監査法人に就職・転職を検討している方や、すでに監査法人で働いている方にとって、退職金制度は気になるポイントの一つだろう。
ただし、監査法人に勤めていれば必ず一定額の退職金を受け取れるわけではない。退職金の有無や計算方法は、勤務先の退職金規程、企業年金制度、公認会計士企業年金基金への加入状況、職位、勤続年数などによって変わる。
また、監査法人には公認会計士だけでなく、試験合格者、コンサルタント、IT・データ分析人材、管理部門スタッフなど多様な職員が勤務している。職種や等級によって、給与体系や退職金制度の扱いが異なる場合もある。
本記事では、監査法人の退職金の仕組み、計算方法、相場の見方、公認会計士企業年金基金、受け取り方と税金、退職金の相談先について解説する。
自分の退職金を正確に把握するには、平均額や口コミだけで判断せず、勤務先の制度資料を確認することが大切だ。
監査法人の退職金の仕組みを理解しよう
監査法人の退職金を理解するには、まず退職金制度そのものの仕組みと、監査法人特有の制度を分けて考える必要がある。
監査法人の主な業務である公認会計士監査は、会社法や金融商品取引法などに基づいて企業や団体に義務づけられる場合がある。そのため、監査法人には専門職としてのキャリア制度や等級制度が設けられていることが多い。
一方で、退職金制度は法律で全国一律に決められているわけではない。監査法人ごとに制度設計が異なるため、勤務先の退職金規程や企業年金の資料を確認することが重要だ。
退職金制度の一般的な仕組み
退職金制度とは、従業員が退職する際に、勤務先の制度に基づいて支給される退職給付のことだ。
退職金制度は、すべての企業に義務づけられている制度ではない。ただし、制度を設ける場合は、対象者、計算方法、支払方法、支払時期などを就業規則や退職金規程に記載する必要がある。
代表的な退職金制度は以下のとおりだ。
| 制度の種類 | 概要 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 退職一時金制度 | 退職時に勤務先から一括で退職金を受け取る制度 | 退職金規程 支給対象 計算式 支払時期 |
| 企業年金制度 | 退職後に年金形式または一時金で受け取る制度 | 確定給付企業年金 企業型DC 受け取り方法 |
| 退職金共済・基金制度 | 外部の共済や基金から退職給付を受ける制度 | 加入期間 掛金 給付条件 移換の可否 |
| ポイント制・等級連動型 | 職位、等級、評価、勤続年数などをポイント化して計算する制度 | ポイント単価 付与基準 役職変更時の扱い |
監査法人でも、退職一時金、企業年金、公認会計士企業年金基金、確定拠出年金などを組み合わせている場合がある。
自分がどの制度の対象か分からない場合は、就業規則、退職金規程、企業年金の案内、毎年送付される残高通知などを確認しよう。
監査法人の退職金の特徴
監査法人の退職金には、一般企業と共通する部分と、監査法人ならではの注意点がある。
特に確認したいのは、以下の3点だ。
- 職員としての退職金制度の対象に含まれるか
- 公認会計士企業年金基金などの企業年金制度に加入しているか
- パートナー・社員になった場合に、退職金や退職慰労金の扱いが変わるか
監査法人では、一般的な会社員を「職員」と呼び、経営に参画するパートナーを「社員」と呼ぶ文脈がある。ここでいう「社員」は、一般的な従業員という意味ではなく、監査法人の構成員としての立場を指す場合がある。
そのため、スタッフ・シニアスタッフ・マネージャーなどの職員としての退職金制度と、パートナー・社員としての退職慰労金や持分に関する制度は、別に設計されていることがある。
転職や独立を検討している場合は、自分が退職時にどの立場で、どの制度の対象になるのかを確認しておこう。
一般企業と監査法人の退職金の違い
一般企業と監査法人の退職金を単純に比較することは難しい。
一般企業でも、退職金制度がある会社とない会社があり、制度の形も退職一時金、企業年金、ポイント制などさまざまだ。監査法人でも同様に、法人ごとの制度設計によって金額が変わる。
監査法人の場合、職位や等級が退職金の計算に影響する制度であれば、昇格スピードや同じ職位に在籍した期間が退職金額に影響する可能性がある。
ただし、「監査法人は一般企業より退職金が高い」「監査法人は退職金が安い」と一律に判断することはできない。勤務先の退職金規程と企業年金制度を確認することが最も確実だ。
監査法人の退職金の計算方法と相場を知る
監査法人の退職金は、法人ごとの規程で計算される。公認会計士だから、監査法人だからという理由だけで一律の計算式が決まっているわけではない。
