会社から「確定給付企業年金に加入している」と説明されても、どのような制度なのか、退職時にいくら受け取れるのか分かりにくいと感じる方は多いでしょう。
確定給付企業年金は、企業が従業員と給付内容をあらかじめ約束し、退職後や高齢期に年金または一時金として給付する企業年金制度です。
ただし、受け取り方や金額は勤務先の規約によって異なります。退職金と同じように一時金で受け取れる場合もあれば、年金形式で受け取る場合、企業型DCやiDeCoとあわせて老後資金を考える必要がある場合もあります。
本記事では、確定給付企業年金の仕組み、確定拠出年金との違い、受け取り方、退職金の運用方法、相談先をわかりやすく解説します。
確定給付企業年金の仕組み
確定給付企業年金は、英語のDefined Benefit Planを略して「DB」と呼ばれます。
企業年金には複数の種類がありますが、DBは「将来の給付内容があらかじめ決まっている」点が大きな特徴です。
確定給付企業年金とは何か
確定給付企業年金とは、企業が従業員と給付内容を約束し、その内容に基づいて退職後や高齢期に給付を行う企業年金制度です。
給付額の計算方法は勤務先の年金規約で定められます。たとえば、勤続年数、給与、職位、ポイントなどをもとに、将来の年金額や一時金額が決まります。
DBには、企業年金基金が管理・運用・給付を行う「基金型」と、企業が年金規約を定めて生命保険会社や信託銀行などに委託する「規約型」があります。
2025年3月末時点で、確定給付企業年金の制度数は11,653件、加入者数は887万人です。企業型確定拠出年金の加入者数は862万人であり、DBは現在も企業年金の主要な制度の一つです。
確定給付企業年金のメリットと注意点
確定給付企業年金のメリットは、将来の給付内容があらかじめ規約で決まっているため、老後資金の見通しを立てやすいことです。
また、運用は企業や企業年金基金側が行います。確定拠出年金のように、加入者本人が運用商品を選んで運用結果の責任を負う制度とは異なります。
一方で、DBだけで老後資金が十分とは限りません。勤務先の制度内容、給付水準、退職時期、受け取り方によって、実際に使える資金は大きく変わります。
| 項目 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 給付内容 | 規約で給付の算定方法が決まっているため、見通しを立てやすい | 具体的な金額は勤務先の制度により異なる |
| 運用責任 | 企業や基金側が年金資産を管理・運用する | 運用状況が悪化した場合、制度変更や追加拠出が必要になる場合がある |
| 本人負担 | 多くの制度では事業主が掛金を拠出する | 制度によっては本人負担がある場合もある |
| 税金 | 一時金は退職所得、年金は公的年金等として扱われる場合がある | 受け取り方によって税金や確定申告の要否が変わる |
退職前には、会社から配布される年金規約、制度説明資料、給付見込額の通知などを確認しましょう。
企業年金の種類と特徴
企業年金には、主に確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(企業型DC)、厚生年金基金があります。
現在の新規導入で中心となるのは、DBと企業型DCです。厚生年金基金は新設が認められておらず、現存する制度は少数です。
| 項目 | DB 確定給付企業年金 | 企業型DC 確定拠出年金 | 厚生年金基金 |
|---|---|---|---|
| 仕組み | 給付内容があらかじめ決まっている | 拠出された掛金と運用結果により給付額が決まる | 老齢厚生年金の一部を代行し、独自給付を上乗せする制度 |
| 運用責任 | 企業または企業年金基金側 | 加入者本人 | 基金側 |
| 将来の給付額 | 規約で算定方法が決まる | 運用結果により変動する | 制度により異なる |
| 現在の位置づけ | 企業年金の主要制度 | 加入者数が増加している主要制度 | 新設は認められていない |
DBは「会社側が運用を行う制度」、企業型DCは「加入者本人が運用商品を選ぶ制度」と考えると、違いを理解しやすくなります。
確定給付企業年金の活用法
確定給付企業年金は、加入者が自由に商品を選んで運用する制度ではありません。
そのため、活用するうえで重要なのは、勤務先の制度内容を正しく把握し、退職金・企業年金・公的年金・自分の資産を合わせて考えることです。
確定給付企業年金を確認する5つのポイント
確定給付企業年金に加入している場合は、次の項目を確認しておきましょう。
- 給付額の計算方法
- 一時金・年金・併用の選択可否
- 受給開始時期
- 中途退職時の脱退一時金や移換の扱い
- 企業型DC・iDeCoとの併用時の拠出限度額への影響
特に、退職時に一時金として受け取るか、年金形式で受け取るかは、税金や退職後の生活設計に影響します。
また、2024年12月からは、企業型DCやiDeCoの拠出限度額の算定において、DBなど他制度の掛金相当額が反映される仕組みになっています。iDeCoを利用したい方は、自分の勤務先のDBに係る他制度掛金相当額も確認しておきましょう。
中途退職時は脱退一時金や移換を確認する
確定給付企業年金では、退職時期や加入期間によって、脱退一時金を受け取れる場合や、年金資産を別の制度へ移せる場合があります。
厚生労働省は、企業年金やiDeCoでは離転職時に年金資産を他の制度へ持ち運べる場合があると説明しています。これをポータビリティといいます。
