退職金の運用はどうすべき?始め方や元本保証の考え方、運用しない場合の注意点も解説

退職を目前に控え、退職金をどう使うべきか、運用すべきか悩む人は多い。

退職金は、老後の生活費、住宅ローン返済、医療費や介護費への備え、資産運用の原資になる大切なお金だ。一方で、まとまった金額を一度に受け取るため、使い方を誤ると老後資金が早く減ってしまう可能性もある。

結論からいえば、退職金は全額をすぐに投資へ回すのではなく、生活費・予備資金・近いうちに使う資金・長期運用に回せる資金に分けて考えることが重要だ。

本記事では、退職金運用の基本、老後資金の必要額の考え方、元本保証に近い商品の特徴、リスクを抑えた運用方法、運用しない場合の注意点、専門家へ相談する際のポイントを解説する。

退職金を守りながら活用したい方は、今後の資金計画を立てる際の参考にしてほしい。

目次

【基礎知識】退職金の運用はこう考える!

退職金を運用する前に、まず退職金の性質と自分の資金計画を整理しよう。

退職金は、増やすためだけのお金ではなく、退職後の生活を支える土台になる資金である。運用を始める前に、税引後の手取り額、退職後の生活費、今後の大きな支出、リスク許容度を確認することが大切だ。

退職金とは何か

退職金とは、退職時に勤続年数や役職、会社の退職金規程などに基づいて支払われる退職給付のことだ。

退職金制度には、主に以下のような種類がある。

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制度の種類概要確認したいポイント
退職一時金制度退職時にまとまった金額を一括で受け取る制度退職所得控除
使い道
運用方針
退職金共済制度事業主が掛金を拠出し、退職時に共済から支払いを受ける制度加入期間
掛金
受け取り手続き
確定給付企業年金制度あらかじめ定められた給付内容に基づいて受け取る企業年金制度一時金・年金の選択肢
税金
確定拠出年金制度拠出された掛金を自分で運用し、運用結果に応じて受け取る制度運用商品
手数料
受取方法

退職金の受け取り方によって税金の扱いも変わる。一時金として受け取る場合は原則として退職所得、年金形式で受け取る場合は公的年金等に係る雑所得として扱われる場合がある。

また、退職金を一時金で受け取る際は、退職所得控除が適用される。退職所得の金額は、原則として以下の式で計算する。

退職所得の金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2

退職所得控除額は、勤続年数に応じて次のように計算する。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数
※80万円未満の場合は80万円
20年超800万円+70万円×(勤続年数-20年)

年金として受け取る場合は、公的年金等控除の対象になることがある一方、公的年金や給与収入などと合算され、所得税・住民税・国民健康保険料に影響する場合がある。

一時金と年金のどちらが有利かは、退職金額、勤続年数、公的年金の見込み額、他の所得、健康保険料によって変わる。退職金の運用を考える際は、税引前の支給額ではなく、所得税・住民税を差し引いた後の手取り額を確認しておこう。

平均退職金額はあくまでも目安

退職事由別の平均退職金額を示す表

退職金を運用する際は、自分が受け取る金額が老後資金として十分かを把握する必要がある。

厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者について、定年退職者の平均退職給付額は大学・大学院卒の管理・事務・技術職で1,896万円、高校卒の管理・事務・技術職で1,682万円、高校卒の現業職で1,183万円とされている。

ただし、この金額は退職給付制度がある企業のうち、一定条件の退職者を対象にした統計である。勤務先の制度、勤続年数、退職理由、企業規模によって実際の退職金額は大きく変わる。

平均額だけで安心したり不安になったりするのではなく、自分の退職金見込み額と、退職後に必要な生活費を照らし合わせて考えることが重要だ。

資金使途を4つに分けて考える

退職金を受け取ったら、まず資金を以下の4つに分けて考えよう。

  • 当面の生活費
    退職後1〜2年分の生活費。預金などすぐ使える形で確保する。
  • 予備資金
    医療費、介護費、住宅修繕費、家族支援などに備える資金。
  • 近いうちに使う資金
    住宅ローン返済、車の買い替え、リフォーム、旅行など数年以内に使う予定がある資金。
  • 長期運用に回せる資金
    10年以上使う予定がなく、元本割れリスクを取れる範囲の資金。

