中退共の退職金は、令和6年度の一般の中退(一時金払い)で1件あたり平均1,400,120円でした。金額は勤務先が設定した掛金月額と掛金納付月数で決まる仕組みのため、平均額よりも自分の掛金月額と加入期間を確認することが先決です。
中退共は、正式には中小企業退職金共済制度といい、独力で退職金制度を整えることが難しい中小企業のために設けられた国の退職金共済制度です。
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は全体で74.9%、従業員30〜99人規模でも70.1%でした。中小企業にも退職金制度はありますが、その受け皿として中退共を使っている会社は少なくありません。
中退共に加入している会社で働いている方の中には、「自分はいくら受け取れるのか」「短期間で退職したらもらえないのか」「転職しても通算できるのか」と不安に感じている方もいるでしょう。
この記事では、中退共の仕組みと加入条件、退職金の平均額、基本退職金額表とシミュレーションの使い方、請求手続き、税金、メリット・デメリット、他制度との違いまで解説します。
中退共とは?中小企業のための国の退職金共済制度
中退共は、中小企業の従業員のために用意された退職金共済制度です。
勤務先の事業主が中退共本部と退職金共済契約を結び、従業員ごとに毎月の掛金を納付します。従業員が退職したときは、会社ではなく中退共から退職者本人へ退職金が直接支払われます。
中退共の仕組みと特徴
中退共は、中小企業の事業主が掛金を拠出し、独立行政法人勤労者退職金共済機構が管理・運用する共済の仕組みによって、従業員に退職金を支給する制度です。事業主の相互共済と国の援助によって、単独では退職金制度を設けにくい中小企業でも制度を整えやすくすることを目的としています。
主な特徴は次のとおりです。
- 掛金は事業主が全額負担する
- 退職金は中退共から退職者本人へ直接支払われる
- 退職金額は掛金月額と掛金納付月数で決まる
- 掛金は通常5,000円〜30,000円の16種類から選ぶ
- 短時間労働者は2,000円・3,000円・4,000円の特例掛金も選べる
- 加入できるのは原則として従業員であり、経営者や役員は対象外となる
従業員にとっては、会社の経営状況にかかわらず、退職時に中退共へ直接請求できる点が大きな特徴です。資産の管理・運用・支払いを中退共が担うため、会社側も複雑な制度設計をせずに退職金制度を導入できます。
中退共に加入できる企業の条件
中退共に加入できる企業は、中小企業者に限られています。加入できる企業の範囲は業種ごとに異なります。
| 業種 | 一般業種 製造業・建設業など | 卸売業 | サービス業 | 小売業 |
|---|---|---|---|---|
| 常用従業員数 または 資本金・出資金 | 300人以下 または 3億円以下 | 100人以下 または 1億円以下 | 100人以下 または 5,000万円以下 | 50人以下 または 5,000万円以下 |
個人企業や公益法人等の場合は、資本金ではなく常時雇用する従業員数で加入条件を判定します。
自分の勤務先が中退共に加入しているか分からない場合は、加入時に配布される退職金共済手帳や加入通知を確認するか、人事・総務部門に問い合わせましょう。
加入できる従業員と加入させなくてもよい従業員
中退共に加入できるのは、中小企業の事業主に雇用されている従業員です。原則として、対象となる従業員は全員加入させることが求められます。特定の従業員だけを選んで加入させる制度ではありません。
ただし、次のような従業員は加入させなくてもよいとされています。
- 期間を定めて雇用される従業員
- 季節的業務に雇用される従業員
- 試用期間中の従業員
- 短時間労働者
- 休職期間中の従業員
- 定年など、短期間内に雇用関係が終了することが明らかな従業員
パートタイマーなどの短時間労働者も、加入させることは可能です。短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が同じ事業所の通常の従業員より短く、かつ30時間未満の従業員を指します。
