社会福祉法人で働いている方のなかには、「退職金が2つあると聞いたが本当なのか」「2つ合わせるといくらになるのか」と気になっている方もいるでしょう。
結論からいうと、社会福祉法人の職員が退職金を2つ受け取れるのは、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の退職手当共済に加えて、都道府県社会福祉協議会の上乗せ共済か法人独自の退職金制度がある場合です。すべての社会福祉法人で2つ受け取れるわけではありません。
そして上乗せ共済がある場合の2つ目は、1つ目とは別枠でもう1本受け取れるものではなく、WAMの計算に使う基礎額が実際の給与より低いことで生じる差額を埋めるものです。
この記事では、退職金が2つになる条件、2つ合わせた金額の計算例、自分が対象かどうかの確認方法、受け取るときの税金と支給時期を解説します。
社会福祉法人では退職金が2つある?
社会福祉法人の職員が受け取る退職金の中心になるのは、社会福祉施設職員等退職手当共済法に基づき、福祉医療機構が運営する退職手当共済制度です。
これに何かが加わったときに、退職金が2つあるという状態になります。
2つ目になりうるのは、都道府県社会福祉協議会などの上乗せ共済か、法人独自の退職金制度のどちらかです。
WAM共済に都道府県社協の上乗せ共済が加わる場合
都道府県によっては、社会福祉協議会が独自の退職手当共済を運営しています。
例えば群馬県社会福祉協議会の「県単共済」は、国の共済法による退職手当金が公務員に比べて下回っていた状況を背景に、昭和47年4月に群馬県独自の施策として発足したものです。
この制度では、退職手当金の給付、福利厚生給付金の給付、福利厚生資金の貸付が行われています。
ただし、こうした上乗せ共済はすべての都道府県にあるわけではありません。制度の有無、掛金、給付内容、支給ルートは地域ごとに異なります。
WAM共済に法人独自の退職金制度が加わる場合
勤務先の社会福祉法人が、就業規則や退職金規程で独自の退職一時金制度を設けている場合もあります。
この場合、WAMからの退職手当金と、法人から支払われる退職一時金の2本立てになります。
企業年金制度を導入している法人であれば、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金の資産も別に受け取ることになります。
法人独自の制度は、支給条件も計算方法も法人ごとに違います。退職金規程を直接確認する以外に確かめる方法はありません。
中退共とWAM共済は同じ職員に重ねられない
2つ目の候補としてよく挙がるのが中小企業退職金共済制度(中退共)ですが、これは同じ職員には重ねられません。
中退共のQ&Aでは、退職手当共済制度の共済契約者である事業所も中退共の共済契約者にはなれる一方、中退共に加入する従業員は社会福祉施設職員等退職手当共済制度には加入できないとされています。
つまり、法人としては両方の契約を持てても、職員一人ひとりで見ればどちらか一方です。制度名を並べて数えるのではなく、自分がどれの対象かで判断しましょう。
2つ合わせて退職金はいくらになる?WAMの計算方法について
上乗せ共済がある場合、2つ合わせた金額はどう決まるのでしょうか。
ここを理解するには、WAMの計算に使われる「計算基礎額」の仕組みを押さえる必要があります。
上乗せ共済は本俸月額と計算基礎額の差額を埋める仕組み
WAMの退職手当金は「計算基礎額×支給乗率」で計算されます。
このとき使う計算基礎額は、退職前6か月の平均本俸月額そのものではありません。62,000円から360,000円までの20段階に区分された金額のうち、該当する区分の額が使われます。
そのため、実際の本俸月額と計算基礎額のあいだに差が生まれます。
| 退職前6か月の平均本俸月額 | 共済法の計算基礎額 | 差額 |
|---|---|---|
| 21万円 | 20万5,000円 | 5,000円 |
| 29万円 | 28万円 | 1万円 |
| 38万円 | 36万円 | 2万円 |
| 45万円 | 36万円 | 9万円 |
※ 群馬県社会福祉協議会「退職手当金給付の仕組みについて」の共済法基礎額表をもとに作成
上乗せ共済は、この差額に支給乗率を掛けた分を給付する制度です。
計算基礎額は36万円が上限なので、本俸月額が36万円を超える人ほど差額は大きくなります。逆に、本俸月額が区分の下限とぴったり一致する場合は差額がゼロになり、上乗せ分は支給されません。
群馬県社協の県単共済で示されている計算例
群馬県社協が公表している計算例を見てみましょう。退職前6か月の平均本俸月額が21万円、在職期間5年で退職した場合です。
- 国家公務員の場合
21万円×2.61=54万8,100円 - WAM共済から
20万5,000円(計算基礎額)×2.61=53万5,050円 - 県単共済から