退職後の生活は長く続く可能性がある。令和6年簡易生命表では、65歳時点の平均余命は男性19.47年、女性24.38年とされている。

そのため、退職金は「増やす」だけでなく「長く使えるように守る」視点も必要だ。

リスクとリターンのバランスを確認する

投資におけるリスクとは、単に損をすることではなく、運用成果の振れ幅を指す。リターンは、運用によって得られる利益や損失のことだ。

一般的に、大きなリターンを期待するほど、価格変動のリスクも大きくなる。退職後は現役時代より収入が減ることが多いため、損失を取り戻す時間や収入余力が限られやすい。

退職金運用では、短期間で大きく増やそうとするより、長期・積立・分散の考え方を取り入れ、資産寿命を伸ばす運用を意識しよう。

老後資金はいくら必要?退職金運用のゴールを決める

退職金の運用方針を決めるには、まず老後資金がどの程度不足しそうかを把握する必要がある。

「老後2,000万円問題」で知られる金融審議会 市場ワーキング・グループの報告書は、毎月約5万円の不足が30年続く場合に約2,000万円の取り崩しが必要になるという考え方だった。ただし、必要な老後資金は、世帯構成、年金額、退職金、住宅ローン、医療・介護費、希望する生活水準によって大きく変わる。

家計調査でみる毎月の不足額

2025年の家計調査では、65歳以上の無職世帯の家計収支は次の通りだった。

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世帯区分実収入可処分所得消費支出不足額の目安
65歳以上の夫婦のみ無職世帯254,395円221,544円263,979円42,435円
65歳以上の単身無職世帯131,456円118,465円148,445円29,980円

夫婦のみ無職世帯の不足額42,435円を30年分で単純計算すると、約1,527万円になる。

ただし、この金額は住宅修繕費、医療・介護費、車の買い替え、旅行、子どもや孫への支援などの大きな支出を含めた個別の必要額ではない。平均値は、あくまで老後資金を考えるきっかけとして捉えよう。

老後資金の目標額は自分の家計から逆算する

老後資金の目標額は、平均値ではなく自分の家計から逆算することが重要だ。基本的な考え方は次の通りである。

老後資金の必要額=(1か月の支出−1か月の収入)×12か月×老後年数+今後予想される大きな支出−退職金・預貯金など準備済み資金

例えば、毎月の不足額が5万円、老後期間を30年、大きな支出を500万円、退職金と預貯金を1,000万円とすると、5万円×12か月×30年+500万円−1,000万円=1,300万円と計算できる。

老後資金は、今すぐ全額を用意しなければならないものではない。働いている間は積立や投資で準備し、退職後は取り崩しと運用のバランスを考えることが大切だ。

元本保証で退職金を運用したい場合は?

退職金を減らしたくない場合、元本保証・元本確保に近い商品を中心に考えることになる。

ただし、「元本保証」の意味はすべての商品で同じではない。定期預金は預金保険制度の範囲、個人向け国債は国による元本・利子の支払い、保険は契約で定められた保険金や解約返戻金というように、確認すべき条件が異なる。

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商品保証・条件の目安向いている使い方と注意点
定期預金預金保険制度により、1金融機関ごとに1預金者あたり元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護される生活防衛資金や数年内に使う資金の保管向き
退職金優遇プランは期間や条件を確認する
個人向け国債2026年5月募集分は変動10年1.67%、固定5年1.89%、固定3年1.57%(税引前)
最低金利0.05%
1年以上使わない資金の低リスク運用向き
中途換金時は調整額が差し引かれる
貯蓄型保険満期保険金や解約返戻金は契約内容で決まる
短期解約では払込保険料を下回ることが多い
保障と資金準備を同時に考える場合の候補
運用目的だけならコストや流動性も比較する

退職金優遇プランは適用期間と条件を確認する

退職金の預け先として、退職金向けの金利優遇プランを案内されることがある。

優遇プランは金利が高く見えても、3か月など短期間に限られる場合や、投資信託・保険とのセット契約が条件になっている場合がある。優遇期間が終わったあとの金利や、セット商品の手数料まで含めた実質的な条件を確認したうえで利用しよう。

また、預金保険で保護されるのは1金融機関ごとに元本1,000万円までと破綻日までの利息等だ。退職金の金額が大きい場合は、複数の金融機関に分ける、決済用預金を検討するなど、保護範囲を意識して預け先を決めたい。

