零細企業で働いている方のなかには、「自分の会社では退職金が出るのか」「出るとしたら相場はいくらなのか」と不安に感じている方もいるでしょう。
結論から言えば、零細企業の退職金は会社ごとの差が大きく、全国一律の相場を出すことは難しいです。退職金制度そのものがない会社もあれば、中小企業退職金共済制度や社内規程を使って退職金を準備している会社もあります。
そのため、まず確認すべきなのは「勤務先に退職金制度があるか」「就業規則や退職金規程でどのように計算されるか」です。
本記事では、零細企業に近い小規模企業の定義、退職金制度の有無、東京都調査をもとにした退職金の参考値、退職金の計算方法、退職金を受け取った後の相談先について解説します。
今の勤務先で退職金がどれくらい受け取れるのか、退職金をどう活用すればよいのか知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
零細企業における退職金制度の概要
零細企業の退職金を考える前に、まず「零細企業」という言葉の位置づけを確認しておきましょう。
「零細企業」は日常的に使われる言葉ですが、法律上の明確な定義があるわけではありません。一般的には、中小企業基本法上の「小規模企業者」に近い意味で使われることが多いです。
零細企業の定義と特徴
中小企業庁では、小規模企業者を次のように整理しています。
| 業種 | 小規模企業者の目安 |
|---|---|
| 製造業その他 | 従業員20人以下 |
| 商業・サービス業 | 従業員5人以下 |
2025年版小規模企業白書では、2021年時点の小規模事業者は約285.3万者で、全企業の84.5%を占めています。従業者数は約973万人で、全体の20.5%です。
つまり、小規模な会社は日本の企業数の大部分を占めています。一方で、退職金制度や福利厚生は会社ごとの差が大きく、企業規模が小さいほど制度の有無を個別に確認する必要があります。
なお、本記事で紹介する東京都の退職金データは、従業員10〜299人の都内中小企業を対象とした調査です。従業員5人以下や10人未満の会社を直接示す統計ではないため、「零細企業の相場」ではなく「小規模企業に近い中小企業の参考値」として見てください。
退職金制度は法律上すべての会社に義務付けられているわけではない
退職金制度は、法律上すべての会社に設置が義務付けられている制度ではありません。そのため、零細企業や小規模企業では、退職金制度がないケースもあります。
ただし、会社が退職金制度を設ける場合は、就業規則や退職金規程などに、支給対象者、支給条件、計算方法、支払方法、支払時期を定める必要があります。
自分が退職金を受け取れるか確認したい場合は、まず勤務先の人事・総務担当者に次の項目を確認しましょう。
- 退職金制度の有無
- 退職金の支給対象者
- 勤続年数や退職理由による支給条件
- 退職金の計算方法
- 中退共・企業年金・企業型DCなどの加入状況
- 退職金の支払時期と受け取り方法
零細企業に近い10〜49人規模では退職金制度ありは62.0%
東京都の令和6年版「中小企業の賃金・退職金事情」では、従業員10〜49人の企業のうち、退職金制度がある企業は62.0%でした。
企業規模別の退職金制度の有無は、次のとおりです。
企業規模別|退職金制度の有無
| 従業員数 | 集計企業数 | 退職金制度あり | 退職金制度なし | 無回答 |
|---|---|---|---|---|
| 10〜49人 | 460社 | 285社 (62.0%) | 170社 (37.0%) | 5社 (1.1%) |
| 50〜99人 | 139社 | 88社 (63.3%) | 47社 (33.8%) | 4社 (2.9%) |
| 100〜299人 | 60社 | 50社 (83.3%) | 10社 (16.7%) | – |
10〜49人規模でも6割以上の企業に退職金制度がありますが、裏を返せば、4割弱の企業には制度がありません。零細企業で働いている方は、退職時期が近づいてからではなく、早めに就業規則や退職金規程を確認しておくことが大切です。
退職金制度がある企業で採用されている制度は、退職一時金のみが多い傾向です。
退職金制度ありの企業が採用している制度
| 従業員数 | 退職金制度あり | 退職一時金のみ | 退職一時金と退職年金の併用 | 退職年金のみ |
|---|---|---|---|---|
| 10〜49人 | 285社 | 227社 (79.6%) | 40社 (14.0%) | 18社 (6.3%) |
| 50〜99人 | 88社 | 60社 (68.2%) | 20社 (22.7%) | 8社 (9.1%) |
