

なお、本文では主に医療法人で働く職員・従業員の退職金を扱う。理事長や役員に支給される役員退職慰労金とは、計算方法や税務上の論点が異なるため注意しよう。

目次

医療法人従業員の退職金制度の特徴

まずは、医療法人従業員の退職金制度の基本を確認しよう。

医療法人の退職金制度は、病院やクリニックの規模、職種、雇用形態、勤続年数、退職理由、外部制度への加入状況によって変わる。

医療法人における退職金制度の概要

医療法人で働く従業員へ退職金を支払うことは、法律で一律に義務付けられているわけではない。退職金制度を設けている場合に、就業規則や退職金規程に基づいて支給される。

退職金制度を設ける場合は、対象となる労働者の範囲、退職金の支給要件、金額の計算方法、支払方法、支払時期などを就業規則に記載する必要がある。

厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、医療・福祉の企業で退職給付制度がある割合は75.5%だった。企業規模別では、30〜99人が70.1%、1,000人以上が90.1%となっており、規模が大きいほど退職給付制度がある割合は高い傾向が見られる。

ただし、この調査は一定規模以上の民営法人を対象とした統計であり、小規模クリニックやすべての医療法人にそのまま当てはまるわけではない。自分の勤務先に制度があるかは、必ず就業規則や退職金規程で確認しよう。

退職金支払いの条件とは?

退職金の支給条件は、医療法人ごとに異なる。よく確認すべき項目は次のとおりだ。

  • 退職金制度の対象者に自分の雇用形態が含まれるか
  • 勤続何年以上で支給対象になるか
  • 自己都合退職・定年退職・会社都合退職で金額が変わるか
  • 休職期間や育児休業期間を勤続年数に含めるか
  • 退職金の支払時期がいつか
  • 懲戒解雇など不支給・減額事由が定められているか

勤続3年以上で支給」「自己都合退職は勤続5年以上」などの条件が設けられているケースもあるが、これはあくまで一例だ。実際の支給条件は勤務先の規程で確認する必要がある。

医療法人従業員が知っておくべき退職金の確認ポイント

医療法人に勤める方の中には、「自分の勤務先にどんな退職金制度があるのかわからない」という方もいるだろう。まずは以下の書類や情報を確認しよう。

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確認するもの確認できること
就業規則退職金制度の有無、退職時の手続き、支払時期
退職金規程支給対象者、支給条件、計算方法、不支給・減額事由
雇用契約書・労働条件通知書雇用形態、退職金制度の有無、給与条件
給与明細企業型DCの加入者掛金、マッチング拠出などの控除があるか
中退共・企業年金の資料外部制度への加入有無、掛金、受け取り方法

中退共に加入している場合、退職金は勤務先ではなく中退共から本人へ支払われる。中退共は事業主が制度として加入するものなので、給与明細だけで判断せず、勤務先に加入状況を確認しよう。

退職金の計算方法を把握しよう

医療法人で働く従業員の退職金は、勤務先の退職金規程に基づいて計算される。全国共通の計算式はないため、自分の勤務先の制度に沿って確認することが大切だ。

基本的な退職金の計算方法

従業員向けの退職金制度では、次のような計算方法が使われることがある。

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計算方法概要確認したいポイント
基本給連動方式退職時の基本給に、勤続年数や支給率を掛けて計算する基本給に手当を含めるか、自己都合係数があるか
定額方式勤続年数ごとに決められた金額を支給する何年以上で支給対象になるか
ポイント制勤続年数、職位、評価などをポイント化して計算する評価や職位がどの程度反映されるか
中退共・特退共掛金月額や納付月数などに応じて退職金が決まる加入有無、掛金月額、納付月数、請求方法
企業年金制度確定給付企業年金や企業型DCなどを通じて給付する一時金・年金の選択肢、運用リスク、受取時の税金

例えば、基本給連動方式では次のような式で試算できる場合がある。

退職金=退職時の基本給×勤続年数に応じた支給係数×退職理由係数

仮に、退職時の基本給が28万円、勤続10年、支給係数0.6、退職理由係数1.0の場合、退職金の目安は28万円×10年×0.6×1.0=168万円となる。

これはあくまで計算例であり、実際の支給額ではない。退職金規程に定められている計算式で試算し、必要に応じて勤務先へ見込み額を確認しよう。

役員退職慰労金の計算式とは区別する

医療法人では、理事長や理事などの役員に対して「役員退職慰労金」が支給される場合がある。役員退職慰労金では、最終報酬月額、役員在任年数、功績倍率などを用いる考え方が使われることがある。

