美容師として働いている人の中には、「美容室を辞めるときに退職金はもらえるのか」「業務委託やフリーランスでも退職金はあるのか」と気になっている人も多いだろう。
結論からいうと、美容師が退職金を受け取れるかどうかは、勤務先の就業規則や退職金規程によって決まる。退職金制度がある美容室で、支給条件を満たしていれば受け取れる可能性がある。
一方で、退職金制度はすべての会社に義務付けられているものではない。退職金制度がない美容室で働いている場合や、業務委託・フリーランスとして働いている場合は、自分で老後資金や退職金代わりの資金を準備する必要がある。
この記事では、美容師の退職金制度の確認方法、雇用形態ごとの違い、退職金の計算方法、未払い時の対処法、自分で退職金を準備する方法を解説する。
美容師の退職金についての基礎知識
美容師の退職金を考えるときに最初に確認したいのは、勤務先に退職金制度があるかどうかである。
退職金制度は法律で必ず設けなければならないものではない。ただし、会社が退職金制度を設ける場合は、適用される労働者の範囲、支給要件、金額の計算方法、支払方法、支払時期などを就業規則に記載する必要がある。
そのため、退職金の有無や金額を知りたい場合は、求人票や口頭説明だけでなく、就業規則・退職金規程・雇用契約書を確認しよう。
美容師は退職金を受け取れるか?
美容師が退職金を受け取れるかどうかは、勤務先の美容室に退職金制度があるか、そして自分が支給対象に含まれているかによって決まる。
退職金規程がある場合でも、すべての従業員に同じ条件で支給されるとは限らない。次のような条件が定められていることがある。
- 正社員のみ対象
- 勤続3年以上など最低勤続年数の条件がある
- 自己都合退職では支給率が下がる
- 懲戒解雇の場合は不支給または減額される
- アシスタント・スタイリスト・店長など職位で計算方法が変わる
- 中退共など外部の退職金制度を利用している
退職金は「美容師だから必ずない」「正社員なら必ずある」と判断できるものではない。勤務先ごとの制度確認が必要だ。
雇用形態で異なる退職金の支給
美容師の働き方は、正社員、パート・アルバイト、業務委託、フリーランスなどに分かれる。雇用形態によって退職金の考え方も異なる。
| 働き方 | 退職金の考え方 | 確認すべきこと |
|---|---|---|
| 正社員 | 退職金制度がある美容室では、規程に基づいて支給される可能性がある | 退職金規程 最低勤続年数 自己都合退職時の支給率 |
| パート・アルバイト | 支給対象になるかは勤務先の規程次第。正社員と条件が異なることがある | 支給対象に含まれるか 勤務時間や雇用期間の条件 |
| 業務委託 | 原則として雇用契約ではないため、美容室の退職金制度の対象外になりやすい | 契約内容 実態が雇用に近いか 報酬・指揮命令の実態 |
| フリーランス・面貸し | 事業主として働くため、勤務先からの退職金は基本的に期待しにくい | 小規模企業共済 iDeCo 国民年金基金など自助制度 |
業務委託やフリーランスの場合、退職金は勤務先から支給されないことが多い。将来の引退や廃業に備えるなら、自分で退職金代わりの制度を活用する必要がある。
一方、契約書上は業務委託でも、実態として勤務時間や業務内容を細かく指示され、雇用に近い働き方をしている場合は、労働者性が問題になることもある。判断に迷う場合は、労働相談窓口や弁護士に相談しよう。
美容室が導入できる退職金制度|中退共
美容室などの中小企業が従業員のために退職金制度を作る方法として、中小企業退職金共済制度(中退共)がある。
中退共は、中小企業退職金共済法に基づく国の退職金制度である。事業主が中退共と退職金共済契約を結び、毎月の掛金を金融機関に納付する。従業員が退職したときは、中退共から従業員本人へ退職金が直接支払われる。
中退共の掛金は、全額事業主が負担する。従業員に掛金の一部を負担させることはできない。
美容室が中退共を導入している場合、従業員は勤務先の退職金規程だけでなく、中退共の加入状況や掛金納付月数も確認しておきたい。
なお、中退共では、掛金納付月数が11月以下の場合は原則として退職金が支給されない。12月以上23月以下では掛金納付総額を下回る額になり、24月以上42月以下では掛金相当額、43月から運用利息や付加退職金が加算される仕組みになっている。
