警察官として長く勤務している方のなかには、「退職金はいくらくらい受け取れるのか」「退職後の生活は退職手当だけで足りるのか」と不安に感じている方もいるだろう。
警察官の多くは都道府県警察に勤務する地方公務員であり、退職手当は勤務先の都道府県や退職手当組合の条例・規程に基づいて支給される。
ただし、警察官の身分や給与制度は一律ではない。都道府県警察の警視正以上の警察官や警察庁に勤務する職員など、国家公務員に該当するケースもある。そのため、自分の退職金を正確に知るには、所属先の人事・給与担当へ確認することが重要だ。
この記事では、警察官の退職金の仕組み、計算方法、平均額の見方、退職金にかかる税金、退職後の生活設計と相談先について解説する。
退職手当を受け取った後の資金計画に不安がある方は、ぜひ参考にしてほしい。
警察官の退職金の仕組み|地方公務員は自治体の条例で決まる
警察官の退職金は、一般的に「退職手当」と呼ばれる。
多くの警察官は都道府県警察に所属しているため、退職手当の具体的な計算方法や支給時期は、勤務先の都道府県の条例や退職手当組合の規程で確認する必要がある。
一方で、国家公務員としての警察官や警察庁職員の場合は、国家公務員退職手当法に基づく制度が適用される。まずは自分がどの制度の対象かを確認しよう。
警察官の退職手当の基本計算式
国家公務員の退職手当制度を参考にすると、退職手当は以下のような構造で計算される。
退職手当の基本的な計算式
退職手当=基本額+調整額
基本額=退職日の給料月額×退職理由別・勤続期間別支給割合
調整額=在職中の職責などに応じた調整月額のうち、金額が高いものから原則60か月分を合計した額
ここでいう「退職日の給料月額」は、給与明細の総支給額とは異なる場合がある。地域手当、扶養手当、時間外勤務手当、期末・勤勉手当などがそのまま含まれるとは限らないため、所属先の給与条例や退職手当条例で確認しよう。
また、都道府県警察の給与表は自治体ごとに定められている。国家公務員の公安職俸給表(一)は警察庁の警察官等に適用されるが、都道府県警察の警察官は所属自治体の給料表を確認する必要がある。
勤続年数と退職理由による支給割合の違い
退職手当の基本額は、勤続期間と退職理由によって変わる。
国家公務員退職手当支給率早見表を参考にすると、平成30年1月1日以降の退職について、支給割合の例は以下のとおりだ。
| 勤続年数 | 自己都合退職 | 定年・応募認定・公務外傷病等 | 整理・死亡・公務上傷病等 |
|---|---|---|---|
| 20年 | 19.6695 | 24.586875 | 26.3655 |
| 25年 | 28.0395 | 33.27075 | 33.27075 |
| 30年 | 34.7355 | 40.80375 | 40.80375 |
| 35年 | 39.7575 | 47.709 | 47.709 |
| 45年 | 47.709 | 47.709 | 47.709 |
地方公務員である警察官も、国の制度に準じた支給割合を採用している自治体が多い。ただし、実際の支給割合は自治体の条例や退職手当組合の規程で確認しよう。
同じ勤続35年でも、自己都合退職では39.7575、定年退職等では47.709と支給割合が異なる。退職理由によって金額が大きく変わるため、退職時期や退職理由の扱いを事前に確認することが大切だ。
警察官の退職手当を試算する例
ここでは、計算方法を理解するために仮の条件で試算する。
条件
退職日の給料月額:40万円
勤続年数:35年
退職理由:定年退職等
支給割合:47.709
調整月額:43,350円
調整額対象月数:60か月
基本額
40万円×47.709=1,908万3,600円
調整額
43,350円×60か月=260万1,000円
退職手当の概算
1,908万3,600円+260万1,000円=2,168万4,600円
この試算は、国家公務員制度に準じた考え方を用いた仮の例である。実際の警察官の退職手当は、所属自治体の給料表、階級、号給、退職理由、調整額区分、休職期間、定年引き上げに伴う特例などによって変わる。
正確な金額を知りたい場合は、警察本部や所属自治体の人事・給与担当に試算を依頼しよう。
警察官の平均退職手当額
退職手当の目安を知りたい場合は、総務省の地方公務員給与実態調査を参考にできる。
令和6年地方公務員給与実態調査では、令和5年度中に退職手当を支給された者について、団体区分別・職員区分別・退職事由別・年齢別の退職手当額が公表されている。
同調査では、全地方公共団体の警察官の1人あたり平均支給額は1,388万6,000円とされている。ただし、これは全退職者・全退職事由を含む平均であり、定年退職した警察官だけの平均ではない。
そのため、平均額はあくまで参考情報として見よう。自分の退職手当を確認するには、退職日の給料月額、勤続期間、退職理由、調整額区分をもとに試算する必要がある。
退職金の支給時期
警察官の退職手当の支給時期は、所属する警察本部や自治体、退職手当組合の手続きによって異なる。
退職後すぐに振り込まれるとは限らず、退職手当の計算、支給決定、退職所得の税務処理、振込手続きなどに時間がかかる場合がある。
退職前には、以下の項目を人事・給与担当へ確認しておこう。
- 退職手当の支給予定日
- 退職手当の試算書を受け取れるか
- 退職所得の受給に関する申告書の提出期限
- 振込先口座の登録方法
