公認会計士は、監査・会計・税務・コンサルティングなど幅広い分野で活躍する高度専門職です。監査法人、会計事務所、一般企業、独立開業など、働き方の選択肢が多い点も特徴です。
一方で、公認会計士の退職金は「資格があるから一律に多い」というものではありません。実際の退職金は、勤務先の退職金規程、企業年金制度、勤続年数、役職、退職理由によって大きく変わります。
特に監査法人や会計事務所に勤務している場合は、退職一時金だけでなく、公認会計士企業年金基金などの企業年金制度の有無も確認しておきたいポイントです。
本記事では、公認会計士の退職金について、制度の基本、計算方法、税金、受け取り方、退職金の運用・相談先までわかりやすく解説します。
公認会計士の退職金は勤務先の制度で大きく変わる
公認会計士単体の退職金平均額を示す公的統計は限られています。そのため、「公認会計士の退職金はいくら」と一律に判断するのは難しいのが実情です。
参考として、厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」では、退職給付制度がある企業における大学・大学院卒の定年退職者の退職給付額は、平均1,896万円です。
ただし、この数字は公認会計士だけの平均ではありません。監査法人、会計事務所、一般企業、独立開業など、働き方によって退職金の有無や金額は大きく異なります。
退職金の目的と役割
退職金は、長年の勤務に対する報償や、退職後の生活資金を支える目的で支給されるお金です。
民間企業では、退職金制度を設けるかどうかは会社によって異なります。退職金制度がある場合は、支給対象者、計算方法、支払時期、減額・不支給となる条件などが就業規則や退職金規程に定められます。
厚生労働省の調査では、退職給付制度がある企業割合は74.9%です。企業規模別では、1,000人以上の企業で90.1%、30〜99人の企業で70.1%となっており、会社規模によって制度の有無に差があります。
退職金を見込んだ生活設計を立てる場合は、まず勤務先に退職金制度があるか、ある場合はどのような計算方法なのかを確認しましょう。
公認会計士の退職金制度
公認会計士の退職金制度は、働く場所によって確認すべきポイントが異なります。
| 勤務先・働き方 | 退職金の考え方 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 監査法人 | 法人の退職金規程や企業年金制度に基づく | 退職一時金 企業型DC 公認会計士企業年金基金の有無 |
| 会計事務所・税理士法人 | 事務所ごとの就業規則・退職金規程に基づく | 退職金制度の有無 最低勤続年数 支払時期 |
| 一般企業 | 他の社員と同じ退職金規程に基づくことが多い | 職種別制度 役職 勤続年数 企業年金の有無 |
| 独立開業 | 勤務先からの退職金はない | 小規模企業共済 iDeCo、NISAなどで自分で備える |
監査法人や公認会計士事務所などの加入事業所に勤務している場合、公認会計士企業年金基金に加入していることがあります。
公認会計士企業年金基金は、日本公認会計士協会を母体とする確定給付企業年金です。2025年7月末時点で、加入事業所数は374事業所、加入者数は91,898人とされています。
同基金の掛金は事業主が全額負担するため、加入者本人の負担はありません。基金からの給付には、老齢給付金、脱退一時金、遺族給付金などがあり、加入者期間や年齢によって受けられる給付が変わります。
基金脱退時の加入者期間が3年以上10年未満の場合は脱退一時金の対象となり、加入者期間が10年以上で60歳未満の場合も脱退一時金や年金制度への移換などを検討できます。
ただし、公認会計士企業年金基金は、加入事業所に勤務している人が対象です。すべての公認会計士が自動的に加入する制度ではないため、勤務先の制度を確認しましょう。
退職金の受給条件と支払い時期
退職金を受け取れるかどうかは、勤務先の退職金規程で決まります。退職金制度がなければ、原則として退職金は支給されません。
退職金制度がある場合でも、勤続年数が一定年数以上であること、正社員であること、懲戒解雇に該当しないことなど、支給条件が定められていることがあります。
また、自己都合退職、会社都合退職、定年退職、早期退職など、退職理由によって支給率が変わる会社もあります。
支払い時期についても法律で一律に決まっているわけではなく、各企業の退職金規程に従います。退職後すぐに資金が必要になる場合は、退職金の支給予定日を事前に確認しておきましょう。