(21万円−20万5,000円)×2.61=1万3,050円
WAMの53万5,050円と県単共済の1万3,050円を足すと、公務員の54万8,100円と同額になります。
群馬県社協も、この制度は差額部分を給付して退職手当を公務員並みにするものであり、公務員の額と共済法の額が同額の場合は県単共済からの支給がないと説明しています。
2つあるといっても、上乗せ共済の場合は片方が大きく、もう片方は数千円から数十万円という規模になります。
勤続20年・30年・40年で合計いくらになるか
勤続年数が長くなると、この差額にも支給乗率が掛かるため、上乗せ分も増えていきます。
退職前6か月の平均本俸月額が29万円のケースで、勤続年数別に合計額を計算すると次のようになります。
| 勤続年数 | 支給乗率 | WAM共済 | 上乗せ共済 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 20年 | 20.4450 | 572万4,600円 | 20万4,450円 | 592万9,050円 |
| 30年 | 36.1050 | 1,010万9,400円 | 36万1,050円 | 1,047万450円 |
| 40年 | 46.5450 | 1,303万2,600円 | 46万5,450円 | 1,349万8,050円 |
※1 群馬県社会福祉協議会「退職手当金算定乗率表」の平成28年度からの普通退職の乗率を使用
※2 退職前6か月の平均本俸月額29万円、計算基礎額28万円、普通退職として算出
※ 上乗せ共済の有無と計算方法は都道府県ごとに異なる。金額は群馬県の方式で計算した場合の目安
上乗せ分は勤続20年で約20万円、40年でも約47万円です。合計額の3〜4%程度にとどまります。
ただし本俸月額が36万円を超えると、超えた分がすべて差額になるため、上乗せ分は一気に大きくなります。本俸月額45万円で勤続30年なら、差額9万円に36.1050を掛けて約325万円です。
役職に就いて給与が上がっている方ほど、上乗せ共済の有無が効いてきます。
保育士の場合は?
保育所は社会福祉施設職員等退職手当共済法で社会福祉施設に含まれているため、社会福祉法人立の保育所で働く保育士もWAM共済の対象になります。
保育所等の職員については、掛金に国と都道府県の補助が入る仕組みが維持されています。
そのうえで2つ目があるかどうかは、勤務先の法人が上乗せ共済に加入しているか、独自の退職金規程を持っているかで決まります。保育士だから2つ、という決まり方ではありません。
なお、株式会社やNPO法人が運営する保育所は社会福祉法人ではないため、WAM共済の対象外です。この場合は勤務先の退職金規程か中退共などで確認することになります。
2つの退職金を受け取れるのかどうかを確認する方法
制度の説明を読んでも、自分がどれに当てはまるかは勤務先ごとに違います。
手元の資料と勤務先への確認で、はっきりさせていきましょう。
給与明細の天引きが手がかりになる
まず見てほしいのが給与明細です。
WAM共済の掛金は法人が全額を負担し、職員本人の負担はありません。
一方、上乗せ共済には職員本人の負担があるものがあります。群馬県社協の県単共済では、共済法適用職員の掛金は基準給与額の8/1000で、うち2/1000が職員負担とされています。
つまり、給与から共済や退職金の名目で天引きされている項目があれば、それは上乗せ共済の掛金である可能性があります。天引きがまったくなくても、法人が全額負担する制度や法人独自の退職金規程があることはあるため、天引きの有無だけで結論は出せません。
勤務先に確認するときの質問
人事や総務に聞くときは、制度をまとめて「退職金は2つありますか」と尋ねると、答える側も答えにくくなります。次のように分けて聞きましょう。
- 福祉医療機構の退職手当共済に加入しているか
- 自分は被共済職員として登録されているか
- 都道府県社協の上乗せ共済に加入しているか
- 法人独自の退職金規程はあるか
- 企業年金や企業型確定拠出年金はあるか
- それぞれの支給時期と受け取りルートはどうなるか
就業規則と退職金規程は、労働者が閲覧できる状態で備え付けられているはずです。制度名だけでなく、支給条件と計算方法の記載まで見ておきましょう。
2種類の退職金を受け取るときに注意したい税金と支給時期
退職金が2つある場合、税金の計算と支給されるタイミングの両方で、1つだけのときとは違う注意点が出てきます。
退職所得控除は2つ合算して計算する
退職金を一時金で受け取る場合、退職所得として所得税・復興特別所得税・住民税の対象になります。
退職所得控除は退職金1本ごとに使えるものではなく、同じ年に受け取った退職金をまとめて計算します。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
