老後資金や退職後の生活費を考えると、「退職金だけで足りるのか」「勤務先の財形貯蓄制度を使った方がよいのか」と迷う方もいるでしょう。
まず押さえたい結論は、退職金と財形貯蓄制度は「お金の出どころ」と「使えるタイミング」が違う制度だということです。
財形貯蓄制度は、自分の給与や賞与から一定額を天引きして積み立てる制度です。先取り貯蓄の仕組みを作りたい人や、住宅資金・老後資金など目的を決めて貯めたい人に向いています。
一方、退職金は勤務先の退職金規程などに基づいて、退職時に支給される給付です。制度の有無、支給条件、金額の計算方法は会社によって異なるため、「将来もらえる前提」で考えすぎないことが大切です。
この記事では、財形貯蓄制度と退職金の違い、財形貯蓄制度のメリット・デメリット、活用する際の注意点を整理します。勤務先の制度をどう確認すればよいかも解説するので、今後の資金計画を考える際の参考にしてください。
財形貯蓄制度とは|給与天引きで3種類に分かれる貯蓄制度
財形貯蓄制度は、正式には「勤労者財産形成貯蓄制度」と呼ばれる、勤労者の財産形成を支援するための制度です。
勤務先が財形貯蓄制度を導入している場合、従業員は毎月の給与や賞与から一定額を天引きし、財形貯蓄取扱金融機関に積み立てられます。積み立てたお金は、勤務先を通じて契約した金融機関で管理されます。
利用できるのは、原則として事業主に雇用される勤労者です。雇用形態そのものに限定はありませんが、勤務先に制度がなければ利用できません。自営業者・フリーランス・一部の法人役員などは、原則として対象外です。
また、財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄は、新規加入時に55歳未満であることなどの条件があります。勤務先に制度があるか、どの商品を扱っているかは、人事・福利厚生担当に確認しましょう。
財形貯蓄制度の3種類を比較
財形貯蓄制度は、目的に応じて「一般財形貯蓄」「財形住宅貯蓄」「財形年金貯蓄」の3種類に分かれます。
| 種類 | 主な目的 | 税制・使い方のポイント |
|---|---|---|
| 一般財形貯蓄 | 結婚 旅行 車 教育費 急な出費など | 使い道は自由。 利子等に非課税措置はなく、通常の預貯金などと同様に課税される |
| 財形住宅貯蓄 | 住宅の建設 購入 一定のリフォーム | 財形年金貯蓄と合算して、原則550万円までの利子等が非課税。 目的外払い出しは課税対象になる場合がある |
| 財形年金貯蓄 | 60歳以降に年金として受け取る老後資金 | 財形住宅貯蓄と合算して、原則550万円までの利子等が非課税。 保険等の商品は払込額385万円までが非課税枠となる場合がある |
一般財形貯蓄
一般財形貯蓄は、使い道が限定されない財形貯蓄です。結婚、旅行、車の購入、教育費、引っ越し、けがや病気による急な出費など、幅広い目的に使えます。
原則として3年以上の期間で定期的に積み立てる契約ですが、貯蓄開始から1年経過した後は自由に払い出せます。
ただし、一般財形貯蓄には利子等の非課税措置はありません。利子所得は、原則として国税15.315%と地方税5%を合わせた20.315%が課税されます。
財形住宅貯蓄
財形住宅貯蓄は、住宅の建設・購入・一定のリフォーム資金を準備するための財形貯蓄です。新築・中古、一戸建て・マンションのいずれも対象になり得ますが、住宅の床面積やリフォーム費用など、払い出しには要件があります。
積立期間は原則5年以上です。財形年金貯蓄と合算して、原則として550万円までの元本から生じる利子等が非課税になります。
住宅資金以外の目的で払い出すと、非課税の要件を満たさず、過去5年分の利子等に課税される場合があります。住宅購入の予定がまだ曖昧な場合は、一般財形貯蓄との使い分けも検討しましょう。
財形年金貯蓄
財形年金貯蓄は、老後資金を準備するための財形貯蓄です。満60歳以降に、契約で定めた年金として受け取ることを目的としています。
積立期間は5年以上で、受取期間は満60歳以降に5年以上20年以内が基本です。保険商品の場合は、終身で受け取れるものもあります。
財形住宅貯蓄と合算して、原則として550万円までの利子等が非課税です。ただし、生命保険・生命共済・損害保険などを利用した財形年金貯蓄では、払込額385万円までが非課税枠となる場合があります。
財形貯蓄制度のメリット