| 100〜299人 | 50社 | 35社 (70.0%) | 13社 (26.0%) | 2社 (4.0%) |
退職一時金のみの企業では、退職時にまとまった金額を受け取るケースが多くなります。一方、退職年金や企業型確定拠出年金などを併用している場合は、受け取り方法や税金の扱いも変わるため、制度ごとの確認が必要です。
零細企業の退職金相場を知る|10〜49人規模の参考値
零細企業の退職金相場を確認する際は、企業規模・業種・勤続年数・退職理由を分けて見る必要があります。
ここでは、東京都の令和6年版調査をもとに、都内中小企業の参考値を紹介します。ただし、同調査は従業員10〜299人が対象であり、10人未満の会社は含まれていない点に注意してください。
業界別の退職金相場の傾向
業界別に見ると、退職金額には大きな差があります。大学卒の定年退職モデルでは、調査産業計が1,149.5万円、金融業・保険業が1,940.4万円、製造業が1,107.6万円でした。
主な業種のモデル退職金は、次のとおりです。
業種別|会社都合退職金の参考値(定年退職モデル)
| 業種 | 高校卒 | 高専・短大卒 | 大学卒 |
|---|---|---|---|
| 調査産業計 | 974.1 | 992.0 | 1,149.5 |
| 建設業 | 991.4 | 931.2 | 929.6 |
| 製造業 | 1,027.2 | 1,040.5 | 1,107.6 |
| 運輸業・郵便業 | 866.1 | 953.3 | 938.3 |
| 卸売業・小売業 | 880.7 | 826.1 | 1,239.0 |
| 金融業・保険業 | 1,497.0 | 1,521.1 | 1,940.4 |
業種別の数値は、あくまで東京都調査のモデル退職金です。実際の退職金は、会社の退職金規程、退職理由、勤続年数、役職、基本給、企業年金制度の有無によって変わります。
勤続年数別の退職金相場
零細企業に近い規模感として、従業員10〜49人の企業における大学卒モデルの退職金を見てみましょう。
一般的には、勤続年数が長いほど退職金は増える傾向があります。また、自己都合退職よりも会社都合退職の方が、退職金額が高く設定されている会社もあります。
従業員10〜49人|勤続年数別退職金の参考値(大学卒)
| 勤続年数 | 自己都合退職 | 会社都合退職 |
|---|---|---|
| 1年 | 5.9 | 10.6 |
| 3年 | 21.5 | 31.1 |
| 5年 | 44.9 | 59.1 |
| 10年 | 114.5 | 145.2 |
| 15年 | 215.6 | 255.9 |
| 20年 | 348.2 | 403.7 |
| 25年 | 516.6 | 629.9 |
| 30年 | 678.8 | 758.0 |
| 33年 | 781.8 | 864.4 |
| 定年 | – | 1,088.4 |
この表から分かるように、勤続年数が短い場合は退職金額が大きくなりにくい一方、20年・30年と勤続するとまとまった金額になりやすいです。
ただし、これは東京都調査におけるモデル退職金であり、すべての零細企業に当てはまるわけではありません。特に従業員数が少ない会社では、退職金制度がない場合や、中退共の掛金月額に応じて退職金額が決まる場合もあります。
役職や給与による退職金相場の違い
退職金は、勤続年数だけで決まるとは限りません。会社によっては、退職時の基本給、役職、等級、人事評価、功労加算などを反映して退職金を計算する場合があります。
例えば、基本給連動型の退職金制度では、退職時の基本給が高いほど退職金が増えやすくなります。ポイント制では、勤続年数だけでなく、役職や評価によって付与されたポイントが退職金額に影響します。
一方で、定額制のように勤続年数ごとに金額が決まっている制度では、基本給や役職が退職金に直接反映されない場合もあります。
自分の退職金がどの方式で計算されるかは、会社の退職金規程を確認しなければ分かりません。退職金の相場だけで判断せず、自社の規程に沿って試算することが重要です。
退職金の計算方法を確認する
退職金の計算方法は、企業によって異なります。ここでは、退職一時金でよく使われる計算方法と、中退共・企業年金・企業型DCを利用している場合の確認ポイントを解説します。
正確な金額を知りたい場合は、必ず勤務先の退職金規程や人事・総務部門の試算を確認してください。
まず退職金規程で確認すべきこと
退職金を自分で計算する前に、次の情報を集めておきましょう。
- 退職金制度の種類