- 退職手当組合を通じて支給される場合の手続き
退職手当を生活費や住宅ローン返済に充てる予定がある場合は、支給時期が遅れても困らないよう、退職前から数か月分の生活費を別に確保しておくと安心だ。
退職金額への影響要因
警察官の退職手当は、単に勤続年数だけで決まるわけではない。
退職日の給料月額、階級・号給、退職理由、調整額区分、休職期間、定年引き上げに伴う制度変更なども金額に影響する。
昇進・階級・号給が与える影響
警察官の給料月額は、職務の級や号給、階級などに応じて決まる。
退職手当の基本額は退職日の給料月額をもとに計算されるため、昇任や昇給によって給料月額が上がれば、退職手当も増える可能性がある。
また、退職手当の調整額は、在職中の職責や級などに応じた調整月額のうち、金額が高いものから60か月分を合計する仕組みだ。退職前の5年間にどの階級・役職にいたかが、調整額に影響する場合がある。
自分の階級や号給が退職手当にどのように反映されるかは、所属自治体の給与条例や退職手当条例で確認しよう。
退職理由による違い
退職理由も退職手当の金額に影響する。
同じ勤続35年でも、自己都合退職の支給割合は39.7575、定年退職等では47.709と差がある。退職理由が変わると、給料月額が同じでも退職手当額が大きく変わることがある。
また、定年前早期退職の募集に応募して認定を受けた場合、条件を満たすと給料月額に割増率が適用される制度がある。対象年齢や割増率、退職理由の扱いは制度変更の影響を受けるため、人事担当へ確認しよう。
休職期間や定年引き上げの影響
退職手当の勤続期間は、採用日から退職日までの期間がそのまま反映されるとは限らない。
私傷病による休職、懲戒処分としての停職、育児休業、自己啓発等休業、配偶者同行休業などがある場合、その期間の全部または一部が勤続期間から除算されることがある。
また、令和5年4月1日以降の定年引き上げに伴い、60歳以降の給料月額が変わる場合や役職定年による降任がある場合でも、退職手当でピーク時特例が適用される場合がある。
休職・育休・役職定年・60歳以降の勤務がある人は、退職手当の計算にどう反映されるかを事前に確認しておこう。
知っておくべき税金の基本
退職手当には所得税・復興特別所得税・住民税がかかる場合がある。ただし、退職所得控除という大きな控除が用意されている。
退職所得控除の計算式
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
退職所得の金額は、原則として以下の式で計算する。
退職所得の金額=(退職手当の収入金額-退職所得控除額)×1/2
勤続年数35年、退職金2,300万円の場合
退職所得控除額
800万円+70万円×(35年-20年)=1,850万円
退職所得の金額
(2,300万円-1,850万円)×1/2=225万円
所得税・復興特別所得税の目安
所得税:225万円×10%-9万7,500円=12万7,500円
復興特別所得税:12万7,500円×2.1%=2,677円
合計:約13万177円
住民税の目安
225万円×10%=22万5,000円
退職所得の受給に関する申告書を提出している場合、退職手当の支払者が所得税・復興特別所得税を計算して源泉徴収するため、原則として確定申告は不要とされる。
一方、この申告書を提出していない場合は、退職手当の支払金額に対して20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収され、確定申告で精算する必要がある。
なお、前年以前に退職金を受け取っている場合、同じ年に複数の退職金を受け取る場合、iDeCoの一時金を受け取る場合などは計算が異なることがある。税額が大きい場合は税務署や税理士に確認しよう。
退職金に関する注意点と対策
退職後の生活が退職手当だけで十分かどうかは、退職手当の金額だけでなく、退職後の生活費や公的年金、住宅ローン、医療費、介護費などによって変わる。
退職手当を受け取る前から、生活設計と運用方針を整理しておこう。
退職金受給後の生活設計
退職手当は老後資金の大きな柱になるが、すべてを生活費として無計画に取り崩すと、資金が早く減ってしまう可能性がある。
退職後の生活設計では、以下の項目を確認しよう。
- 公的年金の見込み額
- 退職後の毎月の生活費
- 住宅ローンや借入金の残高
- 医療費・介護費・住宅修繕費などの予備資金
- 配偶者や家族の収入・支出
- 相続や贈与の予定
退職手当は、生活費、予備資金、近いうちに使う資金、長期運用に回せる資金に分けて考えると管理しやすい。
適切な運用方法
理想とするセカンドライフに対して資金が不足する場合、退職手当の一部を活用した資産運用を検討する選択肢がある。
ただし、退職手当は老後生活を支える重要な資金であるため、全額を投資へ回すのは避けたい。まずは生活費や予備資金を預金などで確保し、余裕資金の範囲で運用を検討しよう。
退職金運用で検討しやすい選択肢には、以下のようなものがある。
| 運用方法 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 預金 | 安全性と流動性が高い | 大きく増やす効果は期待しにくい |
| 個人向け国債 | 比較的安全性を重視した運用に向く | 中途換金時の条件を確認する |
| NISA | 投資信託や株式の運用益が非課税 | 元本保証ではない |
