地方公務員として10年ほど勤務していると、「自己都合で退職したら退職手当はいくらになるのか」「定年まで勤めた場合とどれくらい差があるのか」と気になり始める方もいるでしょう。
地方公務員の退職手当は、自治体の条例や給料表、勤続年数、退職理由によって決まります。民間企業の退職金とは異なり、自治体ごとの規程を確認することが欠かせません。
この記事では、地方公務員の退職手当の仕組み、10年勤続時点の計算例、退職手当を受け取った後の活用方法を解説します。
地方公務員で退職手当の見込額や、退職後の資産形成について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
地方公務員の退職手当の計算方法と確認すべき要素
地方公務員の退職手当は、退職時の給料月額、勤続年数、退職理由、職務の級などをもとに計算されます。
ただし、退職手当の具体的な支給条件や計算方法は、各地方公共団体の条例で定められています。国家公務員の退職手当制度と似た計算構造を採用している自治体も多いものの、実際の金額は勤務先の自治体で確認する必要があります。
地方公務員の退職手当は自治体の条例で決まる
地方公務員の退職手当は、すべての自治体で完全に同じ金額になるわけではありません。職員の退職手当に関する条例、給料表、職務の級、退職理由、勤続期間の扱いなどによって変わります。
例えば、自己都合退職、定年退職、勧奨退職、公務上の傷病による退職など、退職理由が違うと支給率が変わる場合があります。また、懲戒免職等に該当する場合は、退職手当の全部または一部が支給されないこともあります。
退職手当の見込額を知りたい場合は、まず勤務先の自治体で次の情報を確認しましょう。
- 職員の退職手当に関する条例
- 退職日時点の給料月額
- 勤続年数・在職期間の計算方法
- 自己都合退職・定年退職など退職理由別の支給率
- 職務の級や区分に応じた調整月額
- 退職手当の支払時期と必要書類
退職手当の基本的な計算式
地方公務員の退職手当は、多くの自治体で「基本額」と「調整額」を組み合わせて計算されます。
退職手当=基本額+調整額
基本額=退職日給料月額×退職理由別・勤続年数別支給率
調整額=職務の級や区分に応じた調整月額のうち、額が高いものから一定月数分を合計した額
国家公務員の退職手当制度では、基本額は「退職日の俸給月額×退職事由別・勤続年数別支給率×調整率」で計算され、調整額は職員区分ごとの調整月額のうち高いものから60月分を合計する仕組みです。
地方公務員も同じような構造を採用している自治体がありますが、給料月額や調整月額、支給率は自治体ごとに異なる場合があります。必ず勤務先の条例や人事担当の試算で確認しましょう。
計算で特に重要になる要素は以下のとおりです。
| 要素 | 確認する内容 |
|---|---|
| 退職日給料月額 | 退職日時点の給料表上の月額。地域手当や扶養手当を含めるかは自治体の規程による |
| 勤続年数 | 職員として在職した期間。1年未満の端数処理や休職期間の扱いは規程で確認する |
| 退職理由 | 自己都合、定年、勧奨、公務上傷病などにより支給率が変わる場合がある |
| 調整額 | 職務の級や役職に応じて加算される部分。短期勤続や自己都合退職では減額・不支給となる場合がある |
35年勤続・定年退職の計算例
ここでは、国家公務員の計算構造を参考にした簡易例を見てみましょう。実際の地方公務員の金額は、勤務先自治体の給料表・条例で変わります。
事務職、給料月額38万9,200円、勤続年数35年、定年退職、調整月額3万2,500円の場合
基本額=38万9,200円×47.709=約1,857万円
調整額=3万2,500円×60月=約195万円
約1,857万円+約195万円=退職手当は約2,052万円
この例では、勤続35年の定年退職として支給率47.709を使っています。支給率や調整額は制度改正や自治体条例によって変わる可能性があるため、最新の規程を確認してください。
10年勤続時点での退職手当の見込額