ここでは、退職金を確認するときに押さえたい計算方法と相場の見方を整理する。
基本的な算出方法
退職一時金制度では、以下のような計算式が使われることがある。
退職金=算定基礎額×勤続年数や等級に応じた支給係数×退職事由係数+加算額または減算額
ただし、これはあくまで一般的な例だ。監査法人によっては、月額給与を基礎にする制度、等級や職位ごとのポイントで計算する制度、企業年金基金の仮想個人勘定残高をもとに給付する制度などがある。
退職金を試算するときは、以下の項目を確認しよう。
- 退職金制度の対象者に含まれるか
- 算定基礎額が基本給・月額給与・等級テーブルのどれか
- 勤続年数や職位による支給係数
- 自己都合退職・会社都合退職・定年退職による違い
- 同じ職位に長く在籍した場合の扱い
- 企業年金や基金の給付と退職一時金の関係
例えば、算定基礎額40万円、支給係数8、退職事由係数1.0の場合、退職金は「40万円×8×1.0=320万円」となる。
一方、ポイント制であれば、累積ポイントに1ポイントあたりの単価を掛けて計算する場合がある。どの方式かによって結果は大きく変わるため、退職金規程を確認することが欠かせない。
在籍年数や役職での違い
監査法人では、スタッフ、シニアスタッフ、マネージャー、シニアマネージャー、パートナーなど、職位ごとに給与や評価制度が異なる場合がある。
退職金制度が等級や職位に連動している場合、昇格のタイミングや同じ職位に在籍した期間が退職金額に影響することがある。
特に、以下の点を確認しておこう。
- 職位ごとに退職金ポイントや支給率が変わるか
- 昇格した年度から新しい支給率が反映されるか
- 同じ職位に長く在籍した場合の上限や減額ルールがあるか
- パートナー就任時に職員としての退職金を精算するか
- 退職一時金と企業年金基金の給付が別建てか
監査法人で長期的に働く予定がある人は、給与だけでなく、退職金・企業年金・基金給付を含めた総合的な待遇を確認しておくとよい。
公認会計士企業年金基金とは
公認会計士企業年金基金は、基金に加入している公認会計士事務所や監査法人などに勤務し、一定の条件を満たす従業員が加入する企業年金制度だ。
基金に加入している事業所に勤務する厚生年金保険の被保険者で、事業所が選択した資格喪失年齢未満の人は、原則として加入対象になる。個人が任意で加入する制度ではなく、事業所単位で加入する仕組みである。
公認会計士企業年金基金の掛金は、事業主が全額負担するため、加入者本人の掛金負担はない。
主な給付の整理は以下のとおりだ。
| 加入者期間・年齢 | 主な給付・選択肢 | 注意点 |
|---|---|---|
| 3年未満 | 給付なし | 再加入した場合、脱退時の仮想個人勘定残高が引き継がれる場合がある |
| 3年以上10年未満 | 脱退一時金、 または他制度への移換 | 脱退後1年以内の申し出が必要な場合がある |
| 10年以上・60歳未満 | 脱退一時金、他制度への移換、 60歳以降の老齢給付金 | 脱退一時金の支給を60歳まで繰り下げられる場合がある |
| 60歳以上 | 老齢給付金 | 年金として受けるほか、一時金として受けることもできる |
老齢給付金は、5年・10年・15年の確定有期年金から選べる。また、申し出により一時金として受け取ることもできる。
監査法人を退職する際は、勤務先の退職一時金だけでなく、公認会計士企業年金基金の給付、移換、繰下げの選択肢も確認しておこう。
監査法人の退職金相場をどう見るか
監査法人だけに限定した退職金の平均額は、公的統計では確認しにくい。
そのため、監査法人の退職金相場を考える際は、法人ごとの制度確認を基本にしつつ、民間企業全体や関連する産業分類のデータを参考情報として見るのが現実的だ。
退職給付制度がある企業割合を参考にする
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は74.9%とされている。
産業別に見ると、監査法人を含み得る「学術研究、専門・技術サービス業」の退職給付制度あり企業割合は87.2%だ。
ただし、この分類は監査法人だけを対象にしたものではない。公認会計士事務所、専門サービス業、研究機関なども含まれるため、監査法人の退職金制度そのものを表すデータではない点に注意しよう。
一般的な退職給付額の目安
同じく令和5年就労条件総合調査では、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者について、退職事由別の平均退職給付額が示されている。
