公務員を退職した後の生活設計を考えるうえで、退職金がいくら受け取れるのかを把握しておくことは重要だ。
ただし、公務員の退職金は「公務員なら全員同じ金額」というものではない。国家公務員か地方公務員か、退職理由、勤続期間、退職時の俸給月額・給料月額、職員区分、所属自治体の条例などによって金額が変わる。
本記事では、公務員退職金の基本知識、計算方法、シミュレーションの手順、退職金を受け取った後の活用方法を解説する。
退職金の正確な金額は、最終的には所属先の人事担当部署、退職手当組合、共済組合、自治体の規程などで確認しよう。
公務員退職金の基本知識|国家公務員と地方公務員で根拠が異なる

公務員退職金の計算方法を理解する前に、まず制度の基本を押さえておこう。
公務員の退職金は、長年の勤務に対する報償や退職後の生活保障の性格を持つ。国家公務員は国家公務員退職手当法に基づいて支給され、地方公務員は各自治体の条例や退職手当組合の規程などに基づいて支給される。
公務員と民間企業の退職金の違い
民間企業の退職金制度は、すべての会社に法律で義務付けられているわけではない。退職金制度を設けている会社では、就業規則や退職金規程に支給対象者、計算方法、支払方法、支払時期などが定められる。
一方、公務員の退職金は、国家公務員であれば国家公務員退職手当法、地方公務員であれば各自治体の条例・規則などに基づいて計算される。
ただし、公務員でも懲戒免職など一定の事由に該当する場合は、退職手当の全部または一部が支給されないことがある。退職金を受け取れるかどうかは、退職理由や所属先の規程も含めて確認する必要がある。
公務員退職金の計算で使う主な要素
国家公務員の退職手当は、基本的に次の考え方で計算される。
退職手当=基本額(退職日の俸給月額×退職理由別・勤続期間別支給割合)+調整額
地方公務員も、退職日の給料月額、退職理由、勤続期間、調整額などをもとに計算する制度が多い。ただし、支給率や調整額、早期退職加算の扱いは自治体によって異なる場合がある。
退職金額に影響しやすい要素は、主に以下のとおりだ。
- 退職日の俸給月額・給料月額
- 勤続期間
- 定年退職、応募認定退職、自己都合退職などの退職理由
- 在職中の職員区分・職責に応じた調整額
- 早期退職加算やピーク時特例の有無
- 休職、育児休業、停職など勤続期間の除算対象となる期間
公務員退職金の平均額は退職理由で大きく変わる
公務員退職金は、退職理由によって平均額が大きく異なる。
内閣官房内閣人事局が公表した令和6年度の国家公務員退職手当支給状況では、国家公務員退職手当法の適用を受けて退職した常勤職員の平均支給額は、定年退職で2,160.1万円、応募認定退職で2,470.3万円、自己都合退職で345.4万円となっている。
| 退職理由 | 受給者数 | 平均支給額 |
|---|---|---|
| 定年 | 11,073人 | 2,160.1万円 |
| 応募認定 | 1,859人 | 2,470.3万円 |
| 自己都合 | 9,951人 | 345.4万円 |
| その他 | 8,310人 | 263.0万円 |
この数字は国家公務員全体の平均であり、地方公務員や特定の自治体にそのまま当てはまるわけではない。地方公務員は自治体ごとの条例や退職手当組合の規程を確認しよう。
公務員退職金の計算方法|基本額と調整額を分けて考える

退職を検討している方や定年が近い方は、退職金額がどのように計算されるのか気になるだろう。
ここでは、国家公務員の一般的な計算方法を中心に説明する。地方公務員の場合は、同じような考え方で計算されることが多いものの、最終的な支給率や調整額は自治体ごとの規程で確認しよう。
基本額は「退職日の俸給月額×支給割合」で計算する
国家公務員の退職手当の基本額は、退職日の俸給月額に、退職理由別・勤続期間別支給割合を掛けて計算する。
この支給割合は、退職理由と勤続期間によって変わる。以下は国家公務員の支給割合の一部であり、調整率を乗じた後の数値である。
| 勤続年数 | 自己都合退職 | 定年・応募認定退職 |
|---|---|---|
| 20年 | 19.6695 | 24.586875 |
| 25年 | 28.0395 | 33.27075 |
| 35年 | 39.7575 | 47.709 |