次に、10年勤続で自己都合退職した場合の退職手当を考えてみましょう。
国家公務員の支給率早見表では、勤続10年の自己都合退職の支給率は5.022です。また、勤続10年以上24年以下の自己都合退職者は、調整額が半額となる扱いがあります。
給料月額30万600円、勤続10年、自己都合退職、調整月額2万1,700円の場合
基本額=30万600円×5.022=約151万円
調整額=2万1,700円×60月×1/2=約65万円
約151万円+約65万円=退職手当は約216万円
上記はあくまで簡易例です。自治体によって調整額の扱い、給料月額、退職理由別の支給率、在職期間の端数処理が異なる場合があります。
特に10年程度での自己都合退職は、定年退職に比べて支給率が低くなりやすい点に注意が必要です。退職を検討している場合は、退職時期を変えた場合の見込額も人事担当に確認するとよいでしょう。
平均退職手当額は「10年勤続者だけの平均」ではない
総務省の地方公務員給与実態調査では、団体区分、職員区分、退職事由、年齢別の退職者数や退職手当額を確認できます。
例えば、令和6年地方公務員給与実態調査では、30歳以上35歳未満の退職者の平均退職手当額は、全職員で約96万円、一般職員で約89万円、教育公務員で約91万円です。
一方、25年以上勤務後の定年退職では、全職員で約2,263万円、一般職員で約2,227万円、教育公務員で約2,274万円となっています。
ただし、年齢別の平均には、中途採用者や短期勤続者、さまざまな退職理由の人が含まれます。新卒から10年間勤続した人だけの平均額ではないため、自分の退職手当を知るには自治体の規程に沿った試算が必要です。
職種・役職・地域による違い
地方公務員の退職手当は、職種や役職、自治体の給料表によって変わります。
一般行政職、教育職、警察職、消防職、技能労務職などでは、給料表や昇任の仕組みが異なります。さらに、同じ自治体内でも職務の級や号給、管理職経験の有無によって、退職日給料月額や調整額が変わることがあります。
退職手当の見込額を確認する際は、次の点を整理しておきましょう。
| 確認項目 | 退職手当に与える影響 |
|---|---|
| 職種 | 適用される給料表が異なり、給料月額に差が出る場合がある |
| 職務の級・号給 | 退職日給料月額や調整月額の基礎になる |
| 役職・管理職経験 | 調整額や退職時の給料月額に影響する場合がある |
| 退職理由 | 自己都合、定年、勧奨などで支給率が変わる場合がある |
| 自治体条例 | 支給条件、端数処理、支払時期、支給制限が自治体ごとに異なる |
退職手当だけで不足しそうな場合の備え
10年程度で退職する場合や、定年後の生活費に不安がある場合は、退職手当だけに頼らず、早めに資産形成を検討することが大切です。
公務員が利用しやすい制度の一つがiDeCoです。iDeCoは、掛金を自分で拠出し、投資信託や定期預金などで運用しながら老後資金を準備する制度です。掛金は全額所得控除の対象となり、運用益も非課税で再投資できます。
公務員のiDeCo拠出限度額は、2024年12月以降、月額1万2,000円から月額2万円に引き上げられています。また、厚生労働省は2026年12月にiDeCoの拠出限度額や加入可能年齢を引き上げる制度改正を案内しています。制度は変わることがあるため、加入前に最新情報を確認しましょう。
ただし、iDeCoは原則として60歳まで引き出せません。また、選ぶ商品によっては元本割れのリスクもあります。短期的に使う予定がある資金ではなく、老後資金として長期で積み立てるお金に向いています。
NISAも資産形成の選択肢です。NISAは運用益が非課税になる制度で、非課税保有限度額はつみたて投資枠と成長投資枠の合計で1,800万円です。ただし、投資である以上、価格変動リスクがあります。
退職手当を増やすこと自体は勤務期間や退職理由、昇任状況に左右されます。一方で、iDeCoやNISAを活用すれば、退職手当とは別に老後資金を準備できます。生活費や緊急資金を確保したうえで、無理のない範囲で検討しましょう。