退職金の計算方法|公認会計士も勤務先規程の確認が必要
退職金の計算方法は、企業や法人ごとに異なります。公認会計士だからといって、法律上の特別な退職金計算式があるわけではありません。
ここでは、一般的に使われる退職金の計算方法と、公認会計士が確認すべきポイントを整理します。
基本的な退職金計算の仕組み
代表的な退職金の計算方法は以下の通りです。
| 計算方法 | 仕組み | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 基本給連動型 | 退職時の基本給に勤続年数や支給率を掛ける | 基本給 勤続年数 退職理由別支給率 |
| 定額方式 | 勤続年数ごとにあらかじめ退職金額を定める | 勤続年数別の支給表 |
| 別テーブル方式 | 基本給とは別に、役職や等級ごとの表で計算する | 役職 等級 退職理由 |
| ポイント制 | 勤続年数・役職・評価などをポイント化して計算する | 付与ポイント 単価 支給率 |
| 企業年金型 | DB・DCなどの企業年金として積み立てる | 受け取り方法 一時金・年金の選択 運用状況 |
たとえば基本給連動型の場合、以下のように計算されることがあります。
退職金 = 退職時の基本給 × 勤続年数 × 退職理由別支給率
ただし、これはあくまで一般的な例です。実際には、役職別の加算、勤続年数ごとの上限、自己都合退職時の減額、企業年金との併用など、勤務先ごとのルールがあります。
公認会計士の場合に確認したい計算ポイント
公認会計士の退職金を考えるときは、年収の高さだけで判断しないことが大切です。退職金の計算では、賞与やインセンティブではなく、基本給や役職等級が基準になることがあります。
たとえば、基本給連動型で以下の条件を仮定すると、退職金は次のように計算できます。
スタッフ期間:基本給40万円 × 4年 × 支給率70% = 112万円
マネージャー期間:基本給50万円 × 3年 × 支給率80% = 120万円
合計:112万円 + 120万円 = 232万円
この例では232万円ですが、実際の金額は勤務先の規程によって異なります。監査法人、会計事務所、一般企業のいずれに勤務しているかによっても制度は変わります。
また、公認会計士企業年金基金や企業型DCに加入している場合は、退職一時金だけでなく、基金や年金制度から受け取れる金額もあわせて確認する必要があります。
退職金の上限や減額要因
退職金の上限額は、法律で一律に定められているわけではありません。各企業や法人が、自社の退職金規程に基づいて決めます。
退職金が減額される主な要因には、以下のようなものがあります。
- 自己都合退職により支給率が下がる
- 勤続年数が支給要件を満たしていない
- 役職や等級が想定より低い
- 懲戒解雇などにより減額・不支給規定に該当する
- 退職金制度の見直しや労働条件変更の影響を受ける
退職金規程に減額・不支給の条件が記載されている場合は、退職金が満額支給されないことがあります。退職を検討している場合は、早めに規程を確認しておきましょう。
退職金の税金は?一時金・年金で扱いが変わる
退職金は受け取り方によって税金の扱いが変わります。一時金で受け取る場合は退職所得、年金で受け取る場合は公的年金等に係る雑所得として扱われるのが一般的です。
税金だけでなく、受け取り後の資金管理のしやすさも考えて選ぶことが大切です。
一時金で受け取る場合の税金
退職金を一時金で受け取る場合は、退職所得控除が適用されます。
退職所得は、退職金の額面から退職所得控除額を差し引き、その2分の1を課税対象とするのが原則です。
課税退職所得金額 =(退職金額 − 退職所得控除額)× 1/2
※1,000円未満は切り捨て
勤続年数が20年以下の場合:
40万円 × 勤続年数
※80万円未満の場合は80万円
勤続年数が20年超の場合:
800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
たとえば、退職金1,500万円、勤続25年の場合は、以下のように概算できます。
1.退職所得控除額を計算
800万円 + 70万円 ×(25年 − 20年)= 1,150万円
2.課税退職所得金額を計算
(1,500万円 − 1,150万円)× 1/2 = 175万円
3.所得税・復興特別所得税を概算
175万円 × 5% × 102.1% = 約8万9,000円
4.住民税を概算
175万円 × 10% = 17万5,000円
✅ 税額の概算
約26万4,000円
勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、退職所得控除を反映した税額で源泉徴収されるため、原則として退職金だけを理由に確定申告する必要はありません。
一方、申告書を提出していない場合は、退職金の支払額に対して20.42%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収され、確定申告で精算する必要があります。
年金で受け取る場合の税金
退職金や企業年金を年金形式で受け取る場合は、一時金のような退職所得控除ではなく、公的年金等控除の対象となるのが一般的です。
公的年金等に係る雑所得は、年金収入から公的年金等控除額を差し引いて計算します。
公的年金等に係る雑所得 = 公的年金等の収入金額 − 公的年金等控除額
公認会計士企業年金基金のQ&Aでは、基金から支給される給付金の総額は年金で受け取る方が多くなると案内されています。ただし、税金や社会保険料を含めた手取り額は、本人の年齢、他の年金収入、所得、住んでいる自治体によって変わります。
一時金と年金のどちらが有利かは、退職金額、企業年金額、受け取り期間、他の収入、家計状況をもとに試算して判断しましょう。
退職金の適切な運用方法
退職金は、生活費や老後資金の土台になる大切なお金です。受け取った直後にすべてを投資に回すのではなく、まずは資金を3つに分けて考えましょう。
- 使うお金
退職直後の生活費、住宅ローン返済、引っ越し、教育費、リフォーム費用など - 守るお金
医療費、介護費、家族支援、収入減に備える緊急資金 - 運用するお金
当面使う予定がなく、長期で資産寿命を延ばすために使える資金
運用するお金については、NISAやiDeCoを活用する選択肢があります。
2024年以降のNISAでは、つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能になり、年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は最大1,800万円です。投資で得た利益が非課税になるため、長期運用に向いています。
iDeCoは、掛金が全額所得控除となり、運用益も運用中は非課税です。ただし、受け取り時には一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除の対象となるため、iDeCoと退職金や企業年金との受け取り時期を確認しておく必要があります。
独立開業している公認会計士であれば、小規模企業共済も選択肢になります。小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者などのための退職金準備制度で、掛金は全額所得控除の対象です。
ただし、NISAやiDeCoで投資信託などを利用する場合、元本割れのリスクがあります。生活資金までリスク資産に回さないよう注意しましょう。
転職・独立・労働条件変更時の退職金対策
公認会計士は、監査法人から一般企業へ転職したり、会計事務所を開業したりするケースもあります。働き方が変わると、退職金制度も変わります。
特に独立開業する場合、勤務先からの退職金はなくなるため、自分で老後資金を準備する必要があります。小規模企業共済、iDeCo、NISA、預貯金、保険などを組み合わせて、退職金代わりの資産を計画的に作ることが大切です。
また、転職時には、前職の退職金、企業年金、企業型DCの移換手続き、新しい勤務先の退職金制度を確認しましょう。企業型DCの資産を放置すると、手数料や運用機会の面で不利になることがあります。
退職金が想定より少なくなりそうな場合は、早めに家計の見直しや資産形成の計画を立てておきましょう。
退職金相談は「お金の専門家」へ
退職金は、人生の中でも大きなまとまった資金です。使い道や運用方法を誤ると、老後資金に影響する可能性があります。
退職金の受け取り方や運用方法に迷う場合は、IFAなどのお金の専門家に相談するのも選択肢のひとつです。
IFA(Independent Financial Advisor)とは
IFAとは、Independent Financial Advisorの略で、日本語では独立系ファイナンシャル・アドバイザーと呼ばれます。
IFAは金融商品仲介業者として、顧客のライフプランやリスク許容度に応じた金融商品の提案や売買取引の支援を行います。退職金の運用、NISAやiDeCoの活用、資産配分の見直しなどを相談できる場合があります。