退職金の支払い時期
退職金の支払い時期は、勤務先の退職金規程で定められる。
退職日当日に必ず支払われるわけではなく、退職後1〜2カ月程度かかるケースもある。ただし、これはあくまで一例であり、実際の支払時期は勤務先の規程や手続き状況によって異なる。
退職前には、次の点を確認しておこう。
- 退職金の支給予定日
- 振込先の登録方法
- 必要書類
- 退職所得の受給に関する申告書の提出が必要か
- 中退共に加入している場合の請求手続き
美容師の退職金の計算方法
美容師の退職金の計算方法は、勤務先の退職金規程によって異なる。
よく使われる計算方法には、基本給連動型、定額方式、別テーブル方式、ポイント制方式などがある。ここでは、それぞれの考え方を確認しよう。
基本給をベースにした計算法
基本給連動型は、退職時の基本給に勤続年数や退職理由に応じた係数を掛けて計算する方法である。
支給率は、勤続年数が長くなるほど高くなるのが一般的だ。退職事由係数は、自己都合退職、会社都合退職、定年退職などの退職理由によって調整するための係数である。
例えば、退職時の基本給が25万円、支給率が5.0、退職事由係数が0.8の場合、退職金は次のように計算できる。
25万円×5.0×0.8=100万円
ただし、売上歩合、指名料、店販手当、交通費、住宅手当などが退職金計算に含まれるとは限らない。多くの場合、退職金計算で使われるのは基本給や退職金算定基礎額である。
美容師は歩合給や手当の割合が大きいこともあるため、総支給額ではなく、どの金額を退職金計算の基礎にするのか確認しておこう。
生活関連サービス業・娯楽業のモデル退職金を参考にする
美容師個別の全国的な退職金平均額は、公的統計で確認しにくい。
参考として、東京都労働相談情報センターの「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」では、美容業を含む生活関連サービス業・娯楽業のモデル退職金が示されている。
ただし、このデータは都内の従業員10〜299人の中小企業を対象とした調査であり、美容師だけの退職金平均ではない。あくまで目安として見よう。
| 学歴・勤続年数 | 自己都合退職 | 会社都合退職 |
|---|---|---|
| 高校卒・勤続10年 | 111万4,000円 | 123万2,000円 |
| 高校卒・勤続20年 | 379万6,000円 | 409万7,000円 |
| 高校卒・勤続30年 | 829万1,000円 | 840万円 |
| 大学卒・勤続10年 | 128万4,000円 | 140万4,000円 |
| 大学卒・勤続20年 | 436万4,000円 | 459万8,000円 |
| 大学卒・勤続30年 | 972万2,000円 | 971万8,000円 |
上記の通り、勤続年数や退職理由によってモデル退職金額は変わる。美容室の退職金も、自己都合退職か会社都合退職かで支給率が変わる場合があるため、退職前に規程を確認しておきたい。
基本給以外をベースにした計算法
退職金制度には、基本給を使わない計算方法もある。
代表的なものは次の3つだ。
| 計算方法 | 特徴 |
|---|---|
| 定額方式 | 勤続年数に応じて、あらかじめ定めた金額を支給する方法 |
| 別テーブル方式 | 勤続年数、退職理由、役職などに応じた表をもとに計算する方法 |
| ポイント制方式 | 勤続年数、役職、評価などをポイント化し、累積ポイントに応じて計算する方法 |
定額方式は分かりやすいが、役職や評価が反映されにくい場合がある。ポイント制方式は、店長経験や役職、評価が反映されることがある一方、計算方法を理解するには退職金規程の確認が必要だ。
勤続年数と退職金の関係
退職金は、勤続年数が長いほど増えやすい傾向がある。
ただし、すべての美容室で「長く働けば必ず大きく増える」とは限らない。近年は、基本給に連動しない別テーブル方式やポイント制を採用する会社もあるためだ。
また、退職金規程で「勤続3年以上」「勤続5年以上」などの条件がある場合、退職日が数カ月違うだけで支給対象になるかどうかが変わることもある。
転職や独立を考えている美容師は、退職日を決める前に、最低勤続年数、支給率、自己都合退職時の減額を確認しておこう。
退職金を巡るトラブル!どのように対処する?