定年退職者の平均退職給付額は、大学・大学院卒の管理・事務・技術職で1,896万円、高校卒の管理・事務・技術職で1,682万円、高校卒の現業職で1,183万円だ。
ただし、これは退職給付制度がある企業のうち、一定条件の退職者を対象にした統計である。監査法人で数年勤務して転職するケースや、公認会計士企業年金基金の脱退一時金を受け取るケースでは、この平均額とは大きく異なる可能性がある。
退職金の相場を知りたい場合は、以下の順で確認するとよい。
- 勤務先の退職金規程を確認する
- 人事・総務部門に退職金の試算を依頼する
- 公認会計士企業年金基金の仮想個人勘定残高を確認する
- 退職理由別の支給率や退職時期による違いを確認する
- 退職後の手取り額と受け取り方法を確認する
一般企業より高いかは制度次第
監査法人の退職金が一般企業より高いか低いかは、法人ごとの制度によって異なる。
監査法人は給与水準が高いイメージを持たれやすいが、退職金は給与額だけで決まるものではない。退職一時金の有無、企業年金制度、基金の加入期間、職位・等級、退職理由、同じ職位での在籍期間などが影響する。
一方、一般企業でも退職金制度が手厚い企業と、退職金制度がない企業がある。比較する場合は、月給や年収だけでなく、退職金・企業年金・福利厚生を含めた総合的な条件を見よう。
監査法人の退職金の受け取り方と税金
監査法人の退職金は、受け取り方によって税金の扱いが変わる。
退職一時金として受け取る場合、原則として退職所得として扱われる。一方、企業年金や基金の老齢給付金を年金として受け取る場合は、公的年金等に係る雑所得として扱われる場合がある。
一時金・年金・移換の違い
退職時に選択できる受け取り方法は、勤務先の制度や基金の加入期間によって異なる。
| 受け取り方法 | 概要 | 税金の扱い | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 退職一時金 | 退職時にまとまった金額を受け取る | 原則として退職所得 | 退職所得控除を確認する |
| 年金形式 | 一定期間に分けて受け取る | 公的年金等に係る雑所得として扱われる場合がある | 公的年金や他の所得との合算に注意 |
| 一時金と年金の併用 | 一部を一時金、残りを年金で受け取る | 一時金部分と年金部分で扱いが異なる | 制度上選べるか確認が必要 |
| 他制度への移換 | 脱退一時金相当額を他の年金制度へ移す | 移換先の制度により異なる | 申出期限や移換先を確認する |
一時金はまとまった資金を確保しやすい一方、使いすぎに注意が必要だ。年金形式は定期収入として受け取れるが、他の年金収入や所得との合算で税負担が変わる場合がある。
どちらが有利かは、退職金額、加入期間、公的年金の受給額、退職後の働き方、住宅ローンの有無、運用方針によって異なる。
退職所得控除を確認する
退職金を一時金で受け取る場合、原則として退職所得として扱われる。退職所得には、勤続年数に応じた退職所得控除がある。
退職所得の金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
例えば、勤続年数が10年2か月の場合、退職所得控除の計算上は11年として扱われる。1年未満の端数は切り上げるためだ。
また、退職金を受け取る前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、勤務先が税額を計算して源泉徴収するため、原則として確定申告は不要とされる。
一方、この申告書を提出していない場合は、退職金の支払金額の20.42%が所得税および復興特別所得税として源泉徴収され、確定申告で精算する必要がある。
短期退職手当等に該当する場合、複数の退職金やiDeCoの一時金を受け取る場合、パートナー就任・退任時の退職慰労金がある場合は、税額計算が複雑になることがある。税務署や税理士に確認しよう。
監査法人の退職金相談はどこにするべきか
監査法人の退職金について相談したい場合は、悩みの内容によって相談先を分けることが大切だ。
退職金制度そのものの確認と、退職金を受け取った後の運用相談では、適切な相談先が異なる。
| 相談したい内容 | 主な相談先 | 確認できること |
|---|---|---|
| 退職金制度の有無・計算方法 | 勤務先の人事・総務部門 | 退職金規程 支給対象 試算額 |
| 公認会計士企業年金基金 | 勤務先の基金担当部署、公認会計士企業年金基金 | 加入期間 仮想個人勘定残高 給付選択肢 |