個人向け国債は最低金利0.05%と中途換金条件を確認する

個人向け国債は、国が発行する個人向けの債券で、最低1万円から1万円単位で購入できる。半年ごとに利子が支払われ、最低金利0.05%が設定されている。

2026年5月募集分の利率は、変動10年が年1.67%、固定5年が年1.89%、固定3年が年1.57%(いずれも税引前)だ。金利は募集月ごとに変わるため、購入前に最新の発行条件を確認しよう。

発行から1年経過後であれば中途換金できるが、直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685の中途換金調整額が差し引かれる。満期まで保有できる資金かどうかを先に確認しておきたい。

貯蓄型保険は保障も必要な場合だけ

貯蓄型保険は、死亡保障などの保障機能と、満期保険金や解約返戻金による資金準備を組み合わせた商品だ。老後の保障と資金準備を同時に考えたい場合は、選択肢の1つになる。

ただし、純粋な運用商品として見ると注意点もある。保険料払込期間中や契約から短期間で解約した場合、解約返戻金が払込保険料の総額を下回ることが多い。

また、変額保険や外貨建て保険は、円建ての一般的な貯蓄型保険とはリスクが異なる。退職金を一括で保険に入れる前に、解約時の条件、手数料、為替や市場の影響、途中で資金が必要になった場合の対応を確認しよう。

元本保証だけに偏るとインフレに対応しにくい

元本保証・元本確保に近い商品は安心感がある一方で、大きなリターンは期待しにくい。退職金全体を安全資産だけに置くと、資産を大きく減らすリスクは抑えられるが、物価上昇によって実質的な購買力が下がる可能性がある。

そのため、生活に必要な資金は安全性を優先し、10年以上使わない資金だけを無理のない範囲で運用へ回す考え方が現実的だ。運用しない場合の注意点は、後述のセクションでも詳しく整理している。

退職金運用の主な手法は?低リスク資産と投資商品を使い分ける

退職金運用の選択肢には、定期預金、個人向け国債、投資信託、NISA、株式投資などがある。

どれか一つが絶対に正解というわけではない。安全性、流動性、収益性、税制優遇、使う時期を踏まえて組み合わせることが大切だ。

定期預金と個人向け国債

定期預金は、元本を守りながら保管しやすい方法だ。定期預金や利息の付く普通預金などの一般預金等は、預金者1人あたり1金融機関ごとに元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護される。

一方、定期預金は安全性が高い反面、金利だけで大きく資産を増やすことは期待しにくい。金利は金融機関や預入期間によって変わるため、最新の店頭金利を確認しよう。

個人向け国債は、国が満期時の元本と半年ごとの利子の支払いを行う商品だ。比較的安全性を重視した運用に向いているが、発行後一定期間は原則として中途換金できず、中途換金時には直前2回分の利子相当額が差し引かれる。

「絶対に減らしたくない生活費」は預金、「すぐ使う予定はないが安全性を重視したい資金」は個人向け国債というように、使う時期で分けると考えやすい。

投資信託のメリットとデメリット

投資信託は、投資家から集めた資金を運用会社が株式や債券などに投資し、その運用成果を投資家に還元する商品だ。

メリットは、少額から分散投資しやすく、自分で個別銘柄を選ぶ負担を減らせる点にある。国内外の株式、債券、REITなど、幅広い資産へ分散できる商品もある。

一方、投資信託は元本保証ではない。相場が下落すれば、投資元本を下回る可能性がある。また、購入時手数料、信託報酬、信託財産留保額などの費用がかかる場合がある。

投資信託を選ぶ際は、過去の利回りだけでなく、投資対象、リスク、信託報酬、分配金方針、NISA対象かどうかを確認しよう。

NISAを活用した運用

NISAは、株式や投資信託などの運用益が非課税になる制度だ。2024年からのNISAでは、年間投資枠が最大360万円、非課税保有限度額が最大1,800万円となっている。

退職金の一部を長期運用する場合、NISAを使うことで運用益への税負担を抑えられる可能性がある。

ただし、NISAで購入できる商品も元本保証ではない。退職金を一括で大きく投資するのではなく、期間を分けて投資する、複数の商品に分散する、生活費を確保してから運用するなどの工夫が必要だ。

株式投資のリスクとリターン

株式投資は、退職金運用の中でもリスクとリターンが大きい方法だ。

株式投資では、配当によるインカムゲインと、株価上昇によるキャピタルゲインを期待できる。一方で、企業業績、金利、為替、景気、政治情勢などによって株価が大きく下がることもある。