たとえば、退職日の俸給月額が40万円で、勤続35年の定年退職に該当する場合、基本額は次のように計算できる。
なお、定年延長により60歳以降の俸給月額が減額される場合でも、一定の条件ではピーク時特例が適用される。60歳以降の給与減額が退職金にどう影響するかは、所属先に確認しよう。
調整額は職責に応じた調整月額を最大60カ月分合計する
国家公務員の調整額は、在職期間中の貢献度に応じた加算額である。基礎在職期間中の各月について、職員区分に応じた調整月額を確認し、そのうち金額が多いものから60カ月分を合計する。
給与法適用職員の調整月額の例は、以下のとおりだ。
| 区分 | 主な対象例 | 調整月額 |
|---|---|---|
| 区分1 | 指定職6号俸以上など | 95,400円 |
| 区分2 | 指定職5号俸以下など | 78,750円 |
| 区分3 | 行政職俸給表(一)10級など | 70,400円 |
| 区分4 | 行政職俸給表(一)9級など | 65,000円 |
| 区分5 | 行政職俸給表(一)8級など | 59,550円 |
| 区分6 | 行政職俸給表(一)7級など | 54,150円 |
| 区分7 | 行政職俸給表(一)6級など | 43,350円 |
| 区分8 | 行政職俸給表(一)5級など | 32,500円 |
| 区分9 | 行政職俸給表(一)4級など | 27,100円 |
| 区分10 | 行政職俸給表(一)3級など | 21,700円 |
| 区分11 | その他の職員など | 0円 |
ただし、勤続9年以下の自己都合退職では調整額が支給されないなど、退職理由や勤続期間によって調整額が減額・不支給となる場合がある。
退職金計算の例題|勤続35年・定年退職の場合
ここでは、国家公務員の計算方法をもとに、退職金の概算例を確認しよう。
- 退職理由:定年退職
- 勤続年数:35年
- 退職日の俸給月額:400,000円
- 支給割合:47.709
- 職員区分:区分7の期間が24カ月、区分8の期間が36カ月
まず、基本額を計算する。
次に、調整額を計算する。
最後に、基本額と調整額を合計する。
退職手当額:19,083,600円+2,210,400円=21,294,000円
この例では、退職手当額は2,129万4,000円となる。
実際の金額は、俸給月額、退職理由、勤続期間、調整額、早期退職加算、ピーク時特例、休職期間などによって変わる。例題はあくまで計算の流れを理解するための目安として見ておこう。
退職金の税金も忘れずに確認する
退職金は、原則として「退職所得」として所得税・復興特別所得税・住民税の対象になる。ただし、退職金には勤続年数に応じた退職所得控除がある。
一般的な退職所得の金額は、次の式で計算する。
退職所得の金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額は、勤続年数によって以下のように変わる。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
例えば、勤続35年の場合、退職所得控除額は800万円+70万円×15年=1,850万円となる。
退職金を受け取る前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、会社や所属先で退職所得控除を反映した源泉徴収が行われる。一方、申告書を提出していない場合は20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収され、確定申告で精算することになる。
企業年金や確定拠出年金の一時金を同じ時期に受け取る場合、退職所得控除の扱いが変わることがある。複数の退職金や年金一時金を受け取る予定がある人は、税務署や税理士に確認しよう。
シミュレーションで公務員退職金額を予測する

ここまで公務員の退職金計算方法を解説してきたが、自分で計算するには支給割合や調整額を調べる必要があり、やや手間がかかる。
退職金額を大まかに把握したい場合は、シミュレーションツールを使うのも一つの方法だ。
ただし、シミュレーション結果はあくまで概算である。地方公務員の場合は、自治体ごとの条例や職員区分の扱い、退職手当組合の規程によって実際の金額が変わることがある。
シミュレーションの目的と活用方法