たとえば、DBからiDeCo、通算企業年金、企業型DC、転職先のDBなどへ移換できる場合があります。ただし、移換できるかどうかは、退職前のDB規約や転職先の制度によって異なります。
転職を予定している方は、退職一時金として受け取るべきか、将来の年金として残すべきかを、退職前に確認しておきましょう。
受給開始時期と受け取り方は勤務先の規約で確認する
確定給付企業年金の支給開始時期は、勤務先の年金規約で定められます。
以前は、DBの支給開始時期は一般的な定年年齢を踏まえて60歳から65歳の間で設定できる仕組みでしたが、制度改正により設定可能な範囲が70歳まで拡大されています。
ただし、すべてのDBで70歳まで自由に繰り下げられるわけではありません。実際の受給開始時期、一時金の選択可否、年金の支給期間は、勤務先の制度によって異なります。
退職前に確認したい主な内容は、次のとおりです。
- 何歳から受給できるか
- 一時金で受け取れるか
- 年金で受け取る場合の期間は何年か
- 一時金と年金を併用できるか
- 受け取り方を後から変更できるか
制度によっては、一度選んだ受け取り方を変更できない場合があります。税金だけでなく、退職後の生活費やまとまった支出も踏まえて判断しましょう。
退職金の運用方法と注意点
退職金や確定給付企業年金を受け取るときは、受け取り方と運用方法を分けて考えることが大切です。
まずは税金や受け取り時期を確認し、そのうえで生活費、予備資金、運用資金に分けて管理しましょう。
退職金を一括で受け取るか分割で受け取るか
退職金や企業年金は、一時金として受け取る場合と、年金形式で受け取る場合で税金の扱いが異なります。
一時金として受け取る場合は、原則として退職所得として扱われます。退職所得には勤続年数に応じた退職所得控除があり、控除後の金額に2分の1を掛けて課税退職所得を計算します。
退職所得=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2
※短期退職手当等に該当する場合は、2分の1計算が一部適用されないことがあります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
年金形式で受け取る場合は、原則として公的年金等に係る雑所得として扱われ、公的年金等控除の対象になります。
一般的には一時金の退職所得控除の効果が大きいケースがありますが、必ず一時金が有利とは限りません。他の年金収入、退職金額、退職後の生活費、住宅ローン、医療費、相続対策などによって判断は変わります。
また、退職所得の優遇を受けるには、退職金を受け取る前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出する必要があります。提出していない場合は、退職金の支給額に対して20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。この場合でも、確定申告で精算できます。
退職金を運用する際のリスク管理
退職金を受け取った後、すぐにすべてを投資に回すのは避けたほうがよいでしょう。
退職後は、現役時代のように給与収入で損失を補いにくくなる場合があります。そのため、まずは生活に必要な資金を確保し、余裕資金の範囲で運用することが基本です。
退職金は、次のように分けて考えると管理しやすくなります。
| 資金の区分 | 使い道 | 考え方 |
|---|---|---|
| 生活資金 | 毎月の生活費、税金、社会保険料 | 元本割れしにくい預貯金などで確保する |
| 予備資金 | 医療費、介護費、住宅修繕費、急な支出 | すぐ使える形で残しておく |
| 数年以内に使う資金 | 住宅ローン返済、車の買い替え、家族支援 | 値動きの大きい商品に回しすぎない |
| 長期運用資金 | 10年以上使わない余裕資金 | NISAや投資信託などを検討する |
投資信託や株式は資産を増やせる可能性がある一方で、元本割れのリスクがあります。分散投資を行う場合も、資産全体の中でどの程度のリスクを取れるかを確認しましょう。
運用方法の選択肢と老後生活費の目安
退職金の運用方法には、預貯金、個人向け国債、債券、投資信託、株式、保険商品などがあります。
運用商品を選ぶ前に、退職後の生活費を把握しておくことが重要です。
総務省の2025年家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、実収入が254,395円、可処分所得が221,544円、消費支出が263,979円です。消費支出と非消費支出を合わせた支出との差額は、月42,434円の不足となっています。
また、生命保険文化センターの2025年度調査では、夫婦2人の老後の最低日常生活費は月額平均23.9万円、ゆとりある老後生活費は月額平均39.1万円とされています。
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 65歳以上夫婦無職世帯の可処分所得 | 月221,544円 |
| 65歳以上夫婦無職世帯の消費支出 | 月263,979円 |
| 差額分 | 月42,434円の不足 |
| 夫婦2人の最低日常生活費 | 月23.9万円 |
| 夫婦2人のゆとりある老後生活費 | 月39.1万円 |
平均値はあくまで目安です。住居費、住宅ローン、医療費、介護費、車の有無、家族への支援によって必要額は変わります。
退職金を運用する場合は、生活に必要な資金を確保したうえで、長期で使わない資金を運用に回すようにしましょう。