法人企業の役員は、原則として加入対象ではありません。ただし、支店長、工場長、部長など使用人としての職制上の地位を持ち、従業員として賃金の支給を受けているなど、実態として労働者性が強い場合に限り加入できることがあります。
代表取締役や専務、常務などは加入できないケースがあるため、役員の加入可否は中退共本部に個別に確認しましょう。
掛金月額と国の助成制度
中退共の掛金月額は、事業主が従業員ごとに選択します。通常の掛金月額は5,000円から30,000円までの16種類です。
| 区分 | 選べる掛金月額 |
|---|---|
| 通常の従業員 | 5,000円、6,000円、7,000円、8,000円、9,000円、10,000円、12,000円、14,000円、16,000円、18,000円、20,000円、22,000円、24,000円、26,000円、28,000円、30,000円 |
| 短時間労働者 | 通常掛金に加えて、2,000円、3,000円、4,000円の特例掛金も選択可能 |
初めて中退共に加入する事業主には、加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1を国が助成する制度があります。助成額は従業員ごとに上限5,000円で、短時間労働者の特例掛金には上乗せの助成もあります。掛金月額を増額する場合にも、条件を満たせば助成を受けられることがあります。
掛金は、法人企業の場合は損金、個人企業の場合は必要経費として扱われます。従業員側の給与所得にもならないため、掛金の分だけ所得税や社会保険料が増えることはありません。
中退共退職金が発生する条件
中退共退職金は、掛金納付月数によって支給の有無や金額が変わります。
特に短期間で退職する場合は注意が必要です。
| 掛金納付月数 | 退職金の扱い |
|---|---|
| 11か月以下 | 原則として退職金は支給されない ※通算制度や他制度からの引継ぎがある場合は例外あり |
| 12〜23か月 | 退職金は支給されるが、掛金納付総額を下回る |
| 24〜42か月 | 掛金相当額となる |
| 43か月以上 | 運用利息と付加退職金が加算され、長期加入者ほど有利になる |
つまり、中退共では「1年以上加入すれば必ず掛金以上を受け取れる」というわけではありません。短期間で退職する場合は退職金が支給されない、または掛金総額を下回る可能性があります。
転職や退職を考えている方は、自分の掛金納付月数を確認してから退職時期を決めるとよいでしょう。
中退共と会社独自の退職金制度との違い
中退共と、会社が独自に支払う退職金には、次のような違いがあります。
| 比較項目 | 中退共退職金 | 通常の退職金 |
|---|---|---|
| 支払元 | 中退共から退職者本人へ直接支払われる | 会社から支払われる |
| 金額の決まり方 | 掛金月額と掛金納付月数が中心 | 会社の退職金規程、勤続年数、役職、評価、退職理由などで決まる |
| 会社都合・自己都合の差 | 原則として退職理由では変わらない | 会社によっては自己都合退職で減額される |
| 懲戒解雇の場合 | 厚生労働大臣の認定を受けたうえで減額できる場合がある | 会社の退職金規程によって不支給・減額となる場合がある |
| 資金準備 | 社外の共済制度で積み立てる | 会社内部で準備する場合や、保険・信託などを使う場合がある |
退職金制度は、法律上すべての会社に義務づけられているわけではありません。ただし、会社が制度を設ける場合は、対象となる従業員の範囲、支給要件、計算方法、支払方法、支払時期などを就業規則や退職金規程に記載する必要があります。まずは自社の規程と、中退共への加入状況をあわせて確認しましょう。
中退共退職金の平均額は令和6年度で全体132.1万円
中退共退職金の平均額は、制度全体で見るか、一般の中退の一時金払いだけを見るかで変わります。
令和6年度の退職金等支給状況では、全体の1件あたり支給金額は1,320,631円でした。一般の中退の一時金払いでは、1件あたり1,400,120円です。
| 区分 | 令和6年度の支給件数 | 支給総額 | 1件あたり支給金額 |