退職金の全額を個別株へ集中投資するのは避けたい。個別株に投資する場合は、余裕資金の一部にとどめ、生活費や予備資金を確保したうえで判断しよう。

ヘッジファンドなどの私募ファンドは慎重に検討する

退職金運用の選択肢として、ヘッジファンドが紹介されることもある。ヘッジファンドは、空売り、レバレッジ、デリバティブなど多様な手法を使い、市場環境に左右されにくい収益を目指すファンドだ。

ただし、私募形式で募集されることが多く、最低投資額が高額になりやすい。管理報酬や成功報酬などの手数料が高い、ロックアップ期間があり換金しにくい、情報開示が限られるといった注意点もある。

また、無登録業者が一般投資家にファンド出資を勧誘することは、法律違反の可能性がある。「金融庁に届出済みだから安全」という説明をうのみにせず、金融商品取引業者としての登録状況を必ず確認しよう。

検討する場合でも、生活費と予備資金を確保したうえで、損失が出ても生活に支障がない余裕資金の一部にとどめることが前提だ。仕組みやリスクを十分に理解できない商品には投資しないことが基本である。

主な運用方法の特徴を以下にまとめた。

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手法特徴メリット注意点
定期預金銀行に一定期間預ける安全性が高く、預金保険制度の対象大きなリターンは期待しにくい
個人向け国債国が発行する個人向け債券満期まで持てば元本と利子の支払いを国が行う中途換金時に調整額が差し引かれる
投資信託複数の資産へ分散投資できる少額から分散投資しやすい元本保証がなく、信託報酬などの費用がかかる
NISA運用益が非課税になる制度長期運用の税負担を抑えやすい投資対象は元本保証ではない
株式投資個別企業の株式に投資する配当や値上がり益を期待できる価格変動が大きく、集中投資はリスクが高い
ヘッジファンド私募形式で多様な戦略を使うファンド相場環境に左右されにくい収益を目指す手数料が高く、換金しにくい場合がある

退職金を運用したくない?預金だけにする場合の注意点

退職金を運用しないことは、必ずしも間違いではない。近い将来に使う生活費や医療・介護費、住宅修繕費などは、預金など安全性の高い方法で確保しておく必要がある。

アドバイザーナビ株式会社が55歳以上の退職者113名を対象に行った調査では、退職金を「一部運用している」と回答した人が39.8%、「全額預金している」と回答した人が38.9%だった。調査対象は限られるが、退職金の扱いは人によって分かれている。

一方で、すべてを預金に置き続ける場合には、確認しておきたい注意点がある。

全額を預金のままにするとインフレで実質価値が下がる

物価が上がると、同じ金額で買える商品やサービスは少なくなる。

総務省統計局の消費者物価指数では、2025年度平均の総合指数は2020年を100として112.3となり、前年度比2.6%上昇した。

たとえば、年2%の物価上昇が20年続くと、現在の1,000万円と同じ購買力を保つには約1,486万円が必要になる。反対に、1,000万円を現金のまま置いておくと、20年後の実質的な価値は現在の約673万円分に近づく。

預金は短期的には安心感があるが、長期的にはインフレによって実質価値が下がる可能性がある点を理解しておこう。

毎月の取り崩し額と何年もつかを確認する

前述の家計調査データの通り、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では月4万円程度、単身無職世帯では月3万円程度の不足が生じている。

この不足分は、預貯金や退職金、企業年金などの取り崩しで補うことになる。

退職金を運用しない場合でも、毎月いくら取り崩し、何歳まで資金がもつかを把握しておかないと、想定より早く資金が減る可能性がある。

運用しない場合も資金は使う時期で分けて管理する

退職金は、「運用するかしないか」の二択で考えないことが大切だ。

すぐ使うお金は普通預金や定期預金、数年以内に使うお金は定期預金や個人向け国債など安全性の高い方法で確保する。そのうえで、預金だけでは不足しそうな場合に限り、10年以上使わない余裕資金の範囲で分散運用やNISAの活用を検討すればよい。

運用に迷っている場合は、まず自分の生活費、年金見込額、退職金以外の資産、今後の支出予定を整理することから始めよう。

退職金の運用で失敗するケースは?