NISAを活用する場合も、退職金受取時の税金を直接減らす制度ではなく、投資による売却益や配当・分配金が非課税になる制度である点を理解しておく必要があります。
退職金に関する相談は誰にするべきか
確定給付企業年金や退職金について不安がある場合、相談先は悩みの内容によって変わります。
勤務先のDB制度そのものについては、まず会社の人事・労務担当や企業年金基金に確認しましょう。税金については税務署や税理士、退職金の使い方や資産運用についてはFPやIFAなどの金融アドバイザーが相談先になります。
| 相談したい内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| DBの加入状況・給付見込額 | 勤務先の人事・労務担当、企業年金基金 |
| 退職時の手続き・移換 | 勤務先、企業年金基金、企業年金連合会 |
| 退職金や年金の税金 | 税務署、税理士 |
| 退職金の使い方・資産運用 | FP、IFAなどの金融アドバイザー |
| 制度説明や書面の確認 | 勤務先、社会保険労務士 |
IFAに相談できること
IFAとは、Independent Financial Adviserの略で、独立系ファイナンシャル・アドバイザーと呼ばれます。
IFAは、顧客のライフプランやニーズに合わせて、金融商品の選定・運用、NISAやiDeCoなど制度活用の提案、売買取引の支援などを行います。
退職金や企業年金の相談では、次のような内容を整理しやすくなります。
- 退職後のキャッシュフロー整理
- 公的年金、企業年金、退職金、生活費を一覧にして資金計画を立てる
- 退職金の使い道の整理
- 生活資金、予備資金、運用資金に分けて考える
- 資産配分の見直し
- 預貯金、債券、投資信託、株式などのバランスを確認する
- NISA・iDeCoの活用相談
- 制度の特徴や注意点を踏まえて、老後資金づくりに活用できるか検討する
- 継続的な見直し
- 退職後の生活状況や市場環境の変化に応じて運用方針を見直す
ただし、IFAに相談すれば必ず運用成果が上がるわけではありません。また、個別具体的な税務判断や申告の相談は、税理士や税務署に確認する必要があります。
IFAに相談する前に確認すべきこと
IFAは複数の金融機関と提携している場合がありますが、取り扱える商品や手数料体系は所属先によって異なります。
相談前には、次の項目を確認しましょう。
- 相談料の有無
- 金融商品の購入時・保有中・売却時にかかる手数料
- 提携している金融機関
- 取り扱える商品の範囲
- 担当者の登録状況や経験
- 税理士や弁護士など他の専門家との連携体制
退職金は、退職後の生活を支える大切な資金です。焦って金融商品を選ぶのではなく、まずは必要な生活資金を確保し、余裕資金の範囲で運用を検討しましょう。
確定給付企業年金の受取額や受け取り方が分からない場合は、勤務先の制度確認を先に行い、その後に税金や資産運用の相談へ進むとスムーズです。
まとめ
確定給付企業年金は、企業が従業員と給付内容を約束し、退職後や高齢期に年金または一時金として給付する企業年金制度です。
DBは将来の給付内容を見通しやすい一方で、具体的な金額や受け取り方は勤務先の規約によって異なります。退職前には、給付見込額、一時金・年金の選択可否、受給開始時期、中途退職時の扱いを確認しましょう。
企業型DCやiDeCoと併用している場合は、DBの他制度掛金相当額が拠出限度額に影響することがあります。iDeCoを活用したい方は、勤務先の案内も確認しておくと安心です。
退職金や企業年金を受け取るときは、税金の扱いも重要です。一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金形式で受け取る場合は公的年金等控除が関係します。
退職金を運用する場合は、生活資金、予備資金、数年以内に使う資金、長期運用に回せる資金を分けて考えましょう。運用に不安がある場合は、手数料や取扱商品の範囲を確認したうえで、FPやIFAなどの専門家に相談することも選択肢の一つです。
出典
厚生労働省「確定給付企業年金制度」
企業年金連合会「企業年金制度」
一般社団法人信託協会・一般社団法人生命保険協会・全国共済農業協同組合連合会「企業年金(確定給付型)の受託概況(令和7年3月末現在)」(公開日:2025年6月4日)
運営管理機関連絡協議会・一般社団法人信託協会・一般社団法人生命保険協会「確定拠出年金(企業型)の統計概況(令和7年3月末現在)」(公開日:2025年6月4日)
厚生労働省「確定給付企業年金制度の主な改正(令和2年6月5日施行、令和4年5月1日施行)」
厚生労働省「確定拠出年金の拠出限度額の見直しに伴うDBの対応(令和6年12月1日施行)」
厚生労働省「離職・転職時等の年金資産の持ち運び(ポータビリティ)」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」(公開日:2025年4月1日)
総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要」
公益財団法人生命保険文化センター「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」
金融庁「NISAを知る:NISA特設ウェブサイト」
厚生労働省 job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA) – 職業詳細」

