退職所得控除とiDeCoの関係|受け取り方と税金の注意点

退職金を受け取るときに重要になるのが、退職所得控除です。

退職所得控除は、退職金などを一時金で受け取る際の税負担を軽くする制度です。勤続年数が長いほど控除額が大きくなるため、退職金の手取り額を考えるうえで欠かせません。

一方、iDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛金を拠出している間は全額所得控除、運用中の利益は非課税、受け取り時には一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除の対象となる制度です。

ただし、iDeCoの掛金が退職所得控除になるわけではありません。また、会社の退職金とiDeCoの一時金を近い時期に受け取ると、退職所得控除が調整される場合があります。

この記事では、退職所得控除の基本、iDeCoの税制メリット、退職金とiDeCoを受け取るときの注意点をわかりやすく解説します。

目次

退職所得控除の基本を押さえる

退職所得控除の計算方法を確認するイメージ

退職金は、長年の勤務に対する報酬であり、退職後の生活を支える大切な資金です。そのため、税法上も通常の給与とは異なる扱いが設けられています。

退職所得控除を理解しておくと、退職金を受け取ったときに課税される金額や、手元に残る金額を把握しやすくなります。

退職所得控除とは退職金の税負担を軽くする制度

退職所得控除とは、退職金などの退職所得を計算するときに差し引ける控除のことです。

退職所得は、原則として次の式で計算します。

退職所得の金額 = (退職金などの収入金額 − 退職所得控除額) × 1/2

退職所得控除を差し引いたうえで、原則として残額の2分の1だけが退職所得になります。そのため、同じ金額を給与として受け取る場合に比べて、税負担が軽くなりやすい仕組みです。

ただし、役員等としての勤続年数が5年以下の退職手当や、短期退職手当等に該当する場合は、2分の1課税が一部または全部適用されない場合があります。

退職所得控除の対象となる収入

退職所得控除の対象になる主な収入は、退職により一時に受け取る退職手当等です。

具体的には、次のようなものが退職所得として扱われる場合があります。

区分退職所得控除の対象になる主な例
勤務先からの退職金退職手当、退職一時金、退職慰労金など
企業年金などの一時金確定給付企業年金の退職一時金など
確定拠出年金の一時金企業型DCやiDeCoの老齢給付金を一時金で受け取る場合
退職金共済中小企業退職金共済制度などに基づく退職金

注意したいのは、年金形式で受け取る場合です。iDeCoや企業年金を年金で受け取る場合は、退職所得ではなく、公的年金等に係る雑所得として扱われる場合があります。

つまり、一時金で受け取ると退職所得控除、年金で受け取ると公的年金等控除が基本的な考え方です。

退職所得控除額の計算方法

退職所得控除額は、勤続年数によって次のように計算します。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数
※80万円未満の場合は80万円
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げます。たとえば勤続10年2か月なら、勤続年数は11年として計算します。

勤続年数が30年の場合、退職所得控除額は次の通りです。

800万円 + 70万円 ×(30年 − 20年)= 1,500万円

たとえば、勤続30年で退職金2,000万円を受け取った場合、退職所得は次のように計算します。

(2,000万円 − 1,500万円)× 1/2 = 250万円

この場合、退職金2,000万円全体に課税されるのではなく、退職所得250万円をもとに税額を計算します。

なお、障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、通常の退職所得控除額に100万円を加えた金額が控除額になります。

退職所得の受給に関する申告書を提出する

退職金を受け取る際は、勤務先などの支払者に「退職所得の受給に関する申告書」を提出するのが一般的です。

この申告書を提出している場合、支払者が退職所得の金額に応じた所得税等を計算して源泉徴収するため、原則として確定申告は不要です。

一方、申告書を提出していない場合は、退職金等の支払金額に20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。その場合、受給者本人が確定申告をして精算する必要があります。