地方公務員が退職手当を受け取った後の活用法
退職手当は、受け取った後の使い方によって老後の安心感が大きく変わります。
まとまった金額を受け取ると、住宅ローン返済、投資、教育費、起業資金などに使いたくなるかもしれません。しかし、退職手当は老後生活を支える重要な資金でもあります。
まずは、次のように目的別に分けて考えましょう。
| 分類 | 主な使い道 | 考え方 |
|---|---|---|
| 生活資金 | 退職後の生活費、税金、社会保険料 | すぐ使える預金で確保する |
| 予備資金 | 医療費、介護費、住宅修繕、家電買い替え | 急な支出に備えて投資に回しすぎない |
| 目的資金 | 教育費、住宅資金、ローン返済、家族支援 | 使う時期が近いお金はリスクを抑える |
| 運用資金 | NISA、投資信託、債券など | 余裕資金で分散・長期の運用を検討する |
老後資金としての活用
退職手当の基本的な使い道は、老後資金です。退職後は給与収入が減る、またはなくなるため、公的年金や再雇用収入だけで生活費をまかなえるかを確認する必要があります。
公的年金の見込額は、加入期間や報酬額によって変わります。ねんきん定期便やねんきんネットで見込額を確認し、毎月の生活費との差額を計算しておきましょう。
退職手当を老後資金として活用する場合は、毎月いくら取り崩すのか、何年分の生活費を確保できるのかをシミュレーションすることが大切です。
投資や起業への活用
退職手当の一部を投資信託や債券などで運用すれば、資産寿命を延ばせる可能性があります。
例えば、退職手当1,000万円を毎月8万円ずつ取り崩すと、運用しない場合は125か月で資金がなくなります。年1.0%で運用しながら取り崩すと約132か月、年3.0%で運用しながら取り崩すと約150か月まで延びる計算です。
ただし、これは税金、手数料、価格変動を考慮しない単純計算です。実際の運用では元本割れのリスクもあり、必ず予定どおりに増えるわけではありません。
また、退職を機に起業を考える方もいるでしょう。起業資金として退職手当を使う場合は、生活資金と事業資金を分けることが重要です。
事業が軌道に乗るまでには時間がかかることがあります。日本政策金融公庫の創業融資や自治体の創業支援制度なども確認し、退職手当を全額投じないよう慎重に計画しましょう。
教育資金や住宅資金としての活用
退職手当を教育資金や住宅資金に充てる方法もあります。
教育費では、奨学金、教育ローン、給付型支援制度などを利用できる場合があります。退職手当だけで支払うのではなく、利用できる制度を確認したうえで、無理のない負担にすることが大切です。
住宅資金では、住宅ローンの繰上返済やリフォーム費用への活用が考えられます。ローン残高を減らせば利息負担を軽くできる一方、手元資金が減りすぎると、医療費や介護費などの急な支出に対応しにくくなります。
退職手当を教育資金や住宅資金に使う場合も、老後生活費、予備資金、税金、社会保険料を先に確認しておきましょう。
受け取り前に税金も確認する
退職手当を一時金で受け取る場合、原則として退職所得として扱われます。退職所得は、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引いたうえで、原則として2分の1を課税対象とする仕組みです。
退職所得=(退職手当の収入金額-退職所得控除額)×1/2
ただし、短期退職手当等に該当する場合や、同じ年に複数の退職金を受け取る場合などは、計算が異なることがあります。
退職手当を受け取る前には、「退職所得の受給に関する申告書」を提出するのが一般的です。税金の扱いに不安がある場合は、税務署や税理士に確認しましょう。
IFAと共に退職手当の活用を計画する
退職手当をどのように活用するか迷う場合は、専門家に相談する選択肢があります。
ただし、相談内容によって適切な相談先は異なります。退職手当の見込額は勤務先の人事担当、税金は税務署や税理士、資産運用はIFAやファイナンシャルプランナーなど、目的に応じて相談先を使い分けましょう。
IFAとは?