| 退職金にかかる税金 | 税務署、税理士 | 退職所得控 源泉徴収 確定申告 |
| 未払い・規程との相違 | 勤務先、労働基準監督署、弁護士 | 支給条件 請求方法 労務トラブル対応 |
| 退職金の運用・生活設計 | FP、IFA、金融機関 | 資金配分 NISA・iDeCo 運用方針 |
退職金の金額を正確に知りたい場合は、まず勤務先に確認するのが基本だ。公認会計士企業年金基金に加入している場合は、仮想個人勘定残高や給付選択肢も確認しよう。
IFAとは何か
退職金を受け取った後の運用や資金配分を相談したい場合、IFA(独立系ファイナンシャル・アドバイザー)も選択肢の一つになる。
IFAは、金融商品仲介業者として、顧客のライフプランやニーズに合わせて金融商品の選定、運用、売買取引の支援などを行う専門職だ。
ただし、IFAは金融機関と業務委託契約を結んで業務を行う立場でもある。完全にどの金融機関とも関係がないわけではないため、相談前に所属金融機関や手数料、取扱商品を確認することが重要だ。
IFAが退職金運用をサポートできること
IFAに相談すると、退職金だけでなく、預貯金、企業年金、NISA、iDeCo、保険、公的年金、住宅ローン、相続予定などを含めた資産全体の配分について相談できる場合がある。
監査法人勤務者は会計や監査の専門知識を持っていても、個人の資産運用や老後資金の取り崩しについては別の知識が必要になる。退職金を一括で運用に回すのではなく、生活費、予備資金、長期運用資金に分けて考えることが大切だ。
ただし、金融商品には元本割れのリスクがある。提案された商品をその場で契約せず、費用やリスクを確認しよう。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- 所属金融機関や提携金融機関はどこか
- 取り扱える金融商品の範囲はどこまでか
- 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用はいくらか
- 元本割れリスクや途中解約時の条件を説明してくれるか
- 運用開始後のフォロー体制があるか
退職金の制度確認は勤務先、税金は税務署や税理士、運用はFPやIFAというように、相談内容に応じて専門家を使い分けよう。
まとめ
この記事では、監査法人の退職金の仕組み、計算方法、相場の見方、公認会計士企業年金基金、受け取り方と税金、相談先について解説した。
監査法人の退職金は、法人ごとの退職金規程や企業年金制度によって決まる。公認会計士だから、監査法人勤務だからという理由だけで、一律に高額な退職金が支払われるわけではない。
退職金額を確認する際は、退職金制度の対象者か、計算方法は何か、職位や等級がどう反映されるか、公認会計士企業年金基金に加入しているかを確認しよう。
公認会計士企業年金基金では、加入者期間が3年以上あれば脱退一時金などの給付対象になる場合がある。10年以上加入している場合は、脱退一時金、老齢給付金、他制度への移換など複数の選択肢があるため、退職時に案内を確認することが大切だ。
退職金を一時金で受け取る場合は退職所得として扱われ、退職所得控除の対象になる。年金形式で受け取る場合は、公的年金等に係る雑所得として扱われる場合がある。税金の扱いが不安な場合は、税務署や税理士に確認しよう。
退職金を受け取った後の運用や老後資金計画に不安がある場合は、FPやIFAなどの専門家に相談する選択肢もある。ただし、相談先の登録状況、手数料、取扱商品、リスク説明を確認し、自分の生活設計に合う方法を選ぼう。
退職金の運用や相談先を比較したい場合は、以下ボタンから確認できる。
出典
日本公認会計士協会「日本の監査制度」
e-Gov法令検索「公認会計士法」
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」(公開日:2023年10月31日)
政府統計の総合窓口 e-Stat「令和5年就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態」(公開日:2024年3月1日)
厚生労働省「モデル就業規則」
公認会計士企業年金基金「加入と脱退」
公認会計士企業年金基金「掛金」
公認会計士企業年金基金「給付の種類」
公認会計士企業年金基金「脱退一時金」
公認会計士企業年金基金「老齢給付金」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」(公開日:2025年4月1日)
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