財形貯蓄制度のメリットは、単に「利息が得られること」だけではありません。むしろ、給与天引きによって貯蓄を習慣化しやすい点や、住宅資金・老後資金の目的に合わせて制度を使える点が大きな特徴です。
給与天引きで先取り貯蓄しやすい
財形貯蓄は、毎月の給与や賞与から一定額が自動で天引きされます。手取りとして受け取る前に積み立てられるため、残ったお金を貯めるよりも貯蓄を継続しやすい仕組みです。
「貯金したいと思っても、口座にお金があると使ってしまう」という人にとっては、先取り貯蓄の仕組みを作れる点がメリットになります。
財形住宅・財形年金は利子等の非課税枠がある
財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄は、双方を合算して原則550万円までの利子等が非課税になります。一般財形貯蓄には、この非課税措置はありません。
ただし、非課税枠のメリットは、金利や商品内容によって感じ方が変わります。利率が低い商品では節税効果も大きくなりにくいため、「非課税だから必ず得」と考えるのではなく、目的・引き出しやすさ・勤務先の取扱商品を合わせて判断しましょう。
条件を満たすと財形持家融資を検討できる
財形貯蓄をしている人は、条件を満たすことで財形持家融資を検討できます。財形持家転貸融資では、財形貯蓄残高の10倍以内、最高4,000万円まで、住宅の建設・購入・リフォーム費用の原則90%以内で融資を受けられる仕組みがあります。
ただし、財形貯蓄を1年以上利用していること、残高が50万円以上あること、勤務先が転貸融資制度を利用できることなど、複数の条件があります。住宅購入を考えている場合は、勤務先の制度と金融機関の条件を早めに確認しましょう。
財形貯蓄制度のデメリット
財形貯蓄制度は便利な仕組みですが、誰でも自由に使える制度ではありません。特に、利用条件・払い出し制限・商品内容の確認が重要です。
勤務先に制度がなければ利用できない
財形貯蓄制度は、勤務先が制度を導入していることが前提です。会社が財形貯蓄取扱金融機関と契約していなければ、従業員が個人で申し込むことはできません。
また、利用できる金融商品は勤務先が契約している範囲に限られます。自分で好きな金融機関や商品を自由に選べる制度ではない点に注意が必要です。
引き出しや目的外払い出しに制限がある
一般財形貯蓄は、貯蓄開始から1年経過後であれば自由に払い出せます。一方、財形住宅貯蓄や財形年金貯蓄は、目的に沿った払い出しでなければ非課税措置を受けられません。
住宅資金や年金以外の目的で払い出すと、過去5年分の利子等に課税される場合があります。急な出費に備えるお金は、普通預金など引き出しやすい口座にも別途確保しておきましょう。
高い利回りを狙う制度ではない
財形貯蓄は、給与天引きによって計画的に資金を準備する制度です。高いリターンを狙う投資商品とは性質が異なります。
また、財形貯蓄で扱われる商品には預貯金だけでなく、保険や有価証券などもあります。商品によっては中途解約時の取り扱いや元本割れのリスクが異なるため、契約前に商品内容・手数料・解約時の扱いを確認しましょう。
退職金と財形貯蓄制度の違い|誰が負担し、いつ使えるかが異なる
退職金と財形貯蓄制度は、どちらも将来のお金に関わる制度ですが、仕組みは大きく異なります。
| 項目 | 財形貯蓄制度 | 退職金 |
|---|---|---|
| お金の出どころ | 自分の給与・賞与から天引き | 勤務先の制度に基づいて支給 |
| 利用できる条件 | 勤務先に財形制度があり、対象者の条件を満たすこと | 勤務先に退職金制度があり、支給条件を満たすこと |
| 使えるタイミング | 種類や目的により異なる。 一般財形は比較的自由に払い出し可能 | 原則として退職時。支給時期や方法は会社規程による |
| 主な目的 | 生活資金、住宅資金、老後資金などを計画的に積み立てる | 退職後の生活資金、長年勤務した従業員への給付 |
| 確認すべきこと | 制度の有無、取扱商品、積立額、払い出し条件 | 退職金規程、支給対象、計算方法、支給時期 |
退職金の概要
退職金とは、会社の退職金規程などに基づいて、退職した従業員に支給される給付です。退職一時金としてまとめて受け取る場合もあれば、企業年金として受け取る場合もあります。