退職金は、多くの人にとって人生で一度きりの大きなまとまったお金だ。しかし、焦って運用を始めると、大きな損失や資金不足につながることがある。

ここでは、退職金運用でよくある失敗例を確認しよう。

ケース1:リスクを理解しないまま投資する

株式、投資信託、外貨建て商品などは、元本割れのリスクがある。仕組みやリスクを理解しないまま購入すると、市場の下落時に大きく資産を減らす可能性がある。

投資を始める前には、値動きの幅、手数料、為替リスク、換金条件を確認しよう。

ケース2:生活資金まで投資に回してしまう

退職金を増やしたい気持ちが強くても、生活費まで投資に回すのは避けたい。相場が下落したタイミングで医療費や介護費などの支出が発生すると、損失を抱えたまま売却せざるを得ない場合がある。

退職直後の生活費や急な支出に備える資金は、預貯金など換金しやすい形で残しておこう

ケース3:手数料や税金を把握していない

投資商品には、購入時手数料、運用管理費用、信託財産留保額、為替手数料などがかかる場合がある。また、利益が出た場合は税金がかかることもある。

NISAのように非課税制度を利用できる場合もあるが、制度の対象外の商品や取引もある。商品を選ぶときは、期待リターンだけでなく、コストと税金を含めた手取りを確認しよう。

長期的な視点での退職金の運用戦略

退職金運用では、短期的な値上がりを狙うより、長期的に資産を守りながら使う戦略が大切だ。

ここでは、インフレ対策、分散投資、定期的な見直しの3つを確認しよう。

インフレに備える重要性

退職後の資金計画では、物価上昇への備えも必要になる。

インフレが続くと、同じ金額で買えるものが減る。例えば、20年後に物価が50%上がった場合、現在1,000万円で買えるものは、20年後には1,500万円必要になる。

現金や預金は流動性と安全性の面で重要だが、すべてを預金のままにすると、物価上昇によって実質的な購買力が下がる可能性がある。

インフレ対策としては、株式、投資信託、REIT、金などの実物資産に連動しやすい商品を一部組み入れる選択肢がある。ただし、いずれも元本保証ではないため、余裕資金の範囲で検討しよう。

資産の分散投資の効果

退職金運用で大切なのは、特定の商品や資産に偏りすぎないことだ。

株式、債券、預金、不動産、金など、異なる特徴を持つ資産を組み合わせることで、一つの資産が値下がりしたときの影響を抑えやすくなる。

また、国内だけでなく海外資産を組み入れることで、地域分散もできる。ただし、海外資産には為替変動リスクがあるため、リスク許容度に応じて割合を決めよう。

退職金運用では、利益を最大化するより、大きな損失を避けることが重要になる。分散投資はそのための基本的な考え方だ。

定期的な資産見直しの必要性

退職金の運用プランは、一度決めたら終わりではない。

相場環境、年齢、健康状態、家族構成、生活費、年金収入、介護や相続の予定は時間とともに変化する。そのため、定期的に運用内容を見直す必要がある。

例えば、株式相場が上昇して株式の割合が大きくなりすぎた場合は、一部を売却して預金や債券に戻すなど、資産配分を調整することも検討したい。

見直しの目安は、年1回または大きなライフイベントがあったときだ。退職後の運用は長期戦になるため、定期的にメンテナンスする習慣をつけよう。

退職金の運用についての相談はIFAがおすすめ

退職金運用に不安がある場合、専門家へ相談する選択肢もある。

相談先には、ファイナンシャル・プランナー、金融機関、税理士、IFAなどがある。税金の個別判断は税理士、金融商品の提案や取引支援は金融機関やIFAなど、相談内容に応じて使い分けよう。

IFAが提供する専門的なアドバイス

IFAとは、独立系ファイナンシャル・アドバイザーのことだ。

日本では主に金融商品仲介業者として、顧客のライフプランやニーズに合わせて、金融商品の選定・運用、各種制度の活用、売買取引の支援などを行う人や法人を指す。

退職金運用では、退職後の生活費、公的年金、預貯金、NISA、iDeCo、保険、住宅ローン、相続予定などを踏まえて、資産全体の配分を相談できる場合がある。

ただし、IFAは金融機関と業務委託契約を結んで業務を行う立場でもある。完全にどの金融機関とも関係がないわけではないため、相談前に登録状況や手数料を確認しよう。

IFAと共に立てる運用プラン

退職金は、今後の生活を支える大切な資産だ。そのため、運用プランを立てる際は、まず生活費や予備資金を確保し、そのうえで運用に回せる金額を決める必要がある。

IFAに相談する場合は、以下の資料を準備しておくと話が進みやすい。

  • 退職金の支給予定額と税引後の手取り額
  • 公的年金の見込み額
  • 預貯金・有価証券・保険・不動産などの資産状況
  • 住宅ローンや借入金の残高
  • 退職後の生活費の見込み
  • 医療費・介護費・相続など将来の支出予定