|---|---|---|---|
| 合計 | 362,210件 | 474,565百万円 | 1,320,631円 |
| 一般の中退 一時金払い | 294,537件 | 412,387百万円 | 1,400,120円 |
| 一般の中退 分割払い | 3,258件 | 522百万円 | 160,068円 |
| 建設業 | 63,100件 | 60,269百万円 | 955,128円 |
| 清酒製造業 | 94件 | 84百万円 | 895,463円 |
| 林業 | 1,221件 | 1,304百万円 | 1,067,574円 |
上記の「合計」には、一般の中退だけでなく、建設業・清酒製造業・林業の特定業種退職金共済制度も含まれます。そのため、一般的な中小企業の従業員が見る場合は、「一般の中退」の一時金払いの平均額も参考にするとよいでしょう。
なお、平均額はあくまで参考値です。実際の退職金は、勤務先が設定している掛金月額と掛金納付月数で決まります。
平均額を決める要因は掛金月額と納付月数
中退共退職金の金額を決める主な要因は、次の2つです。
- 勤務先が従業員ごとに設定している掛金月額
- 掛金を納付した月数
令和6年度末時点の一般の中小企業退職金共済制度の平均掛金月額は9,772円です。また、令和6年度の退職金受給者の平均掛金納付月数は、一般の中退で129月でした。
平均掛金月額が約1万円、平均掛金納付月数が約10年9か月であることを踏まえると、1件あたり100万円台前半の平均額になるのは自然な結果といえます。
中退共退職金の計算方法は基本退職金と付加退職金の合計
中退共退職金は、基本退職金と付加退職金の合計で計算されます。
基本退職金は、掛金月額と掛金納付月数に応じて固定的に定められている金額です。予定運用利回りは1.0%として設計されています。
付加退職金は、運用収入の状況などに応じて基本退職金に上乗せされる金額です。ただし、毎年度必ず付くわけではありません。
基本退職金額表で見る支給額の目安
掛金月額と加入期間ごとの基本退職金額の目安は、次のとおりです。
なお、下表は基本退職金であり、付加退職金は含まれていません。また、掛金納付月数が11か月以下の場合は、原則として退職金は支給されません。
基本退職金額表(抜粋・単位:円)
| 加入期間 | 掛金5,000円 | 掛金10,000円 | 掛金18,000円 | 掛金30,000円 |
|---|---|---|---|---|
| 1年 12月 | 18,000 | 36,000 | 64,800 | 108,000 |
| 2年 24月 | 120,000 | 240,000 | 432,000 | 720,000 |
| 3年 36月 | 180,000 | 360,000 | 648,000 | 1,080,000 |
| 5年 60月 | 304,100 | 608,200 | 1,094,760 | 1,824,600 |
| 10年 120月 | 632,800 | 1,265,600 | 2,278,080 | 3,796,800 |
| 20年 240月 | 1,333,300 | 2,666,600 | 4,799,880 | 7,999,800 |
| 30年 360月 | 2,106,550 | 4,213,100 | 7,583,580 | 12,639,300 |
| 40年 480月 | 2,958,950 | 5,917,900 | 10,652,220 | 17,753,700 |
たとえば、掛金10,000円で10年間加入した場合、基本退職金は1,265,600円です。掛金10,000円で20年間加入すると2,666,600円、掛金30,000円で30年間加入した場合は12,639,300円になります。
掛金月額が2倍になれば基本退職金も2倍になる一方、加入期間は2倍になると基本退職金が2倍以上に増えます。長く加入するほど有利になる仕組みです。
中退共の退職金シミュレーションの使い方
より正確に試算したい場合は、中退共のシミュレーションを利用できます。掛金月額や納付期間を入力すると、基本退職金額を自動で計算できます。