- 支給対象となる勤続年数
- 自己都合退職・会社都合退職・定年退職の扱い
- 退職時の基本給や等級を使うか
- 支給率・退職事由係数・ポイント単価
- 休職期間や再雇用期間の扱い
- 退職金の支払時期と受け取り方法
退職金規程が見つからない場合は、人事・総務担当者に「退職金の試算をしたいので、計算方法を確認したい」と相談してみましょう。
定額制の退職金計算方法
定額制は、勤続年数ごとに退職金額があらかじめ定められている方式です。
例えば、退職金規程に「勤続10年で100万円」「勤続20年で350万円」「勤続30年で700万円」のように記載されていれば、該当する勤続年数に応じて退職金額を確認できます。
定額制は計算が分かりやすい一方で、基本給や役職、評価が退職金に反映されにくい場合があります。自己都合退職では減額される規程があることもあるため、退職理由による違いも確認しましょう。
企業内規に基づく退職金計算方法
定額制以外では、基本給連動型、ポイント制、別テーブル方式などがあります。主な計算方法と例は以下のとおりです。
退職一時金の主な計算方法
退職時の基本給、勤続年数、退職理由などをもとに計算する方式。
【例】
退職時の基本給30万円、支給率10.0、自己都合退職の退職事由係数0.8の場合
30万円×10.0×0.8=240万円
勤続年数、役職、等級、人事評価などで付与されたポイントをもとに計算する方式。
【例】
累計300ポイント、ポイント単価1万円、自己都合退職の退職事由係数0.8の場合
300×1万円×0.8=240万円
勤続年数、役職、等級、退職理由などに応じた表を使って計算する方式。
【例】
退職金規程の別表で、勤続20年・2等級・自己都合退職の金額が300万円と定められていれば、その金額を基準に支給される。
上記は一般的な例です。実際には、会社独自の係数、役職加算、功労加算、減額規定などが設けられている場合があります。
中退共・DB・企業型DCを利用している場合
零細企業や中小企業では、社内で退職金を準備するだけでなく、中小企業退職金共済制度や企業年金制度を利用している場合もあります。
| 制度 | 退職金・給付額の確認ポイント |
|---|---|
| 中小企業退職金共済制度 (中退共) | 掛金月額と納付月数をもとに、基本退職金と付加退職金の合計で決まる。 中退共のシミュレーションで概算確認ができる |
| 確定給付企業年金 (DB) | 会社の年金規約に基づいて給付内容が決まる。 年金・一時金の選択可否や受給開始時期を確認する |
| 企業型確定拠出年金 (企業型DC) | 拠出された掛金と運用益の合計額をもとに給付額が決まる。 運用結果によって受取額が変わる |
特に企業型DCは、従業員自身が選んだ運用商品によって将来の受取額が変わります。退職が近づいてから慌てて確認するのではなく、定期的に運用状況や資産配分を確認しておきましょう。
退職金計算の注意点と確認事項
退職金を計算する際は、額面だけでなく、税金や受け取り方法も確認が必要です。
退職金を一時金で受け取る場合、原則として退職所得として扱われます。退職所得は、退職所得控除を差し引いたうえで、原則として2分の1を課税対象にする仕組みです。
退職所得の金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2
退職金を受け取る前には、「退職所得の受給に関する申告書」を会社へ提出するのが一般的です。提出していれば、会社が所得税等を計算して源泉徴収するため、退職金だけを理由に確定申告が必要になるケースは多くありません。
ただし、短期退職手当等に該当する場合、役員としての勤続年数が短い場合、複数の退職金を受け取る場合などは、税金の扱いが通常と異なることがあります。金額が大きい場合は、税務署や税理士に確認しましょう。
IFAと相談して退職金の活用方法を考える
退職金のおおよその金額が分かったら、次に考えるべきことは「退職金をどう使うか」です。
ただし、退職金の支給額そのものを正確に確認する相談先は勤務先です。税金の個別判断は税務署や税理士、退職金の運用や資産配分はIFAやファイナンシャルプランナーなど、相談内容によって相手を分けましょう。
IFAに相談できること
IFAとは、一般に独立系ファイナンシャルアドバイザーを指す言葉です。
金融商品仲介業者として活動するIFAは、証券会社などの金融商品取引業者や登録金融機関の委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行います。
IFAに相談できる内容としては、次のようなものがあります。