同じ年に複数の退職金を受け取る場合や、前年以前に退職金やiDeCoの一時金を受け取っている場合は、退職所得控除の計算が変わることがあります。受け取り前に、勤務先、運営管理機関、税務署、税理士などに確認しましょう。

iDeCoの活用方法と税金を抑えるポイント

iDeCoの税制メリットを確認するイメージ

退職所得控除は退職金を受け取るときの税制です。一方、iDeCoは老後資金を自分で積み立てるための私的年金制度です。

iDeCoには税制メリットがありますが、「加入中」「運用中」「受け取り時」でメリットの内容が異なります。ここを混同しないことが大切です。

iDeCoとは個人型確定拠出年金のこと

iDeCoとは、個人型確定拠出年金の愛称です。加入者自身が掛金を拠出し、運営管理機関が提示する運用商品の中から自分で商品を選んで運用します。

将来の受取額は、拠出した掛金と運用成果によって変わります。運用がうまくいけば資産が増える可能性がありますが、選ぶ商品によっては元本割れする可能性もあります。

iDeCoは原則として老齢給付金を60歳以降に受け取る制度です。ただし、60歳時点で通算加入者等期間が10年未満の場合、支給開始年齢は61歳から65歳まで段階的に遅れます。

また、老齢給付金は75歳に到達するまでに請求する必要があります。退職後の自由な引き出し口座ではないため、加入前に資金拘束の点も確認しましょう。

iDeCoの税制メリットは3つある

iDeCoの税制メリットは、主に次の3つです。

  1. 掛金は全額所得控除になる
    加入者が拠出した掛金は、小規模企業共済等掛金控除の対象です。課税所得から差し引かれるため、所得税・住民税の負担を抑えられる場合があります。
  2. 運用益は運用中に課税されない
    通常の課税口座では、運用益に税金がかかります。iDeCoでは、運用中の利益は非課税で再投資されます。
  3. 受け取り時に控除を使える
    一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金で受け取る場合は公的年金等控除の対象となります。ただし、必ず非課税になるわけではありません。

たとえば、毎月1万円をiDeCoに拠出し、所得税率10%・住民税率10%の人であれば、年間12万円の掛金に対して、単純計算で年間2.4万円の税負担軽減効果が見込めます。

ただし、実際の節税額は所得税率、所得控除の状況、住民税の課税状況によって異なります。

iDeCoの掛金上限は加入区分で異なる

iDeCoの掛金には上限があります。主な加入区分ごとの上限額は次の通りです。

スクロールできます
加入区分掛金上限の目安
国民年金第1号被保険者(自営業者など)月額68,000円
※国民年金基金や付加保険料を納付している場合はその額を控除
企業年金等に加入していない会社員月額23,000円
企業年金等に加入している会社員・公務員など月額20,000円
※企業型DCの事業主掛金額や他制度掛金相当額との合計制限あり
国民年金第3号被保険者(専業主婦・主夫など)月額23,000円
国民年金任意加入被保険者月額68,000円
※国民年金基金や付加保険料を納付している場合はその額を控除

会社員の場合は、勤務先の企業型DCや確定給付企業年金(DB)の有無によってiDeCoの上限額が変わります。加入前に勤務先の制度や運営管理機関の案内を確認しましょう。

投資先選択のポイント

iDeCoでは、自分で運用商品を選びます。投資先を選ぶときは、リターンの高さだけでなく、リスク、運用期間、手数料、資産全体のバランスを確認することが重要です。

確認したいポイントは次の通りです。

  • 元本確保型か、投資信託か
  • 国内資産・海外資産の割合
  • 株式・債券・REITなど資産クラスの分散
  • 信託報酬などの保有コスト
  • 退職までの運用期間とリスク許容度

安定性を重視する人は元本確保型商品や債券比率の高い商品を検討し、長期で成長を狙う人は株式を含む投資信託を検討する選択肢があります。

ただし、iDeCoは老後資金を作る制度です。短期的な値動きだけで判断せず、退職金、預貯金、NISA、企業年金、公的年金などを含めた資産全体で考えましょう。

退職所得控除とiDeCoを組み合わせるメリットと注意点

退職所得控除とiDeCoの受け取り方を検討するイメージ

退職所得控除とiDeCoは、どちらも老後資金に関わる制度です。ただし、節税のタイミングが異なります。

iDeCoは拠出している間に掛金の所得控除を受けられます。退職金は受け取るときに退職所得控除を使います。さらに、iDeCoを一時金で受け取る場合にも退職所得控除の対象となります。