シミュレーションで入力する主な項目は次のとおりです。
- 加入するときの掛金月額
- 掛金を納付する期間
- 現在の年齢
- 新規加入助成や掛金増額助成を含めるか
従業員として試算する場合は、退職金共済手帳や勤務先の案内で自分の掛金月額と加入日を確認してから入力すると、実態に近い金額を確認できます。
シミュレーション結果を見るときの注意点
シミュレーションで表示される金額と、実際の受取額が一致するとは限りません。
次の点に注意して確認しましょう。
- 試算されるのは基本退職金額のみで、付加退職金は含まれない
- 掛金納付月数が11か月以下の場合は原則として退職金が支給されない
- 掛金納付月数が12〜23か月の場合は掛金納付総額を下回る
- 途中で掛金月額が変更されている場合は、変更前後で計算が分かれる
- 中退共の加入期間と、勤務先での勤続年数は一致しないことがある
正確な金額を知りたい場合は、勤務先に掛金月額と加入日を確認したうえで、中退共本部へ問い合わせるのが確実です。
なお、勤務先が中退共ではなく会社独自の退職金制度を採用している場合は、基本給連動型やポイント制など別の計算式が使われます。計算方法は退職金の計算方法を解説した記事で確認しましょう。
付加退職金は運用状況に応じて上乗せされる
付加退職金は、基本退職金に上乗せされる金額です。
具体的には、掛金納付月数の43月目と、その後12か月ごとの基本退職金相当額に、厚生労働大臣が定める支給率を乗じて得た額を、退職時まで累計して支給します。
直近の付加退職金支給率は、次のとおりです。
| 年度 | 付加退職金支給率 |
|---|---|
| 令和5年度 | 0 |
| 令和6年度 | 0.0010 |
| 令和7年度 | 0 |
| 令和8年度 | 0.0061 |
付加退職金は毎年必ず発生するものではありません。運用収入の状況などにより、支給率が0となる年度もあります。
転職時は通算制度を確認する
中退共制度には、転職時に掛金納付実績を通算できる制度があります。
中退共加入企業から別の中退共加入企業へ転職した場合、次の条件を満たすと、前の企業での掛金納付実績を新しい契約に通算できる場合があります。
- 前の会社で掛金が12か月以上納付されている
- 前の会社を退職後3年以内に新しい会社で中退共制度に加入する
- 前の会社で退職金を請求していない
会社都合などで転職した場合は、掛金納付月数が12か月未満でも通算できる場合があります。ただし、退職事由について厚生労働大臣の認定が必要です。
転職時に退職金をすぐ請求するか通算するかで、将来の受取額が変わる可能性があります。中退共加入企業へ転職する予定がある方は、請求前に通算制度を利用できるか確認しましょう。
退職理由によって金額は原則変わらない
中退共退職金は、原則として退職理由が事業主都合か自己都合かで金額が変わることはありません。
退職金額は、掛金月額と納付月数に応じて決まります。この点は、自己都合退職で支給率が下がることがある会社独自の退職金制度とは異なります。
ただし、懲戒解雇等の場合には、厚生労働大臣の認定を受けたうえで退職金を減額できる場合があります。減額の手続きには期限があるため、事業主側も退職者側も制度を確認しておく必要があります。
中退共退職金の受け取り方と税金、請求手続き
中退共退職金は、退職者本人が請求手続きを行って受け取ります。
また、一定の条件を満たす場合は、一括受け取りだけでなく、分割払いを選ぶこともできます。税金の扱いも受け取り方によって変わるため、退職前に確認しておきましょう。
中退共退職金の受け取り方法は3種類
中退共退職金の受け取り方法は、主に次の3つです。
- 一時金払い(一括払い)
- 全額分割払い
- 一部分割払い(併用払い)
退職日に60歳以下の場合は、一時金払いが基本です。退職日に60歳以上で一定の条件を満たす場合は、5年間または10年間にわたる分割払い、または一時金と分割払いを組み合わせた一部分割払いを選べます。
| 受け取り方法 | 主な条件 | 支払回数 |
|---|---|---|
| 一時金払い | 退職時に一括で受け取る | 1回 |