- 退職金のうち運用に回せる金額の整理
- 老後の生活設計を踏まえた資産配分の相談
- リスク許容度に合う金融商品の提案
- NISAやiDeCoなど制度活用の考え方
- 運用開始後の定期的な見直し
退職金は、老後資金の大切な柱です。すぐに全額を投資に回すのではなく、生活費、予備資金、住宅ローン、医療費、介護費、運用資金に分けて考えることが重要です。
IFAが提供する専門的な知識とアドバイス
IFAは、相談者のライフプランや資産状況を踏まえながら、金融商品の選定や運用方針について提案を行います。
退職金運用では、リターンの大きさだけで商品を選ぶのは危険です。リターンが大きい商品ほど、価格変動や元本割れのリスクも大きくなる傾向があります。
そのため、退職金運用では「どのくらい増やしたいか」だけでなく、「どのくらい減っても生活に支障がないか」「いつ使う予定のお金か」を整理することが大切です。
IFAに相談することで、預金、債券、投資信託、NISAなどを組み合わせた資産配分について、個別事情に応じた提案を受けられる場合があります。
IFAに相談する前に確認したいこと
IFAは退職金運用の相談先の一つですが、相談する前に確認すべき点もあります。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- どの証券会社・金融機関と提携しているか
- 相談料や販売手数料がどのように発生するか
- 提案される商品のリスクとコスト
- 特定の商品を強く勧める理由を説明してくれるか
- 運用後の定期フォローがあるか
金融商品仲介業者として登録されているかどうかは、金融庁の「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」などで確認できます。
また、IFAは退職金の支給額を確定する立場ではありません。退職金の額を知りたい場合は勤務先、税金を確認したい場合は税務署や税理士、運用方法を相談したい場合はIFAやファイナンシャルプランナーと、相談内容に応じて使い分けましょう。
まとめ
本記事では、零細企業における退職金制度の概要、退職金相場の参考値、計算方法、退職金の活用相談先について解説しました。
零細企業には法律上の明確な定義がありませんが、一般的には小規模企業者に近い意味で使われます。小規模企業者は、製造業その他で従業員20人以下、商業・サービス業で従業員5人以下が目安です。
東京都の令和6年版調査では、従業員10〜49人の企業のうち、退職金制度がある企業は62.0%でした。また、10〜49人規模の大学卒モデルでは、定年退職時の会社都合退職金は1,088.4万円です。
ただし、これらは東京都の都内中小企業を対象とした調査であり、すべての零細企業に当てはまるわけではありません。実際の退職金額は、勤務先の退職金規程、中退共や企業年金の加入状況、勤続年数、退職理由、役職、基本給などによって変わります。
自分の退職金を確認したい場合は、まず勤務先の就業規則や退職金規程を確認し、人事・総務部門に試算を依頼しましょう。
退職金を受け取った後の活用方法に悩む場合は、生活費や予備資金を確保したうえで、IFAやファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談する選択肢もあります。相談先の登録状況、手数料、取扱商品、リスク説明を確認し、自分の生活設計に合う方法を選びましょう。
出典
中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」
中小企業庁「2025年版『小規模企業白書』全文」(更新日:2025年7月1日)
東京都労働相談情報センター「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」
東京都労働相談情報センター「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)第7表 退職金制度」
東京都労働相談情報センター「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)第8表 モデル退職金」
厚生労働省「モデル就業規則」
中小企業退職金共済事業本部「退職金のシミュレーション」
厚生労働省「私的年金制度の概要(企業年金、個人年金)」
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
日本証券業協会「金融商品仲介業者」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