| 投資信託 | 分散投資しやすい | 信託報酬などのコストがかかる |
| 保険 | 保障と資産準備を組み合わせられる場合がある | 途中解約時の返戻率や手数料を確認する |
どの方法が適切かは、年齢、退職後の収入、リスク許容度、家族構成、必要な生活費によって異なる。
リスク管理と保険
退職後は、病気やけが、介護、住宅修繕、災害などによる急な支出が発生する可能性がある。
資産運用は資産を増やすためだけではなく、万一の支出で資産を大きく減らさないように備えることも重要だ。
医療保険、介護保険、火災保険、地震保険などの保障内容も確認し、退職後に不要な保険料を払い続けていないか、反対に保障が不足していないかを見直そう。
金融商品や保険をまとめて検討するのが難しい場合は、FPやIFAなどの専門家に相談する選択肢もある。
IFAと一緒に退職金対策を立てるメリット
退職金対策を一人で考えるのが難しい場合は、専門家に相談するのも一つの方法だ。
ただし、相談内容によって適切な相談先は異なる。退職手当の制度や金額は警察本部・自治体の人事担当、税金は税務署や税理士、運用はFPやIFAなどに相談しよう。
| 相談したい内容 | 主な相談先 | 確認できること |
|---|---|---|
| 退職手当の金額・計算方法 | 警察本部、自治体の人事・給与担当、退職手当組合 | 給料月額 支給割合 調整額 試算額 |
| 退職手当の支給時期 | 人事・給与担当、退職手当組合 | 支給予定日 必要書類 振込手続き |
| 退職金にかかる税金 | 税務署、税理士 | 退職所得控除 源泉徴収 確定申告 |
| 退職後の生活設計 | FP、J-FLEC認定アドバイザーなど | 家計管理 年金 生活費 資金配分 |
| 退職金の運用 | IFA、金融機関、FP | 金融商品の選択肢 NISA・iDeCo 運用方針 |
IFAとは
IFAとは、独立系ファイナンシャル・アドバイザーのことだ。
日本では主に金融商品仲介業者として、顧客のライフプランやニーズに合わせて、金融商品の選定、運用、売買取引の支援などを行う人や法人を指す。
退職金の相談では、退職後の生活費、公的年金、預貯金、NISA、iDeCo、保険、住宅ローン、相続予定などを踏まえて、資産全体の配分を相談できる場合がある。
ただし、IFAは税務申告や法律判断を行う専門家ではない。税金は税理士、法律問題は弁護士、社会保険は社会保険労務士など、必要に応じて専門家を使い分けよう。
IFAに相談する前に確認したいこと
IFAに退職金運用を相談する場合は、提案された商品をその場で契約するのではなく、以下の点を確認しよう。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- 所属金融機関や提携金融機関はどこか
- 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用はいくらか
- 元本割れリスクや途中解約時の条件を説明してくれるか
- 退職後の生活費を確保したうえで提案してくれるか
- 運用開始後のフォロー体制があるか
退職金は老後生活を支える大切な資金である。高い利回りだけを追うのではなく、生活費や予備資金を確保したうえで、自分のリスク許容度に合う運用方法を選ぼう。
まとめ
本記事では、警察官の退職金の仕組み、計算方法、影響要因、税金、退職後の生活設計と相談先について解説した。
警察官の多くは都道府県警察に勤務する地方公務員であり、退職手当は勤務先の自治体の条例や退職手当組合の規程に基づいて支給される。ただし、警察庁職員や一部の警察官は国家公務員に該当するため、自分がどの制度の対象かを確認することが大切だ。
退職手当は、主に退職日の給料月額、勤続期間、退職理由別の支給割合、調整額によって決まる。昇任・号給・階級、退職理由、休職期間、定年引き上げに伴う制度変更も金額に影響する可能性がある。
税金面では、退職所得控除と2分の1課税により、給与所得とは異なる扱いになる。退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合は、20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されるため、手続きにも注意しよう。
退職手当は老後資金の土台になる。支給額だけでなく、税引後の手取り額、退職後の生活費、公的年金、医療・介護費、住宅ローンなどを踏まえて、資金計画を立てることが重要だ。
退職金の運用について不安がある場合は、FPやIFAなどの専門家へ相談する選択肢もある。相談先の登録状況、手数料、リスク説明を確認し、自分の生活設計に合う方法を選ぼう。
退職金の運用や相談先を比較したい場合は、以下ボタンから確認できる。
出典
警察庁「警察のしくみ」
e-Gov法令検索「警察法」
e-Gov法令検索「人事院規則九―二(俸給表の適用範囲)」
内閣官房内閣人事局「国家公務員退職手当支給率早見表」
政府統計の総合窓口 e-Stat「令和6年地方公務員給与実態調査 第9表 1 団体区分別,職員区分別,退職事由別,年齢別退職者数及び退職手当額」(公開日:2025年9月18日)
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
国税庁「退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