退職金に関するトラブルは、制度の有無や支給条件を確認しないまま退職したときに起こりやすい。
「退職金があると思っていたのに支給されない」「支給額が想定より少ない」「支払予定日を過ぎても振り込まれない」といった不安がある場合は、順番に確認していこう。
事前準備と情報収集
退職金トラブルを防ぐためには、退職前に次の資料を確認しておくことが大切だ。
- 就業規則
- 退職金規程
- 雇用契約書・労働条件通知書
- 給与明細
- 中退共など外部制度の加入証明や掛金納付状況
- 退職日・勤続年数を確認できる書類
退職金制度がある場合でも、支給条件を満たしていなければ受け取れないことがある。最低勤続年数、雇用形態、退職理由、懲戒処分の有無などを確認しよう。
不明点がある場合は、仲の良い同僚の話だけで判断せず、オーナー、人事・総務担当、労働組合、社労士などに確認するのが安全だ。
退職金が支払われない場合
退職金制度があり、自分が支給条件を満たしているにもかかわらず支払われない場合は、まず勤務先へ確認しよう。
問い合わせるときは、感情的に伝えるのではなく、退職金規程の該当箇所、退職日、勤続年数、支給予定日を整理して確認するとよい。
退職金請求権の時効は5年である。支払われていないことに気づいたら、早めに対応しよう。
解決しない場合は、次の相談先を検討する。
| 相談内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 退職金制度の有無・支給条件を確認したい | 勤務先の人事・総務、オーナー、社労士 |
| 退職金未払いについて相談したい | 労働基準監督署、総合労働相談コーナー、弁護士 |
| 退職金の税金を確認したい | 税務署、税理士 |
| 退職後の資金計画を相談したい | FP、J-FLEC認定アドバイザー、IFAなど |
相談時には、雇用契約書、給与明細、退職金規程、勤務期間が分かる資料、勤務先とのやり取りの記録を持参すると説明しやすい。
自分で退職金を作る方法
フリーランスや業務委託の美容師、または退職金制度がない美容室で働く美容師は、自分で退職金代わりの資金を準備することも考えたい。
主な選択肢は次の通りだ。
| 制度 | 主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 個人事業主、会社等の役員など | 個人事業主などのための退職金制度 掛金は月額1,000円〜70,000円の範囲で設定でき、全額所得控除の対象 |
| iDeCo | 会社員、個人事業主など | 自分で掛金を拠出し運用する私的年金 原則60歳以降に受け取る |
| 付加年金 | 国民年金第1号被保険者など | 月額400円の付加保険料を納めると、200円×納付月数が老齢基礎年金に上乗せされる |
| 国民年金基金 | 国民年金第1号被保険者など | 老齢基礎年金に上乗せする公的な年金制度 付加年金とは併用できない |
フリーランス美容師の場合、小規模企業共済は退職金代わりの制度として検討しやすい。掛金は全額所得控除の対象になるが、任意解約のタイミングや加入期間によって受取額が掛金合計額を下回ることがあるため、制度内容を確認してから加入しよう。
iDeCoは税制優遇を受けながら老後資金を作れる制度だが、原則として60歳まで引き出せない。投資信託などで運用する場合は元本割れのリスクもある。
付加年金と国民年金基金はどちらも老齢基礎年金への上乗せ制度だが、両方を同時に利用することはできない。自分の働き方や収入に合わせて選ぼう。
美容師の退職金相談は内容に応じて専門家を選ぼう
美容師の退職金に関する相談先は、悩みの内容によって異なる。
退職金の制度や未払いは労務の相談先へ、税金は税務署や税理士へ、退職後の資金計画や運用はFPやIFAなどへ相談すると整理しやすい。
退職金の相談先を使い分ける
退職金の相談先は、次のように使い分けよう。
| 相談したい内容 | 主な相談先 | 確認できること |
|---|---|---|
| 退職金制度の有無・計算方法 | 勤務先の人事・総務、オーナー、社労士 | 退職金規程 支給条件 支払時期 支給額の見込み |
| 未払い・不支給トラブル | 労働基準監督署、総合労働相談コーナー、弁護士 | 請求方法 証拠整理 法的対応 |
| 退職金の税金 | 税務署、税理士 | 退職所得控除 確定申告 住民税 |
| 退職後の生活設計 | FP、J-FLEC認定アドバイザーなど | 家計管理 公的年金 保険 老後資金計画 |