| 全額分割払い 5年 | 退職日年齢60歳以上、 退職金額80万円以上 | 20回 |
| 全額分割払い 10年 | 退職日年齢60歳以上、 退職金額150万円以上 | 40回 |
| 一部分割払い 5年 | 退職金額100万円以上、 一時金払対象額20万円以上、 分割払対象額80万円以上 | 20回 |
| 一部分割払い 10年 | 退職金額170万円以上、 一時金払対象額20万円以上、 分割払対象額150万円以上 | 40回 |
分割払いは年4回、2月・5月・8月・11月に支払われます。退職金額や年齢によって利用できない場合があるため、退職前に条件を確認しましょう。
退職金請求の流れと請求期限
中退共退職金を受け取るには、退職者本人が請求手続きを行います。死亡退職の場合は遺族が請求します。
退職金を受け取るまでの基本的な流れは、次のとおりです。
退職が決まったら、勤務先の事業主が中退共本部へ「被共済者退職届」を提出します。
事業主から退職者へ、退職金共済手帳などの請求書類が渡されます。手帳には、退職金の請求に必要な書類が含まれています。
退職金(解約手当金)請求書に、氏名、住所、振込先などを記入します。口座確認のため、金融機関の窓口で確認印を受けるか、普通預金通帳のコピーなどを添付します。
マイナンバー確認書類、身元確認書類、住民票など、請求内容に応じた添付書類を準備します。不備があると支払いが遅れるため、送付前に確認しましょう。
請求書と添付書類を、中退共本部へ郵送または電子申請で提出します。退職金の請求期限は、退職した日から5年間です。
書類に不備がなければ、請求受付後1か月から、掛金の納付方法によっては2か月半程度で本人の口座へ振り込まれます。
請求書類に不備がある場合や、退職月分までの掛金入金確認が必要な場合は、支払いまでさらに時間がかかることがあります。退職後すぐに資金が必要な方は、余裕をもって準備しておきましょう。
また、退職日から5年間請求しないと、時効によって請求権が消滅します。転職や引っ越しで手続きを後回しにしないよう注意が必要です。
中退共退職金の税金
中退共退職金を一時金で受け取る場合、原則として退職所得として税金が計算されます。
退職所得の金額は、原則として次の式で計算します。
退職所得控除額は、勤続年数に応じて次のように計算します。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
たとえば勤続30年の場合、退職所得控除額は「800万円+70万円×10年=1,500万円」です。中退共退職金の平均額は100万円台前半のため、多くのケースでは控除額の範囲に収まり、所得税がかからないこともあります。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、中退共側で所得税と復興特別所得税が計算・源泉徴収されるため、原則として確定申告は不要です。
一方、申告書を提出していない場合は、退職金等の支給額に20.42%をかけた所得税および復興特別所得税が源泉徴収され、確定申告で精算することになります。
なお、退職所得控除の計算で使う勤続年数は、原則として退職金額の計算の基礎となった期間です。中退共の加入期間と勤務先での勤続年数がずれている場合や、同じ年に複数の退職金を受け取る場合は計算が複雑になります。分割払いを選ぶと一時金払いとは課税の扱いも変わるため、税金に不安がある場合は税務署や税理士に確認しましょう。
受け取った退職金は使う時期ごとに分けて管理する
中退共退職金を受け取ったら、すぐに全額を投資や大きな支出に回すのではなく、まず使う時期ごとに分けて整理しましょう。
| 資金の区分 | 主な使い道 | 管理方法の例 |
|---|---|---|
| 短期資金 | 退職直後の生活費、税金、健康保険料、転職活動費 | 普通預金など換金しやすい形で管理 |
| 中期資金 | 住宅ローンの返済、車の買い替え、医療費、家族への支援 | 定期預金、個人向け国債など安全性を重視 |
| 長期資金 | 老後資金、介護費、将来の住み替え資金 | 余裕資金の範囲でNISAや投資信託などを検討 |