そのため、退職金とiDeCoをどう受け取るかによって、税負担が変わることがあります。

節税効果は「拠出時」と「受取時」で分けて考える

退職所得控除とiDeCoを組み合わせるメリットは、次の2段階で考えるとわかりやすくなります。

スクロールできます
タイミング税制上の扱いポイント
iDeCo拠出時掛金が小規模企業共済等掛金控除の対象所得税・住民税の負担を抑えられる場合がある
iDeCo運用時運用益が非課税で再投資長期運用で複利効果を活かしやすい
iDeCoを一時金で受け取る時退職所得控除の対象会社退職金との受取時期に注意が必要
iDeCoを年金で受け取る時公的年金等控除の対象公的年金や他の企業年金との合算に注意
会社の退職金を受け取る時退職所得控除の対象勤続年数に応じて控除額が決まる

「iDeCoに入れば退職金の税金が必ず安くなる」と考えるのは危険です。iDeCoは拠出時の節税効果がある一方、受け取り方やタイミングによっては退職所得控除が調整される場合があります。

iDeCoと退職金の受け取り順に注意する

iDeCoの一時金と会社の退職金を近い時期に受け取る場合、退職所得控除を単純にそれぞれ満額使えるとは限りません。

同じ年に複数の退職手当等を受け取る場合は、合算して源泉徴収税額を計算します。また、前年以前に退職手当等を受け取っている場合も、重複する勤続期間があると退職所得控除が調整されることがあります。

特に注意したいのは、iDeCoなど確定拠出年金の老齢一時金と会社退職金の受け取り順です。

スクロールできます
受け取り方注意点
同じ年に会社退職金とiDeCo一時金を受け取る退職手当等として合算され、退職所得控除を計算する
iDeCo一時金を先に受け取り、その後に会社退職金を受け取る令和8年1月1日以後にiDeCoの老齢一時金を受けている場合、その後9年以内の退職手当等で控除額が調整される可能性がある
会社退職金を先に受け取り、その後にiDeCo一時金を受け取る前年以前19年内に退職手当等を受けている場合、iDeCoの老齢一時金で控除額が調整される可能性がある

以前は「一定年数を空ければ退職所得控除を使いやすい」と説明されることもありましたが、令和8年1月1日以後の老齢一時金に関しては、9年ルールにも注意が必要です。

受け取り時期を決める前に、会社退職金の支給時期、iDeCoの受取開始年齢、企業年金の一時金、過去に受け取った退職金の有無を整理しましょう。

一時金と年金のどちらで受け取るかを比較する

iDeCoは、一時金、年金、または金融機関によっては一時金と年金の併用で受け取れます。

一時金で受け取る場合は退職所得控除の対象になりますが、会社退職金と時期が近いと控除額が調整される可能性があります。

年金で受け取る場合は公的年金等控除の対象になりますが、公的年金や企業年金と合算して雑所得を計算します。所得が増えることで、所得税・住民税・社会保険料に影響する場合もあります。

どちらが有利かは、退職金の金額、iDeCoの残高、勤続年数、公的年金の見込額、他の所得、家計状況によって異なります。

メリット・デメリットの比較

退職所得控除とiDeCoを組み合わせて考える場合のメリットとデメリットは、次の通りです。

メリット
  • iDeCoの掛金が全額所得控除となり、現役時代の税負担を抑えられる可能性がある。
  • iDeCoの運用益が非課税で再投資されるため、長期の資産形成に活用しやすい。
  • 退職金やiDeCo一時金を受け取る際に、退職所得控除を活用できる場合がある。
デメリット
  • iDeCoは原則として60歳まで引き出せず、途中で自由に使える資金ではない。
  • 運用商品によっては元本割れする可能性がある。
  • 会社退職金とiDeCo一時金の受け取り時期が近いと、退職所得控除が調整される場合がある。
  • 年金受取を選ぶと、公的年金や企業年金と合算され、税金や社会保険料に影響する場合がある。

退職所得控除とiDeCoは、上手に使えば老後資金づくりに役立ちます。ただし、税制だけで判断せず、生活費、医療費、住宅ローン、相続予定、投資リスクも含めて考えることが大切です。

