薬剤師の退職金は、勤務先や雇用形態、退職金制度の有無によって大きく変わります。
同じ薬剤師でも、調剤薬局、ドラッグストア、病院、製薬会社、公的医療機関では退職金の仕組みが異なります。正社員は対象でも、パート・契約社員は対象外となるケースもあります。
結論から言えば、薬剤師の退職金を知るには、まず勤務先の就業規則・退職金規程・企業年金や中退共の加入状況を確認することが重要です。
本記事では、薬剤師の退職金相場を考える際の参考値、勤務先別の違い、退職金の計算方法、受け取る前に確認すべき税金・社会保険料、退職金の活用方法を解説します。
退職金は将来の生活設計に関わる大切なお金です。転職や退職を考えている薬剤師の方は、早めに確認しておきましょう。
薬剤師の退職金相場と金額が変わる要因
薬剤師だけを対象にした公的な退職金相場は、確認しにくいのが実情です。
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」では、薬剤師の賃金は全国平均で年収566.8万円とされています。ただし、退職金は年収だけで決まるものではありません。
退職金は、勤務先の制度、勤続年数、退職理由、基本給、役職、企業年金や中退共の加入状況などによって変わります。そのため、「薬剤師だから一律でいくら」と考えるのではなく、自分の勤務先の制度を確認する必要があります。
薬剤師の退職金相場は勤務先によって変わる
薬剤師の主な勤務先ごとに、退職金制度で確認すべきポイントを整理すると以下のとおりです。
| 勤務先 | 退職金で確認したいこと |
|---|---|
| 調剤薬局 | 退職金規程の有無、中小企業退職金共済制度への加入、正社員以外の対象範囲 |
| ドラッグストア | 退職一時金、企業型DC、役職・店長・管理薬剤師経験の反映有無 |
| 民間病院 | 病院独自の退職金規程、企業年金、職種・勤続年数による支給条件 |
| 製薬会社 | 退職一時金、確定給付企業年金、企業型DC、役職・等級・ポイント制度 |
| 国立病院機構・公的病院など | 法人や自治体の退職手当規程、職員区分、勤続年数、退職理由別の支給率 |
たとえば、国立病院機構では職員退職手当規程が公表されています。公的医療機関で働く薬剤師の場合、民間企業の退職金規程とは異なるルールで退職手当が計算されることがあります。
一方、調剤薬局や中小規模のドラッグストアでは、中退共を利用している場合もあります。中退共に加入している場合、掛金月額と納付月数をもとに退職金額が決まります。
中小企業のモデル退職金は参考値として見る
薬剤師固有の退職金相場ではありませんが、中小企業の退職金水準を知る参考として、中退共が紹介している東京都産業労働局のモデル退職金があります。
10〜49人規模の企業における大学卒のモデル退職金は以下のとおりです。
10〜49人規模|大学卒モデル退職金の参考値
| 勤続年数 | 自己都合退職 | 会社都合退職 |
|---|---|---|
| 5年 | 44.9万円 | 59.1万円 |
| 10年 | 114.5万円 | 145.2万円 |
| 20年 | 348.2万円 | 403.7万円 |
| 30年 | 678.8万円 | 758.0万円 |
| 定年 | - | 1,088.4万円 |
上記は薬剤師だけの統計ではなく、都内中小企業のモデル退職金です。調剤薬局や中小規模のドラッグストアなどで働く薬剤師が、おおまかな水準を考える際の参考値として見てください。
実際の退職金は、勤務先の退職金規程や中退共の掛金月額、勤続年数、退職理由によって変わります。相場だけで判断せず、自社制度に基づいて確認することが大切です。
勤続年数が退職金に与える影響
退職金制度がある場合、勤続年数が長いほど退職金が増えやすい傾向があります。
多くの退職金制度では、勤続年数に応じて支給率やポイントが増えます。また、自己都合退職よりも定年退職や会社都合退職の方が、支給率が高く設定されている場合があります。
ただし、勤続年数が長くても、勤務先に退職金制度がなければ退職金は支給されません。また、転職によって勤続年数がリセットされる場合もあるため、転職前には退職金制度の有無と支給条件を確認しておきましょう。
企業規模や制度による違い
大手ドラッグストア、製薬会社、医療法人グループなどでは、退職一時金だけでなく、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金を組み合わせている場合があります。
一方、個人経営の薬局や小規模な事業所では、退職金制度がない場合や、中退共のみで退職金を準備している場合があります。
薬剤師が転職先を選ぶ際は、年収だけでなく、退職金制度、企業年金、企業型DC、賞与、福利厚生、長期的な働き方まで含めて比較することが重要です。
薬剤師の退職金の計算方法と確認ポイント
薬剤師の退職金の計算方法は、勤務先によって異なります。
ここでは一般的な計算方法を紹介しますが、正確な金額を知りたい場合は、勤務先の退職金規程や人事・総務担当者に確認しましょう。
基本給に基づく計算方法
退職金制度の一つに、退職時の基本給をもとに計算する方法があります。
一般的な計算式は以下のとおりです。
たとえば、退職時の基本給が40万円、勤続15年の支給率が15.0、自己都合退職の退職事由係数が0.8の場合、退職金は次のように計算できます。
40万円×15.0×0.8=480万円
これはあくまで計算例です。実際には、支給率や退職事由係数は会社ごとに異なります。役職、休職期間、再雇用期間、懲戒処分の有無などが影響する場合もあります。