投資信託や株式などの金融商品には元本割れのリスクがあります。退職金の何割を運用に回すかは、年齢、年金額、生活費、住宅ローン、資産状況、リスク許容度によって異なるため、一律の割合で判断しないようにしましょう。
中退共のメリットとデメリット
中退共には、従業員側と企業側の双方にメリットがあります。一方で、短期退職時の支給額や加入対象など、事前に知っておきたい注意点もあります。
従業員側のメリットとデメリット
従業員にとっての主なメリットは、勤務先が掛金を納付することで、自己負担なく退職金を準備できる点です。
| 従業員側のメリット | 内容 |
|---|---|
| 会社の状況にかかわらず受け取れる | 退職金は会社ではなく中退共から本人へ直接支払われる |
| 本人負担なしで準備できる | 掛金は事業主が納付し、従業員の給与所得にもならない |
| 転職時に通算できる場合がある | 中退共加入企業間の転職では、条件を満たせば掛金納付実績を通算できる |
| 長期加入で有利になりやすい | 43か月以上から運用利息が加算され、長期加入者ほど有利になる |
一方、従業員側の注意点は、短期間で退職した場合の支給額と手続きです。
| 従業員側のデメリット | 内容 |
|---|---|
| 11か月以下では支給されない | 通算制度などの例外を除き、掛金納付月数が11か月以下では退職金が支給されない |
| 12〜23か月では掛金総額を下回る | 短期退職では、事業主が納めた掛金総額より少ない退職金になる |
| 金額を自分で増やせない | 掛金月額を決めるのは事業主で、従業員が運用商品を選ぶ仕組みもない |
| 請求手続きと期限がある | 本人が請求書類を提出する必要があり、退職日から5年で時効になる |
退職が近い場合は、勤務先に「掛金納付月数」「退職金共済手帳の受け取り時期」「通算制度を使えるか」を確認しておきましょう。
企業側のメリットとデメリット
企業側から見た主なメリットは、退職金制度を比較的簡単に導入できることです。
| 企業側のメリット | 内容 |
|---|---|
| 退職金制度を導入しやすい | 管理・運用・給付を中退共が行うため、自社で複雑な制度を設計しなくてよい |
| 掛金を損金または必要経費にできる | 法人企業では損金、個人企業では必要経費として扱われる |
| 国の助成を受けられる場合がある | 新規加入時や掛金増額時に、条件を満たせば助成を受けられる |
| 人材定着につながりやすい | 退職金制度を整えることで、福利厚生の充実を示しやすい |
一方で、企業側には次のような注意点があります。
| 企業側のデメリット | 内容 |
|---|---|
| 原則として対象従業員全員の加入が必要 | 一部の従業員だけを選んで加入させる制度ではない |
| 短期退職時でも掛金は戻らない | 退職金が支給されない場合や掛金総額を下回る場合でも、差額は事業主に返金されない |
| 掛金負担が継続する | 毎月の掛金が固定費になるため、資金繰りへの影響を確認する必要がある |
| 加入できる企業に制限がある | 業種ごとの従業員数・資本金要件を超えると、制度利用に制限がある |
中退共と他の退職金制度との違い
退職金制度には、中退共のほかにも会社独自の退職一時金・退職年金、企業型確定拠出年金(企業型DC)、小規模企業共済などがあります。
| 制度の種類 | 概要 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 退職一時金制度 | 退職時に会社から一括で退職金を受け取る | 計算式 支給率 退職理由による減額 |
| 退職年金制度 | 退職後に一定期間または年金形式で受け取る | 受給期間 税金 途中一時金化の可否 |
| 中退共 | 会社が掛金を納付し、中退共から従業員に支払われる | 掛金月額 納付月数 加入期間 |
| 企業型確定拠出年金 | 会社の掛金を従業員が運用し、将来受け取る | 運用商品 手数料 受け取り時期 |
企業型確定拠出年金との違い
企業型DCは、事業主が拠出した掛金をもとに加入者が運用商品を選び、将来の給付額が掛金と運用成果によって決まる年金制度です。