退職金シミュレーションの目的は、退職後の生活設計に必要な資金感を早めに把握することだ。
退職金額の目安が分かれば、住宅ローンの返済、退職後の生活費、医療費や介護費への備え、資産運用に回せる金額などを検討しやすくなる。
特に退職時期を迷っている人は、定年退職、応募認定退職、自己都合退職で金額がどの程度変わるかを比較しておくとよい。
シミュレーション前に準備する情報
退職金シミュレーションを行う前に、次の情報を準備しておこう。
- 退職理由
- 退職予定日
- 退職日の俸給月額・給料月額
- 勤続期間
- 休職・育児休業・停職など除算対象期間の有無
- 職員区分と在職月数
- 早期退職加算やピーク時特例の対象になるか
俸給月額や職員区分が分からない場合は、給与明細、人事記録、所属先の人事担当部署、退職手当組合などに確認しよう。
シミュレーションツールの使い方
地方公務員の退職金額を大まかに確認したい場合は、地方公務員の退職金計算シミュレーションツールを使う方法がある。
使う際は、以下の流れで入力していく。
地方公務員|退職金計算シミュレーションの手順
シミュレーションツールは便利だが、自治体ごとの独自ルールや特別職の退職金には対応していない場合がある。正式な退職金額は、所属先からの試算や退職手当額の通知で確認しよう。
シミュレーション結果を活用した退職金計画の立て方
おおよその退職金額を確認できたら、退職後の生活を見据えて退職金計画を立てよう。
退職金は、まとまった金額を一度に受け取るため、目的を決めずに使うと想定より早く減ってしまう可能性がある。まずは、使う時期ごとに資金を分けることが大切だ。
| 資金の区分 | 主な使い道 | 考え方 |
|---|---|---|
| 短期資金 | 退職直後の生活費、税金、健康保険料、旅行、家電買い替えなど | 元本割れを避け、普通預金など換金しやすい形で確保する |
| 中期資金 | 住宅修繕、車の買い替え、冠婚葬祭など | 安全性と流動性を重視し、定期預金や個人向け国債などを検討する |
| 長期資金 | 医療費、介護費、住み替え、相続対策など | 使う時期まで余裕がある資金は、リスク許容度に応じて分散運用を検討する |
退職金全額を一つの方法にまとめる必要はない。短期・中期・長期の目的に合わせて分けることで、生活資金を守りながら、余裕資金の活用を検討しやすくなる。
退職金の代表的な活用先を比較してみよう
退職金を受け取った後、「すぐ使わないお金をどうするか」は多くの退職者にとって大きな課題だ。
退職後は収入が年金などに限られることも多いため、退職金を守る視点が欠かせない。一方で、すべてを預貯金に置くと、物価上昇によって実質的な価値が目減りする可能性もある。
代表的な活用先を比較すると、以下のようになる。
| 活用先 | リスク | 流動性 | 向いている資金 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 普通預金・ 定期預金 | 低い | 高い | 短期資金・緊急資金 | 一般預金等は1金融機関ごとに元本1,000万円までと利息等が保護対象。低金利では資産が増えにくい。 |
| 個人向け国債 | 低い | 中程度 | 中期資金 | 発行後1年を経過すれば中途換金できるが、すぐ使う資金には向かない。 |
| NISA・ 投資信託 | 中〜高 | 中程度 | 長期の余裕資金 | 元本保証はない。2024年以降のNISAは非課税保有限度額1,800万円だが、制度よりも自分の資金計画を優先する。 |
| iDeCo | 商品により異なる | 低い | 老後資金 | 原則として途中引き出しが制限される。加入可能年齢や受け取り時の課税を確認する必要がある。 |
| 住宅ローン返済 | 運用リスクなし | 低い | 返済負担を減らしたい資金 | 返済に退職金を使いすぎると手元資金が不足する可能性がある。 |
運用で増やせる可能性がある商品には、元本割れのリスクもある。退職金は老後生活を支える重要な資金なので、当面の生活費や緊急資金を確保したうえで、余裕資金の範囲で活用を検討しよう。
専門家に相談して退職金計画を最適化する

ここまで、公務員の退職金額の計算方法やシミュレーションについて解説してきた。
退職金は老後の生活を送るうえで大切な資金であるため、金額を確認するだけでなく、受け取った後の使い方まで考えておきたい。