退職金制度は、法律上すべての会社に設置が義務付けられているわけではありません。ただし、会社が退職金制度を設ける場合は、支給対象、支給要件、計算方法、支払方法、支払時期などを就業規則に記載する必要があります。
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は74.9%でした。つまり、退職金は多くの会社で導入されている一方、すべての会社で必ずもらえる制度ではありません。
支給額は、勤続年数、退職理由、役職、給与水準、会社の退職金規程などによって変わります。定年退職、自己都合退職、会社都合退職で支給額が変わることもあるため、自社の規程を確認することが重要です。
財形貯蓄制度と退職金の条件の違い
財形貯蓄制度は、自分の給与から積み立てる制度です。積立額を自分で決められるため、毎月の家計に合わせて調整しやすい一方、積み立てる原資は自分の収入です。
退職金は、勤務先の制度に基づいて退職時に支給されるお金です。自分で毎月積み立てるものではなく、会社の規程に従って支給の有無や金額が決まります。
そのため、財形貯蓄制度は「働いている間に自分で準備するお金」、退職金は「退職時に会社制度から受け取る可能性があるお金」と考えると分かりやすいでしょう。
それぞれの目的と活用方法
財形貯蓄制度は、目的に応じて使い分けることが大切です。短期から中期の資金なら一般財形貯蓄、住宅購入やリフォームを予定しているなら財形住宅貯蓄、老後資金を上乗せしたいなら財形年金貯蓄が候補になります。
退職金は、受け取る時期や金額が会社の規程に左右されます。将来の資金計画を立てる際は、「退職金があるか」「何年勤めると対象になるか」「自己都合退職と定年退職で金額がどう変わるか」を確認しておきましょう。
退職金を受け取った後は、すぐにすべてを運用に回すのではなく、生活費、税金、住宅ローン、医療費、家族への支援、当面の現金余力などを整理した上で配分を決めることが大切です。
財形貯蓄制度を活用する際の注意点
財形貯蓄制度を活用する際は、積立額・税制・退職後の取り扱いを確認しておきましょう。制度の名前だけで判断すると、思ったより使いにくいと感じる場合があります。
無理のない積立額と目的に合う商品を選ぶ
財形貯蓄は給与天引きで貯めやすい一方、積立額を高くしすぎると毎月の生活費が苦しくなります。まずは家計の固定費、生活防衛資金、近い将来の支出を確認した上で、無理のない金額を設定しましょう。
また、財形貯蓄で利用できる商品は勤務先によって異なります。預貯金、保険、有価証券など、商品ごとに利率、手数料、解約時の扱い、元本割れの可能性が異なるため、制度名だけでなく商品内容まで確認することが大切です。
税制上の注意点|非課税枠だけで判断しない
財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄には、原則として合算550万円までの利子等非課税枠があります。一般財形貯蓄には利子等の非課税措置はありません。
ただし、非課税枠は「利子等」に対するメリットです。金利が低い商品では、非課税による実際の効果も小さくなります。節税効果だけでなく、貯めやすさ、資金の使い道、引き出し制限、住宅融資との相性を合わせて判断しましょう。
特に財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄は、目的外の払い出しをすると、非課税措置がなくなり過去5年分の利子等に課税される場合があります。使う目的がはっきりしていないお金まで、目的制限のある財形に入れすぎないようにしましょう。
退職・転職後の財形貯蓄制度の取り扱い
退職後に財形貯蓄を継続したい場合は、退職から2年以内に財形制度を導入している勤務先へ転職し、所定の手続きを行う必要があります。
転職先に財形貯蓄制度がない場合、財形貯蓄をそのまま継続することはできません。また、退職後は一定期間内に勤務先や金融機関を通じた手続きが必要になるため、退職予定がある場合は早めに確認しておきましょう。
財形住宅貯蓄や財形年金貯蓄で非課税措置を受けている場合、手続きの遅れや目的外払い出しによって課税扱いになる可能性があります。退職・転職のタイミングでは、人事担当と財形貯蓄取扱金融機関の両方に確認するのが安心です。
財形貯蓄制度や退職金の相談はどこにすれば良いか
財形貯蓄制度と退職金は、どちらも勤務先の制度に大きく左右されます。そのため、まず確認すべき相談先は、勤務先の人事・総務・福利厚生担当です。