しかし、これは従業員の退職金とは別の論点だ。医療法人に勤務する看護師、事務職、介護職、技師、その他スタッフの退職金を確認する場合は、従業員向けの退職金規程を確認しよう。

退職所得控除と税金の計算方法

退職金を一時金で受け取る場合、原則として「退職所得」として所得税・復興特別所得税・住民税の対象になる。ただし、退職所得控除や2分の1課税により、税負担が軽くなる仕組みがある。

一般的な退職所得の金額は、次の式で計算する。

退職所得の金額=(退職金額−退職所得控除額)×1/2

退職所得控除額は、勤続年数によって次のように決まる。

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勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数
※80万円未満の場合は80万円
20年超800万円+70万円×(勤続年数−20年)

例えば、勤続20年で退職金1,000万円を受け取る場合、退職所得控除額は40万円×20年=800万円となる。退職所得は(1,000万円−800万円)×1/2=100万円だ。

退職金を受け取る前に「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先へ提出していれば、退職所得控除を反映した源泉徴収が行われるため、原則として退職金だけを理由に確定申告をする必要はない。

一方、申告書を提出していない場合は、退職金の支給額に対して20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収される。この場合は、確定申告によって本来の税額に精算する必要がある。

なお、通常の退職時一時金は社会保険料の対象とはされていない。一方、退職金相当額を在職中の給与や賞与に上乗せして前払いする制度では、報酬または賞与として社会保険料の対象になる場合がある。

退職金額の相場と業界特性

医療法人従業員の退職金額は、職種や勤続年数だけでなく、勤務先の制度によって大きく変わる。病院、診療所、介護施設、法人本部など、同じ医療法人でも制度が異なる場合がある。

また、医療・福祉分野は人員規模の差が大きい。大規模病院では企業年金や退職一時金制度が整備されている場合がある一方、小規模クリニックでは退職金制度がない、または中退共など外部制度を利用している場合もある。

相場だけで判断するのではなく、自分の基本給、勤続年数、雇用形態、退職理由、制度の種類をもとに試算しよう。

退職金に関する対策とアドバイス

退職金は、退職後の生活を支える大切な資金だ。受け取る前の手続きだけでなく、受け取った後の管理方法も考えておこう。

ここでは、退職金を受け取る前後に確認したいポイントを整理する。

退職金の最適な管理方法

退職金を受け取ったら、すぐに全額を運用に回すのではなく、まず使う時期ごとに資金を分けることが大切だ。

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資金の区分主な使い道管理方法の例
短期資金退職直後の生活費、税金、健康保険料、転職活動費普通預金など換金しやすい形で管理
中期資金住宅修繕、医療費、車の買い替え、家族への支援定期預金、個人向け国債など安全性を重視
長期資金老後資金、介護費、相続対策余裕資金の範囲でNISAや投資信託などを検討

一般預金等は、1金融機関ごとに元本1,000万円までと破綻日までの利息等が預金保険制度で保護される。一方、NISAは2024年以降、非課税保有限度額が1,800万円となっているが、投資商品には元本割れのリスクがある。

大切なのは、制度のメリットだけで判断しないことだ。生活費や緊急資金を確保したうえで、余裕資金の範囲で運用を検討しよう。

退職金の請求期限と手続き

退職金の請求期限や支払時期は、勤務先の退職金規程や加入している外部制度によって異なる。

中退共に加入している場合、退職金を請求できる期間は従業員が退職した日から5年間とされている。5年の間に請求しないと、時効によって請求する権利が消滅するため注意が必要だ。

退職前後に確認すべき主な手続きは次のとおりだ。

  • 退職金制度の支給対象者に含まれるか確認する
  • 退職金の試算額と支給予定日を確認する
  • 退職所得の受給に関する申告書を提出する
  • 中退共や企業年金の請求書類を確認する
  • 退職所得の源泉徴収票を保管する

書類の不備や提出漏れがあると、支給が遅れる可能性がある。退職日が近づいたら、人事・総務担当者に必要書類を確認しておこう。

退職金に関するトラブルとその対処法

退職金に関するトラブルとしては、支給対象だと思っていたのに対象外だった、支給時期が遅れている、計算額に納得できない、規程を見せてもらえないといったケースがある。

トラブルを防ぐには、退職前に就業規則や退職金規程を確認し、支給条件や計算方法を記録に残しておくことが大切だ。

退職金の未払い・遅延・計算内容に疑問がある場合は、まず勤務先の人事・総務担当者に確認しよう。解決しない場合は、労働基準監督署、総合労働相談コーナー、弁護士などへの相談も検討できる。