中退共は掛金月額と掛金納付月数をもとに退職金が決まるため、従業員が運用商品を選ぶ必要はありません。一方、企業型DCは運用成果によって将来の受取額が増減するため、投資の知識と判断が求められます。
| 比較項目 | 中退共 | 企業型DC |
|---|---|---|
| 主な対象 | 中小企業の従業員 | 制度を導入した企業の加入者 |
| 掛金 | 事業主が納付 | 主に事業主が拠出。制度によって加入者拠出もあり得る |
| 運用 | 従業員が運用商品を選ぶ仕組みではない | 加入者が運用商品を選択する |
| 受取額 | 掛金月額と納付月数をもとに決まる | 掛金と運用成果によって変動する |
| 注意点 | 短期退職では支給なし・掛金総額未満になることがある | 元本割れリスクがあり、原則として60歳まで引き出せない |
小規模企業共済との違い
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などが自分の退職後資金を準備するための制度です。中退共が従業員向けであるのに対し、小規模企業共済は経営者・役員・個人事業主向けという違いがあります。
掛金は月額1,000円から70,000円までの範囲で設定でき、全額が所得控除の対象になります。ただし、従業員の退職金を準備する制度ではありません。
| 比較項目 | 中退共 | 小規模企業共済 |
|---|---|---|
| 対象者 | 中小企業の従業員 | 小規模企業の経営者・役員・個人事業主など |
| 掛金負担 | 事業主 | 共済契約者本人 |
| 税制 | 掛金は法人の損金または個人企業の必要経費 | 掛金は契約者本人の所得控除 |
| 目的 | 従業員の退職金準備 | 経営者・役員・個人事業主の退職後資金準備 |
経営者が自分自身の退職後資金を準備したい場合は小規模企業共済、従業員の退職金制度を整えたい場合は中退共と、目的に応じて使い分けることになります。
中退共で受け取った退職金の相談は誰にしたらいい?
中退共退職金に関する相談先は、悩みの内容によって分けることが大切です。
制度や請求手続きは中退共や勤務先、税金は税務署や税理士、資産運用はIFAやFPなどが主な相談先になります。
| 相談内容 | 主な相談先 | 確認すること |
|---|---|---|
| 中退共に加入しているか | 勤務先の人事・労務担当 | 退職金共済手帳、掛金月額、加入日 |
| 退職金額や請求手続き | 中退共本部、勤務先 | 請求書類、支払予定、口座確認書類 |
| 転職時の通算制度 | 中退共本部、転職先 | 掛金納付月数、退職後3年以内か、退職金未請求か |
| 会社が届出をしない、退職金が支払われない | 労働基準監督署、総合労働相談コーナー、弁護士 | 就業規則、退職金規程、掛金納付状況 |
| 税金 | 税務署、税理士 | 退職所得控除、源泉徴収票、確定申告 |
| 退職後の生活設計 | FP、J-FLEC認定アドバイザー | 家計管理、ライフプラン、資金計画 |
| 退職金の活用・運用 | IFA、FP、金融機関など | 生活費、予備資金、運用方針、手数料 |
IFAに相談できるのは主に退職金の運用方針
退職金の運用や老後資金について相談する相手として、IFAやFPなどが候補になります。
IFAは「Independent Financial Advisor」の略として使われることが多く、日本では金融商品仲介業者を指す文脈で使われることがあります。金融商品仲介業者は、証券会社や登録金融機関の委託を受けて、有価証券の売買の媒介などを行う者です。
IFAに相談できる主な内容は、退職金の運用方針、資産配分、NISAなどの活用、退職後の資金計画などです。
一方で、中退共の退職金額の確定、請求手続き、税額の確定はIFAの専門領域ではありません。相談内容に応じて、適切な窓口を使い分けましょう。
IFAに相談する前に確認しておきたいこと
IFAに相談する場合は、次の点を確認しておきましょう。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- 所属金融機関や取扱商品の範囲