ただし、IFAに相談すれば必ず最適な運用ができるわけではありません。相談先によって、提携金融機関、取扱商品、手数料、提案方針が異なります。
IFAに相談するメリット
IFAに相談するメリットは、退職金だけでなく、家計、年金、保険、住宅ローン、相続、資産運用を含めて、ライフプラン全体からお金の流れを整理しやすい点です。
公認会計士は会計・税務に詳しい方も多い一方で、自分自身の資産運用や退職後のキャッシュフローを客観的に整理する機会は少ないかもしれません。
第三者に相談することで、「どの程度を生活資金として残すか」「どの金額なら運用に回せるか」「退職金と企業年金をどう受け取るか」を検討しやすくなります。
IFAに相談する前に確認したいこと
IFAを利用する場合は、以下の点を確認しておきましょう。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
金融庁の登録業者一覧などで確認できます。 - 提携している金融機関はどこか
提携先によって、提案できる商品や手数料体系が変わります。 - 手数料や報酬の仕組み
相談料、販売手数料、信託報酬、継続的な管理費用を確認しましょう。 - 税務や相続は専門家と連携できるか
個別具体的な税務判断は税理士の専門領域です。必要に応じて税理士や弁護士と連携できるか確認しましょう。 - リスク説明が十分か
メリットだけでなく、元本割れや価格変動リスクについて丁寧に説明してくれるかを見極めましょう。
退職金は、生活の土台となる大切な資金です。相談先の提案をそのまま受け入れるのではなく、手元資金を十分に残したうえで、無理のない範囲で活用しましょう。
IFAによる退職金対策の具体例
IFAに相談すると、退職金の使い道を以下のように整理できます。
- 退職後のキャッシュフロー作成
年金、退職金、企業年金、再雇用収入、生活費を見える化する - 資産配分の見直し
預貯金、投資信託、債券、株式、保険などのバランスを確認する - NISA・iDeCoの活用
非課税制度を使いながら、長期運用の方針を決める - 退職金の取り崩し計画
必要な時期に必要な金額を使えるように資金を分ける
退職金の運用は、節税だけでなく、生活資金を守ることも大切です。専門家に相談する場合も、リスクを理解したうえで判断しましょう。
まとめ
公認会計士の退職金は、資格そのものではなく、勤務先の退職金規程や企業年金制度によって決まります。監査法人、会計事務所、一般企業、独立開業など、働き方によって退職金の有無や金額は大きく変わります。
監査法人や公認会計士事務所などの加入事業所に勤務している場合は、公認会計士企業年金基金の対象になることがあります。退職一時金だけでなく、企業年金を含めた退職給付全体を確認しましょう。
退職金を一時金で受け取る場合は退職所得控除が適用され、年金で受け取る場合は公的年金等に係る雑所得として扱われます。どちらが有利かは、退職金額、勤続年数、他の所得、企業年金の受け取り方によって異なります。
退職金を受け取った後は、すぐに投資や大きな支出を決めるのではなく、使うお金・守るお金・運用するお金に分けて考えることが大切です。
自分だけで判断するのが難しい場合は、IFAなどの専門家に相談するのも選択肢のひとつです。ただし、相談先の登録状況、手数料、提携金融機関、リスク説明を確認したうえで利用しましょう。
退職金の税金や適切な運用方法に悩む方は、必要に応じて以下ボタンから相談先を確認してみてください。
出典
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「公認会計士」
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」(公開日:2023年10月31日)
厚生労働省「モデル就業規則」(公開日:2025年12月1日)
公認会計士企業年金基金「企業年金のしくみ」
公認会計士企業年金基金「掛金」
公認会計士企業年金基金「基金からの給付」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.2260 所得税の税率」(公開日:2025年4月1日)
金融庁「NISAを知る」
金融庁「資産形成の基本」
厚生労働省「iDeCoの概要」
独立行政法人 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度の概要」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