定額制・ポイント制・企業年金で計算される場合もある
基本給連動型以外にも、薬剤師の退職金には複数の計算方法があります。
| 制度・計算方法 | 内容 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 定額制 | 勤続年数ごとに退職金額を定める | 勤続何年から支給されるか 自己都合退職で減額されるか |
| 基本給連動型 | 退職時の基本給や支給率をもとに計算する | 基本給に何を含めるか 役職手当や残業代を含むか |
| ポイント制 | 勤続年数、役職、評価などで付与されたポイントをもとに計算する | ポイント単価 付与基準 退職理由による係数 |
| 中退共 | 掛金月額と納付月数をもとに退職金額が決まる | 加入状況 掛金月額 納付月数 試算額 |
| 確定給付企業年金 (DB) | 会社の年金規約に基づいて給付内容が決まる | 一時金・年金の選択可否 受給開始時期 |
| 企業型確定拠出年金 (企業型DC) | 掛金と運用結果によって将来の受取額が決まる | 運用残高 商品選択 転職・退職時の移換手続き |
特に企業型DCは、薬剤師本人が選んだ運用商品によって将来の受取額が変わります。退職金と同じように考えがちですが、運用結果によって増減する点に注意しましょう。
確認すべき事項と注意点
自分の退職金を確認する際は、次の項目を整理しておきましょう。
- 退職金制度があるか
- 正社員・パート・契約社員など、どの雇用形態が対象か
- 退職金が発生する最低勤続年数
- 自己都合退職・会社都合退職・定年退職で支給率が変わるか
- 基本給・平均給与・ポイントのどれを使って計算するか
- 中退共・企業年金・企業型DCに加入しているか
- 退職金の支払時期と必要書類
退職金制度は、求人票では簡単にしか書かれていない場合があります。転職を検討している場合は、「退職金制度あり」という表記だけで判断せず、制度の種類や支給条件まで確認しましょう。
薬剤師が退職金を受け取る前に確認したい法律・税金・制度
退職金は、制度の有無、支給条件、税金、社会保険料の扱いを確認しておく必要があります。
退職時に慌てないよう、在職中から就業規則や退職金規程を確認しておきましょう。
労働基準法における退職金の考え方
退職金制度は、法律上すべての会社に義務付けられている制度ではありません。勤務先に退職金制度がなければ、退職金が支給されないこともあります。
一方、会社が退職手当の定めをする場合は、就業規則に以下の事項を記載する必要があります。
- 退職手当が適用される労働者の範囲
- 退職手当の決定・計算方法
- 退職手当の支払方法
- 退職手当の支払時期
退職金が気になる場合は、まず就業規則・退職金規程・労働条件通知書を確認しましょう。見つからない場合は、人事・総務担当者に確認するのが確実です。
退職金にかかる税金
退職金を一時金で受け取る場合、原則として退職所得として扱われます。退職所得は、長年の勤務に対する給付という性格があるため、退職所得控除や2分の1課税により税負担が軽くなるよう配慮されています。
一般的な退職所得の計算式は次のとおりです。
退職所得=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額は、勤続年数によって以下のように計算します。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
退職金を受け取る前には、原則として「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出します。提出している場合、勤務先が退職所得に応じた所得税等を計算して源泉徴収するため、原則として退職金だけを理由に確定申告する必要はありません。
一方、申告書を提出していない場合は、退職金等の支払金額に20.42%を乗じた所得税および復興特別所得税が源泉徴収され、確定申告で精算する必要があります。
なお、短期退職手当等に該当する場合や、同じ年に複数の退職金を受け取る場合は、通常と計算が異なることがあります。退職金額が大きい場合や判断に迷う場合は、税務署や税理士に確認しましょう。
社会保険料は原則として通常の退職金から控除されない
退職時に支払われる通常の退職金は、原則として健康保険・厚生年金保険の報酬や賞与には該当しません。そのため、通常の退職金一時金から社会保険料が控除されるわけではありません。
ただし、退職金相当額を在職中の給与や賞与に上乗せして前払いする制度では、報酬または賞与に該当する場合があります。
また、退職後は健康保険を任意継続にするのか、国民健康保険に加入するのか、家族の扶養に入るのかなどを選ぶ必要があります。退職金そのものに社会保険料がかからない場合でも、退職後の保険料や住民税の支払い予定は確認しておきましょう。
薬剤師が退職金を受け取った後の活用方法
退職金は、受け取った後の使い方も重要です。
まとまった資金を受け取ると、投資に回したい、住宅ローンを返済したい、独立・開業資金に使いたいと考える方もいるでしょう。しかし、退職金は老後生活や転職期間中の生活費を支える大切なお金でもあります。
まずは、次のように目的別に分けて考えましょう。
| 分類 | 主な使い道 | 考え方 |
|---|---|---|
| 生活資金 | 転職活動中の生活費、税金、社会保険料 | すぐ使える預金で確保する |
| 予備資金 | 医療費、家族支援、引っ越し、急な支出 | 投資に回しすぎず、流動性を重視する |
| 目的資金 | 住宅ローン返済、教育費、開業準備 | 使う時期が近いお金はリスクを抑える |