ただし、退職金の相談先は内容によって異なる。すべてを一人の専門家に相談するのではなく、悩みに合わせて相談先を分けることが重要だ。
退職金の相談先は内容ごとに使い分ける
相談先の目安は、以下のとおりだ。
| 相談内容 | 主な相談先 | 確認できること |
|---|---|---|
| 退職金の見込み額・支給日 | 所属先の人事担当部署、退職手当組合 | 退職手当額、支給予定日、必要書類 |
| 地方公務員の制度確認 | 自治体の人事担当部署、条例・規則、退職手当組合 | 支給率、調整額、早期退職加算、除算期間 |
| 税金 | 税務署、税理士 | 退職所得控除、確定申告、企業年金一時金との関係 |
| 退職後の生活設計 | FP、J-FLEC認定アドバイザーなど | 家計、年金、生活費、資金計画 |
| 資産運用 | IFA、FP、金融機関 | 資産配分、金融商品、NISA、リスク管理 |
退職金の正確な支給額や支給時期は、所属先に確認するのが基本だ。税金の判断は税務署や税理士、資産運用はIFAやFPなど、相談内容に合った相手を選ぼう。
IFAに相談する場合のメリット
IFAは、独立系ファイナンシャルアドバイザーと呼ばれる資産運用の専門家だ。顧客のライフプランやリスク許容度に合わせて、金融商品の選定、資産配分、運用方針、売買取引の支援などを行う。
退職金の運用についてIFAに相談するメリットは、退職金だけでなく、預貯金、NISA、iDeCo、保険、公的年金、相続予定などを含めて、資産全体のバランスを相談しやすい点にある。
特に退職金は、受け取った直後に焦って金融商品を選ぶ必要はない。まずは生活費や緊急資金を確保し、長期運用に回せる余裕資金を確認することが大切だ。
IFAや金融機関に相談するときの注意点
IFAは金融商品仲介業者として、証券会社などの金融機関から委託を受け、金融商品の提案や取引支援を行う立場でもある。
相談前には、次の点を確認しておこう。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- 提携している証券会社・金融機関はどこか
- 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用はいくらか
- 元本割れ、為替変動、流動性などのリスク説明が十分か
- 特定の商品を勧める理由が明確か
- 運用後のフォロー体制があるか
退職金はまとまった資金であり、老後生活の土台になる。高利回りや安全性を強調する説明だけで判断せず、複数の選択肢を比較し、リスクと費用を理解したうえで決めよう。
まとめ|公務員退職金は所属先の制度確認とシミュレーションが重要

この記事では、公務員の退職金制度、計算方法、シミュレーションの手順、退職金の活用方法について解説した。
公務員の退職金は、国家公務員と地方公務員で根拠となる制度が異なる。国家公務員は国家公務員退職手当法に基づき、地方公務員は各自治体の条例や退職手当組合の規程などに基づいて計算される。
退職金額は、退職日の俸給月額・給料月額、勤続期間、退職理由、調整額、早期退職加算、ピーク時特例などによって変わる。まずは所属先の人事担当部署や退職手当組合に確認し、必要に応じてシミュレーションを活用しよう。
また、退職金は受け取って終わりではない。退職後の生活費、医療費、介護費、住宅修繕費、資産運用などを踏まえて、短期・中期・長期に分けて管理することが大切だ。
退職金の使い方や運用に不安がある場合は、IFA、FP、税理士、J-FLEC認定アドバイザーなど、相談内容に合った専門家を活用しよう。
公務員退職金の計算や運用方針を相談したい場合は、以下のボタンから確認できる。
出典
内閣官房内閣人事局「退職手当の支給状況」
e-Stat「地方公務員給与実態調査」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」(公開日:2025年4月1日)
生活や実務に役立つ高精度計算サイト「地方公務員の退職金の計算」
知るぽると「豊かな老後生活を送るために あなたに合った退職金の運用方法を考える」
金融庁「NISAを知る:NISA特設ウェブサイト」
金融庁「預金保険制度」
財務省「個人向け国債」
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