IFAとは、一般に独立系ファイナンシャルアドバイザーを指す言葉です。金融商品仲介業者として活動するIFAは、証券会社などの金融商品取引業者や登録金融機関の委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行います。
そのため、IFAは完全にどの金融機関とも関係がない立場ではありません。相談する際は、どの金融機関と提携しているのか、どのような商品を取り扱えるのか、手数料がどのように発生するのかを確認しましょう。
IFAに相談できること
退職手当の活用についてIFAに相談する場合、主に次のような内容が考えられます。
- 退職手当のうち運用に回せる金額の整理
- 老後生活費を踏まえた資産配分の相談
- NISAやiDeCoの活用方法
- 預金・債券・投資信託などの組み合わせ
- 運用開始後の定期的な見直し
退職手当は老後資金の大切な柱です。全額を投資に回すのではなく、生活費、予備資金、目的資金、運用資金に分けて考えることが重要です。
IFAに相談する場合も、提案された商品をそのまま契約するのではなく、リスク、手数料、途中解約時の条件、運用後のフォロー内容を確認しましょう。
退職金ナビを活用して専門家に相談
「退職金ナビ」は、退職手当や退職金の活用方法について相談できるIFAを探せるサービスです。
自身の年齢や住所、相談したい内容などを入力すると、希望に合うIFAを確認できます。希望するIFAが見つかった場合は、インターネット上で面談を申し込むことも可能です。
相談前には、金融商品仲介業者として登録されているか、提携金融機関、相談料、販売手数料、取扱商品の範囲を確認しておきましょう。
まとめ
この記事では、地方公務員の退職手当の計算方法、10年勤続時点の見込額、退職手当の活用法について解説しました。
地方公務員の退職手当は、自治体の条例や給料表、勤続年数、退職理由、職務の級などによって決まります。国家公務員の退職手当制度と似た構造を採用している自治体もありますが、実際の金額は勤務先の規程で確認する必要があります。
10年勤続で自己都合退職する場合、定年退職に比べて支給率が低くなりやすく、調整額も減額される場合があります。退職を検討している方は、早めに人事担当へ退職手当の試算を依頼しましょう。
退職手当を受け取った後は、生活費、予備資金、教育資金・住宅資金、運用資金に分けて考えることが大切です。iDeCoやNISAを活用する場合も、引き出し制限や価格変動リスクを理解したうえで判断しましょう。
退職手当の金額は勤務先、税金は税務署や税理士、資産運用はIFAやファイナンシャルプランナーなど、相談内容に応じて相談先を使い分けることが重要です。
「退職金ナビ」を通じてIFAに相談し、退職手当をどのように守り、使い、運用するかを整理してみましょう。
出典
東京都例規集「職員の退職手当に関する条例」
宮城県「退職手当の計算」(更新日:2024年8月29日)
人事院「参考資料」
内閣官房内閣人事局「国家公務員退職手当支給率早見表」
人事院「国家公務員の退職手当制度の概要」
e-Stat「地方公務員給与実態調査」
e-Stat「令和6年地方公務員給与実態調査 第9表 1 団体区分別,職員区分別,退職事由別,年齢別退職者数及び退職手当額」(公開日:2025年9月18日)
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(更新日:2025年4月1日)
厚生労働省「2020年の制度改正に関するチラシ」
厚生労働省「iDeCoの拠出限度額が1.2万円→2万円になります! 国家公務員・地方公務員の皆さまへ」
厚生労働省「私的年金制度、iDeCoの改正のポイント」
金融庁「NISAを利用する皆さまへ」
日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
日本証券業協会「金融商品仲介業者」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