医療法人の従業員は退職金相談を誰にするべきか

退職金の悩みは、制度の有無、税金、社会保険、資産運用、生活設計など複数の分野に分かれる。すべてを一つの相談先で解決しようとせず、相談内容に合わせて相談先を選ぼう。

相談内容ごとの相談先

相談先の目安は次のとおりだ。

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相談内容主な相談先確認できること
退職金制度の有無・支給条件勤務先の人事・総務担当者、院内の労務担当者対象者、計算方法、支払時期、必要書類
中退共・企業年金勤務先、中退共本部、企業年金の窓口加入状況、掛金、請求期限、受け取り方法
税金税務署、税理士退職所得控除、確定申告、住民税
社会保険・年金年金事務所、市区町村、社会保険労務士健康保険、国民年金、任意継続、扶養
退職後の生活設計FP、J-FLEC認定アドバイザー家計管理、ライフプラン、資金計画
退職金の運用IFA、FP、金融機関資産配分、金融商品、NISA、リスク管理

退職金制度や支給予定日は、まず勤務先に確認する。税金は税務署や税理士、生活設計はFPやJ-FLEC認定アドバイザー、具体的な金融商品や運用はIFAや金融機関に相談するなど、内容に合わせて使い分けよう。

IFAとは?その役割と注意点

IFAは、独立系ファイナンシャルアドバイザーのことだ。日本では主に、金融商品仲介業者として、証券会社や登録金融機関から委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行う人や法人を指す。

IFAは、顧客のライフプランやリスク許容度を踏まえ、金融商品の選定、資産配分、運用方針、売買取引の支援などを行う場合がある。退職金のようなまとまった資金を受け取った後、どの程度を生活費として残し、どの程度を運用に回すかを相談できる点が特徴だ。

ただし、IFAは税理士や社会保険労務士とは役割が異なる。退職金の税額確定、退職金規程の法的解釈、社会保険の手続きなどは、それぞれの専門家や公的機関に確認しよう。

IFAを活用する際の確認ポイント

IFAに相談する場合は、次の点を事前に確認しておくと安心だ。

  • 金融商品仲介業者として登録されているか
  • 提携している証券会社・金融機関はどこか
  • 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用はいくらか
  • 提案できる商品の範囲に偏りがないか
  • 元本割れ、為替変動、流動性などのリスク説明が十分か
  • 運用後のフォロー体制があるか

退職金は、退職後の生活を支える重要な資金だ。高利回りや安全性を強調する説明だけで判断せず、複数の選択肢を比較し、リスクと費用を理解したうえで検討しよう。

まとめ

医療法人従業員の退職金は、一般企業と同じく勤務先の就業規則や退職金規程によって決まる。退職金制度は法律で必ず設けるものではないため、まず自分の勤務先に制度があるかを確認することが重要だ。

退職金制度がある場合は、支給対象者、勤続年数、退職理由、計算方法、支払時期、不支給・減額事由を確認しよう。中退共や企業年金など外部制度に加入している場合は、請求方法や期限も確認する必要がある。

退職金を一時金で受け取る場合は、退職所得控除や2分の1課税により税負担が軽くなる場合がある。一方、申告書を提出していない場合や、複数の退職金・企業年金一時金を受け取る場合は、税額の計算が変わることがあるため注意が必要だ。

受け取った退職金は、生活費や緊急資金を確保したうえで、短期・中期・長期の目的別に分けて管理しよう。運用を検討する場合は、余裕資金の範囲でリスクと費用を確認することが大切だ。

退職金の制度確認は勤務先、税金は税務署や税理士、生活設計はFPやJ-FLEC認定アドバイザー、資産運用はIFAや金融機関など、相談内容に合った専門家を活用しよう。

退職金に関する不安や運用方針を相談したい場合は、以下のボタンから確認できる。

出典

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」(公開日:2023年10月31日)
厚生労働省「モデル就業規則」
厚生労働省「中小企業退職金共済制度(中退共制度)」
中小企業退職金共済事業本部「退職金の請求期限はありますか?」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
国税庁「A2-29 退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」
厚生労働省「いわゆる退職金の前払いに係る社会保険料の取扱いについて」
金融庁「預金保険制度」
金融庁「NISAを知る:NISA特設ウェブサイト」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
日本証券業協会「金融商品仲介業者」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」
金融経済教育推進機構 J-FLEC「J-FLEC認定アドバイザー」
金融経済教育推進機構 J-FLEC「専門家に相談したい」

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執筆者

退職金の相談相手 検索サービス「退職金ナビ」を運営する。
「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンにIFA業界のプラットフォームとして、総合コンサルティング事業を展開している。

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