その上で、受け取った退職金の運用や、財形貯蓄以外の資産形成を検討したい場合は、金融の専門家に相談する選択肢があります。相談先によって得意分野や報酬体系が異なるため、目的に合う相手を選びましょう。
まず勤務先に確認したいこと
財形貯蓄制度を使うか判断する前に、勤務先で次の点を確認しておくとスムーズです。
- 財形貯蓄制度を導入しているか
- 一般財形・財形住宅・財形年金のどれを利用できるか
- 取扱金融機関や商品内容
- 積立額の変更、払い出し、解約の手続き
- 退職・転職時の手続き
- 退職金制度の有無、支給対象、計算方法、支給時期
特に退職金は、勤続年数や退職理由で金額が変わることがあります。自分の退職金の見込み額を知りたい場合は、退職金規程や社内の試算方法を確認しましょう。
IFAに相談する場合の役割とメリット
退職金を受け取った後の資産運用や、財形貯蓄以外の運用方法を検討する場合、IFAに相談する選択肢があります。
IFAは、一般に独立系ファイナンシャル・アドバイザーを指す言葉として使われます。金融商品仲介業者として活動するIFAは、証券会社などの金融商品取引業者や登録金融機関の委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行います。
実際の口座管理や有価証券の売買は、委託元の証券会社などで行われます。IFAは、相談者の資産状況や目的を踏まえて、金融商品の選択や運用方針について助言する立場です。
退職金のようにまとまった資金を受け取る場面では、「どのくらい現金で残すか」「どのくらい運用に回すか」「リスクをどの範囲まで取れるか」を整理する必要があります。こうした論点を一緒に確認できる点は、専門家に相談するメリットです。
IFAを利用する際の注意点
IFAに相談する際は、「中立だから必ず安心」「相談料が必ず無料」と決めつけないことが大切です。取扱商品、提携している証券会社、報酬体系、相談料の有無はIFAによって異なります。
相談前には、金融商品仲介業者として登録されているか、どの金融機関と提携しているか、相談料や販売時手数料がどのように発生するかを確認しましょう。
また、退職金や財形貯蓄制度の相談では、金融商品だけでなく、生活費、住宅ローン、税金、相続、家族構成なども関わります。必要に応じて、勤務先、人事担当、税理士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナーなど、相談内容に合う専門家を使い分けることも重要です。
まとめ
財形貯蓄制度と退職金は、どちらも将来のお金に関わる制度ですが、役割は異なります。
財形貯蓄制度は、自分の給与や賞与から天引きして計画的に貯める制度です。一般財形貯蓄は使い道が自由で、財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄は目的に合えば利子等の非課税枠を活用できます。
退職金は、勤務先の退職金規程などに基づいて退職時に支給される給付です。制度の有無や支給額は会社によって異なるため、将来の資金計画を立てる前に、自社の規程を確認しておきましょう。
財形貯蓄制度を活用する際は、目的に合う種類を選び、急な出費に備える現金も別に確保することが大切です。退職金については、受け取り予定額だけでなく、支給時期、税金、退職後の生活費まで含めて考える必要があります。
まずは勤務先の制度を確認し、資産運用や退職後の資金計画に不安がある場合は、IFAやファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談する選択肢も検討しましょう。
出典
厚生労働省「財形貯蓄制度」
勤労者退職金共済機構 勤労者財産形成事業本部「財形貯蓄制度」
勤労者退職金共済機構 勤労者財産形成事業本部「財形持家転貸融資制度」
国税庁「No.1310 利息を受け取ったとき(利子所得)」
国税庁「No.1316 財形住宅貯蓄」
国税庁「No.1319 財形年金貯蓄」
厚生労働省「モデル就業規則 第8章 退職金」
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」(公開日:2023年10月31日)
日本証券業協会「金融商品仲介業者」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