- 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用
- 提案商品のリスクを十分に説明してくれるか
- 生活費や予備資金を踏まえた提案になっているか
- 運用後のフォロー体制があるか
退職金は退職後の生活を支える大切な資金です。「独立系」「中立的」といった言葉だけで判断せず、登録状況、費用、提案される商品のリスクを確認しましょう。
【まとめ】中退共退職金は掛金月額と納付月数で大きく変わる
中退共は、中小企業の従業員のために設けられた国の退職金共済制度です。掛金は事業主が全額負担し、退職時には中退共から本人へ直接支払われます。
令和6年度の退職金等支給状況では、全体の1件あたり支給金額は1,320,631円、一般の中退の一時金払いでは1,400,120円でした。
ただし、実際の退職金額は、勤務先が設定している掛金月額と掛金納付月数によって大きく変わります。掛金納付月数が11か月以下では支給されず、12〜23か月では掛金納付総額を下回る点にも注意が必要です。
退職前に確認したいポイントは次のとおりです。
- 中退共に加入しているか
- 掛金月額はいくらか
- 掛金納付月数は何か月か
- 退職金をすぐ請求するか、通算制度を使えるか
- 一時金払いか分割払いか
- 退職所得の受給に関する申告書を提出しているか
制度や請求手続きは中退共本部や勤務先へ、税金は税務署や税理士へ、退職金の運用はIFAやFPなどへ相談するのが基本です。まずは退職金共済手帳や勤務先の制度資料を確認し、自分が受け取れる中退共退職金の見込み額を把握するところから始めましょう。
出典
厚生労働省「中小企業退職金共済制度(中退共制度)」
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況 退職給付(一時金・年金)制度」(公開日:2023年10月31日)
厚生労働省「資料2 中小企業退職金共済制度の現況」(公開日:2025年10月23日)
厚生労働省「一般の中小企業退職金共済制度の概要」(公開日:2026年3月17日)
厚生労働省「モデル就業規則」
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
中小企業退職金共済事業本部「加入の条件」
中小企業退職金共済事業本部「掛金」
中小企業退職金共済事業本部「通算制度」
中小企業退職金共済事業本部「退職金」
中小企業退職金共済事業本部「制度概要(被共済者の方へ)」
中小企業退職金共済事業本部「基本退職金額表」
中小企業退職金共済事業本部「退職金計算の方法・考え方について」
中小企業退職金共済事業本部「退職金のシミュレーション」
中小企業退職金共済事業本部「退職金請求手続きの流れについて」
中小企業退職金共済事業本部「掛金の一部を国が助成してくれるそうですが、どのような制度ですか?」
中小企業退職金共済事業本部「中退共制度に加入している企業間を転職した場合に通算ができますか?」
中小企業退職金共済事業本部「退職金の請求期限はありますか?」
中小企業退職金共済事業本部「退職金は分割して受け取れますか?」
中小企業退職金共済事業本部「退職理由により退職金額は変わりますか?」
中小企業退職金共済事業本部「懲戒解雇の場合には退職金を減額することができますか?」
中小企業退職金共済事業本部「退職金は請求してから何日くらいで支給されますか?」
中小企業退職金共済事業本部「退職金(一時金払い)は税法上どのように取り扱われますか?」
中小企業退職金共済事業本部「掛金は税法上どのように取り扱われますか?」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」(公開日:2025年4月1日)
独立行政法人 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 制度の概要」
金融経済教育推進機構 J-FLEC「専門家に相談したい」
日本証券業協会「金融商品仲介業者」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