| 退職金や老後資金の運用 | IFA、金融機関、FPなど | 資産配分 NISA iDeCo 投資商品のリスクと手数料 |
J-FLECの無料相談では、家計管理や生活設計、NISA・iDeCoなどの資産形成について相談できる。ただし、個別の金融商品・サービスについて提案や推奨はできないため、相談範囲を確認して利用しよう。
IFAに相談する場合の注意点
IFAとは、一般に独立系ファイナンシャルアドバイザーと呼ばれる資産運用の相談先の一つである。
金融商品仲介業者として活動するIFAは、証券会社や登録金融機関の委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行う。
美容師が退職金や老後資金の運用について相談する場合、生活費として残す金額、運用に回す金額、NISAやiDeCoの使い方、リスク許容度に合った資産配分などを相談できる場合がある。
ただし、IFAが扱える商品や報酬体系は、所属先や提携金融機関によって異なる。相談前には、次の点を確認しよう。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- 提携している証券会社・金融機関はどこか
- 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用はいくらか
- 提案できる商品の範囲に偏りがないか
- 元本割れや為替変動などのリスク説明が十分か
- 退職後も継続的に相談できるか
IFAは退職金運用の相談先の一つだが、未払い退職金の請求や税額の個別判断をすべて解決できるわけではない。相談内容に応じて、社労士、弁護士、税理士、FPなどを使い分けることが大切だ。
退職金は目的別に分けて管理する
美容師が退職金や老後資金を受け取ったら、すぐに全額を運用に回すのではなく、目的別に分けて管理しよう。
| 資金の区分 | 主な使い道 | 管理方法の例 |
|---|---|---|
| 短期資金 | 退職直後の生活費、税金、健康保険料、引っ越し費用 | 普通預金など換金しやすい形で管理 |
| 中期資金 | 医療費、介護費、住宅修繕費、仕事道具や設備の買い替え | 定期預金、個人向け国債など安全性を重視 |
| 長期資金 | 老後後半の生活費、資産形成、相続対策 | 余裕資金の範囲でNISAや投資信託などを検討 |
美容師は、体調やライフスタイルによって働き方を変える人も多い。退職金や老後資金は、将来の働き方や健康状態も考慮して管理することが重要だ。
美容師の退職金は勤務先の規程確認から始めよう
美容師が退職金を受け取れるかどうかは、勤務先の退職金制度によって決まる。
退職金制度はすべての美容室に義務付けられているものではないため、まずは就業規則、退職金規程、雇用契約書を確認しよう。
退職金の計算方法には、基本給連動型、定額方式、別テーブル方式、ポイント制方式などがある。美容師は歩合給や手当が多い場合もあるため、退職金計算の基礎になる金額が何かを確認することが大切だ。
業務委託やフリーランスの美容師は、美容室から退職金を受け取れないことが多い。その場合は、小規模企業共済、iDeCo、国民年金基金、付加年金などを活用して、自分で退職金代わりの資金を準備することも検討しよう。
退職金の未払いに不安がある場合は、勤務先に確認したうえで、労働基準監督署、総合労働相談コーナー、社労士、弁護士などに相談するとよい。退職後の資金計画や運用は、FPやIFAなど相談内容に合った専門家を選ぶことが大切だ。
退職金や老後資金の相談先を比較したい場合は、以下のボタンから確認できる。
出典
厚生労働省「モデル就業規則 第8章 退職金」
東京都労働相談情報センター「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)第8表 モデル退職金」
e-Gov法令検索「労働基準法」
厚生労働省「労働基準行政の相談窓口」
中小企業退職金共済事業本部「制度の概要」
中小企業退職金共済事業本部「加入の条件」
中小企業退職金共済事業本部「掛金」
中小企業退職金共済事業本部「退職金」
中小企業基盤整備機構「小規模企業共済の掛金」
日本年金機構「付加保険料の納付」
全国国民年金基金「加入条件・資格」
厚生労働省「iDeCoの概要」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
金融経済教育推進機構 J-FLEC「専門家に相談したい」
日本証券業協会「金融商品仲介業者」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