これらを整理しておくことで、退職金をどの程度守り、どの程度運用に回すべきか判断しやすくなる。

IFAを活用するメリットと選び方

IFAを活用するメリットは、退職金だけでなく、資産全体を踏まえた運用方針を相談できる点にある。

一方で、IFAによって提携金融機関、取扱商品、手数料、得意分野、フォロー体制は異なる。相談前には、以下の点を確認しよう。

  • 金融商品仲介業者として登録されているか
  • 所属金融機関や提携金融機関はどこか
  • 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用はいくらか
  • 元本割れリスクや途中解約時の条件を説明してくれるか
  • 退職後の生活費を確保したうえで提案してくれるか
  • 運用開始後の定期フォローがあるか
  • 税理士や弁護士など他士業と連携できるか

「高利回り」「必ず増える」「元本保証で大きく増やせる」といった説明には注意が必要だ。退職金は老後資金の中心になりやすいため、商品の内容や費用を理解したうえで判断しよう。

IFA以外の相談先も使い分ける

中立的な立場で家計や資産形成の基本を学びたい場合は、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の無料相談も利用できる。家計管理や生活設計、NISA・iDeCoなどの資産形成について、無料体験相談や電話相談が提供されている。

ただし、J-FLECでは個別の金融商品・サービスの提案や推奨はできない。税金の個別判断は税理士や税務署、年金の手続きは年金事務所というように、相談範囲を理解したうえで窓口を使い分けよう。

【まとめ】退職金の運用に困ったら専門家に相談しよう!

今回は、退職金の運用方法について解説した。

退職金は、人生で何度も受け取るものではない。だからこそ、運用の経験や知識がないまま大きな判断をするのは不安に感じやすい。

老後資金は、平均値だけで判断せず、自分の生活費や年金額、退職金、将来の支出をもとに必要額を計算することが出発点になる。

そのうえで、退職金運用で大切なのは、まず生活費や予備資金を確保し、長期運用に回せる資金を決めることだ。運用しないことも選択肢の一つだが、その場合もインフレや取り崩しペースへの備えは確認しておきたい。

定期預金や個人向け国債で守る資金、NISAや投資信託で長期運用する資金、必要に応じて株式などで成長を狙う資金を分けて考えると、リスクを抑えやすくなる。

また、退職金を運用する際は、長期・積立・分散の考え方を取り入れ、定期的に資産配分を見直すことも重要だ。

一人で判断するのが難しい場合は、FPやIFAなどの専門家へ相談する選択肢もある。ただし、相談先の登録状況、手数料、取扱商品、リスク説明を確認し、自分の生活設計に合う運用方法を選ぼう。

退職金運用に関する個別の悩みや疑問を整理したい方は、以下のボタンから相談先を確認できる。

出典

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」(公開日:2023年10月31日)
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」
厚生労働省「令和6年簡易生命表の概況」
金融庁「預金保険制度」
日本銀行「預金種類別店頭表示金利の平均年利率等」
財務省「個人向け国債を始めてみたい方」
財務省「個人向け国債の発行条件等」(公開日:2026年5月13日)
財務省「個人向け国債の中途換金についてのよくある質問」
金融庁「NISAを知る:NISA特設ウェブサイト」
金融庁「資産形成の基本:NISA特設ウェブサイト」
金融経済教育推進機構 J-FLEC「リスクを抑えて賢くふやす!3つのポイント『長期・積立・分散』」(公開日:2025年7月9日)
信託協会「投資信託」
生命保険文化センター「終身保険」
生命保険文化センター「変額保険」
総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要」
総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年3月分及び2025年度平均」
金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 高齢社会における資産形成・管理」(公開日:2019年6月3日)
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」
金融経済教育推進機構 J-FLEC「専門家に相談したい」
金融庁「ヘッジファンド調査の概要とヘッジファンドをめぐる論点」
金融庁「いわゆるファンド形態での販売・勧誘等業務について」(更新日:2016年3月1日)
PR TIMES「【退職金の使い方は?】退職金を運用に回している方は全体の約47%」(公開日:2023年2月17日)
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

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執筆者

退職金の相談相手 検索サービス「退職金ナビ」を運営する。
「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンにIFA業界のプラットフォームとして、総合コンサルティング事業を展開している。

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