| 運用資金 | NISA、投資信託、債券など | 余裕資金で分散・長期の運用を検討する |
退職金を運用する場合は、生活防衛資金を確保したうえで、余裕資金の範囲で行うことが大切です。元本割れの可能性がある商品に、必要資金まで投じないようにしましょう。
独立開業を検討している薬剤師の場合も、退職金を全額開業資金に使うのは避けたいところです。事業計画、運転資金、融資、撤退ラインを整理したうえで、生活資金と事業資金を分けて考えましょう。
IFAに退職金の活用を相談する際の注意点
退職金の運用や資産配分に悩む場合は、IFAやファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談する選択肢があります。
ただし、退職金に関する相談は内容によって相談先が異なります。退職金の支給額は勤務先、税金は税務署や税理士、運用はIFAやFPというように、目的に応じて相談先を使い分けましょう。
IFAとは
IFAとは、一般に独立系ファイナンシャルアドバイザーを指す言葉です。金融商品仲介業者として活動するIFAは、証券会社などの金融商品取引業者や登録金融機関の委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行います。
そのため、IFAは完全にどの金融機関とも関係がない立場ではありません。相談前には、提携金融機関、取扱商品、手数料、登録状況を確認することが大切です。
IFAに相談できること
薬剤師が退職金の活用についてIFAに相談する場合、主に次のような内容が考えられます。
- 退職金のうち運用に回せる金額の整理
- 老後生活費や転職期間を踏まえた資産配分
- NISAやiDeCoの活用方法
- 預金・債券・投資信託などの組み合わせ
- 運用開始後の定期的な見直し
退職金は、薬剤師として働いて得た大切な資金です。提案された商品をそのまま契約するのではなく、元本割れリスク、手数料、換金性、運用期間、税金への影響を確認しましょう。
IFAに相談する前に確認したいこと
IFAに相談する際は、次の点を事前に確認しておくと安心です。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- どの証券会社・金融機関と提携しているか
- 相談料・販売手数料・信託報酬などの費用
- 提案される商品のリスクとコスト
- 特定の商品を勧める理由を説明してくれるか
- 運用後の定期フォローがあるか
金融商品仲介業者として登録されているかどうかは、金融庁の「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」などで確認できます。
IFAは退職金の活用相談先の一つですが、退職金そのものの支給額を確定する立場ではありません。支給額は勤務先、税金は税務署や税理士、運用方針はIFAやFPというように、相談内容に合う相手を選びましょう。
まとめ
本記事では、薬剤師の退職金相場、金額が変わる要因、計算方法、税金・社会保険料の扱い、退職金の活用方法を解説しました。
薬剤師の退職金は、勤務先や雇用形態によって大きく変わります。調剤薬局、ドラッグストア、病院、製薬会社、公的医療機関では制度が異なるため、まずは就業規則や退職金規程を確認しましょう。
退職金制度がある場合でも、勤続年数、退職理由、基本給、役職、企業年金や中退共の加入状況によって受取額は変わります。相場だけで判断せず、自分の勤務先の制度に沿って試算することが大切です。
退職金を一時金で受け取る場合は、退職所得控除や2分の1課税によって税負担が軽くなる仕組みがあります。ただし、申告書の提出有無や短期退職手当等に該当するかによって税金の扱いが変わるため、不安がある場合は税務署や税理士に確認しましょう。
退職金を受け取った後は、生活資金、予備資金、目的資金、運用資金に分けて考えることが重要です。運用を検討する場合は、IFAやファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談する選択肢もあります。
相談する際は、登録状況、手数料、取扱商品、リスク説明を確認し、自分の生活設計に合う方法を選びましょう。
出典
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「薬剤師」
厚生労働省 確かめよう労働条件「就業規則で必ず記載しておかなければならない事項はあるのですか?」
中小企業退職金共済事業本部「退職金の世間相場はどれくらいですか?」
中小企業退職金共済事業本部「退職金のシミュレーション」
東京都労働相談情報センター「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」
独立行政法人国立病院機構「職員退職手当規程」(更新日:2026年4月6日)
厚生労働省「私的年金制度の概要(企業年金、個人年金)」
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(更新日:2025年4月1日)
国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」(更新日:2025年4月1日)
厚生労働省「いわゆる退職金の前払いに係る社会保険料の取扱いについて」(公開日:2003年10月1日)
日本証券業協会「金融商品仲介業者」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