IFAに相談することで退職金を上手く活用する

退職金やiDeCoの活用方法を専門家に相談するイメージ

退職所得控除やiDeCoの税金は、受け取り方やタイミングによって変わります。自分だけで判断しにくい場合は、相談内容に合わせて専門家を使い分けましょう。

退職金の税金は税務署や税理士、iDeCoの制度や受け取り手続きは運営管理機関、退職後の資産運用はIFAやFPなどが主な相談先です。

相談したい内容主な相談先
退職所得控除や退職所得の税金税務署、税理士
会社退職金の支給時期・見込額勤務先の人事・総務、企業年金基金
iDeCoの残高・受け取り方法iDeCoの運営管理機関、国民年金基金連合会の案内
退職後の資産運用IFA、FP、証券会社、金融機関
相続・贈与・不動産を含む相談税理士、弁護士、不動産会社など

IFAとは

IFAとは、Independent Financial Adviserの略で、独立系ファイナンシャル・アドバイザーと呼ばれる相談先です。

IFAは金融商品仲介業者として、顧客のライフプランやニーズに合わせて、金融商品の選定、資産配分の提案、売買取引の支援などを行います。

退職金やiDeCoを含めた老後資金は、税金だけでなく、生活費、投資リスク、資金の使い道を総合的に考える必要があります。IFAに相談することで、退職後の資産全体を見ながら運用方針を整理しやすくなります。

IFAが提案する退職金の活用方法

IFAに相談する場合、次のような内容を確認できます。

  • 退職金を生活費・予備資金・運用資金に分ける方法
  • iDeCo・NISA・課税口座の使い分け
  • リスク許容度に合った資産配分
  • 運用商品の手数料やリスクの確認
  • 退職後の収入・支出に合わせた取り崩し計画

ただし、IFAは税理士ではないため、個別具体的な税務判断は税理士や税務署に確認する必要があります。退職所得控除の計算やiDeCoの受け取り時期に不安がある場合は、税務の専門家とあわせて相談しましょう。

IFAに相談する前に確認したいこと

IFAに相談する際は、「独立系」という言葉だけで判断しないことが大切です。IFA法人は金融商品取引業者や登録金融機関と業務委託契約を結んで業務を行います。提携先や取扱商品によって提案内容が変わる場合があります。

相談前には、次の点を確認しましょう。

  • 金融商品仲介業者として登録されているか
  • 所属・提携している証券会社や金融機関はどこか
  • 相談料・販売手数料・信託報酬などの費用を説明してくれるか
  • 退職金やiDeCo資産の全額投資を前提にしていないか
  • 元本割れリスクや解約条件を丁寧に説明してくれるか
  • 必要に応じて税理士などの専門家と連携できるか

退職金やiDeCoは、老後の生活を支える重要な資産です。節税効果だけを追うのではなく、使うお金、守るお金、運用するお金を分けて考えましょう。

まとめ

退職所得控除とiDeCoの活用方法をまとめるイメージ

退職所得控除は、退職金などを一時金で受け取るときの税負担を軽くする制度です。控除額は勤続年数に応じて決まり、20年以下は40万円×勤続年数、20年超は800万円+70万円×(勤続年数−20年)で計算します。

iDeCoは、掛金が全額所得控除、運用益が非課税、受け取り時には一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除の対象となる制度です。

ただし、iDeCoの掛金が退職所得控除になるわけではありません。また、会社の退職金とiDeCoの一時金を近い時期に受け取ると、退職所得控除が調整される場合があります。

退職金とiDeCoを上手に活用するには、受け取り時期、一時金と年金の選択、税金、運用リスクを総合的に確認することが大切です。

退職所得控除の計算や税金に不安がある場合は税務署や税理士、退職後の資産運用に不安がある場合はIFAやFPなどの専門家に相談しましょう。

まずは以下ボタンから、無料相談に申し込んでみよう。

出典

国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.2725 退職所得となるもの」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」(公開日:2025年4月1日)
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
iDeCo公式サイト「iDeCo(イデコ)のメリット」
財務省「令和7年度税制改正の概要」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

  • URLをコピーしました!

執筆者

退職金の相談相手 検索サービス「退職金ナビ」を運営する。
「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンにIFA業界のプラットフォームとして、総合コンサルティング事業を展開している。

目次