勤続20年で合計592万9,050円を受け取った場合、退職所得控除額は800万円です。控除額のほうが大きいため、退職所得の金額は0円になります。
手続き面では、上乗せ共済とWAM以外の退職金がある場合、その金額の退職所得の源泉徴収票を、福祉医療機構に提出する退職所得の受給に関する申告書に添付する扱いになります。
申告書を出していないと、支払額に対して20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算することになります。同じ年に複数の退職金を受け取る場合は、書類の出し忘れに注意しましょう。
支給時期と振込ルートが2つで異なる
2つある場合、振り込まれる時期も経路も別々です。
| 制度 | 振込ルート | 支給までの目安 |
|---|---|---|
| WAM共済 | 福祉医療機構から退職者本人の口座へ直接 | 書類到着から概ね3か月 4月から8月はさらにかかる場合がある |
| 県単共済(群馬県の例) | 県社協から法人の口座へ交付され、法人から退職者へ | 決定通知の到着後 法人での手続き期間が加わる |
※ 上乗せ共済の支給ルートと時期は都道府県ごとに異なる。群馬県社協の資料に基づく
WAMからの退職手当金は本人の口座に直接振り込まれますが、群馬県の県単共済は法人を経由します。群馬県社協は、退職手当資金決定通知書が届いてから2か月以上たっても法人から支給がない場合は、法人に問い合わせるよう案内しています。
どちらも退職と同時に振り込まれるものではありません。退職直後の生活費は、退職金とは別に確保しておきましょう。
退職金を受け取ったあとの相談先はどこがいい?
制度の確認と金額の把握が済んだら、受け取ったお金をどう扱うかが次の課題になります。
相談内容によって、適した相手は変わります。
| 相談したい内容 | 主な相談先 | 確認できること |
|---|---|---|
| 制度の加入状況と支給額 | 勤務先の人事・総務、福祉医療機構、都道府県社協 | 被共済職員期間 上乗せ共済の有無 支給予定 |
| 退職金の税金 | 税務署、税理士 | 退職所得控除 源泉徴収 確定申告 |
| 退職後の家計 | FP、J-FLEC認定アドバイザーなど | 生活費 公的年金 老後資金計画 |
| 退職金の運用 | IFA、金融機関、FPなど | 資産配分 金融商品 NISA リスク管理 |
金額そのものは、資産運用の専門家に聞いてもわかりません。まず勤務先と制度の窓口で確定させてから、その先を相談しましょう。
IFAに相談する場合の確認事項
退職金の運用について相談したい場合、IFAに相談する選択肢があります。
IFAは一般に独立系ファイナンシャルアドバイザーと呼ばれ、金融商品仲介業者として証券会社や登録金融機関から委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行います。
ただし、扱える商品や報酬体系は所属先や提携金融機関によって異なります。相談前に次の点を確認しましょう。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- 提携している証券会社・金融機関はどこか
- 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用はいくらか
- 提案できる商品の範囲に偏りがないか
- 元本割れや為替変動などのリスク説明が十分か
- 運用後のフォロー体制があるか
退職金は老後資金の土台になるお金です。使う時期と目的ごとに分けて考え、生活費や緊急資金までリスク資産に回さないようにしましょう。
【まとめ】社会福祉法人の退職金を2つ受け取れるかは勤務先で決まる
社会福祉法人の職員が退職金を2つ受け取れるのは、WAMの退職手当共済に加えて、都道府県社協の上乗せ共済か法人独自の退職金制度がある場合です。
上乗せ共済がある場合の2つ目は、別枠でもう1本もらえるものではありません。WAMの計算基礎額が実際の本俸月額より低いことで生じる差額を埋めるもので、群馬県社協の例では、2つ合わせて公務員と同水準になるよう設計されています。
本俸月額29万円のケースでは、上乗せ分は勤続20年で約20万円、40年でも約47万円です。ただし本俸月額が計算基礎額の上限である36万円を超えると、超過分すべてが差額になるため、上乗せ分は大きくなります。
なお、同じ職員がWAM共済と中退共の両方に加入することはできません。制度名を数えるのではなく、自分がどれの対象かを確認しましょう。
確認の手がかりは給与明細です。WAM共済の掛金に職員負担はないため、共済や退職金の名目で天引きがあれば上乗せ共済の可能性があります。そのうえで、勤務先に制度を1つずつ分けて確認してください。
退職金は2つとも、退職と同時に振り込まれるものではありません。受け取ったあとの運用や相談先を比べたい場合は、以下のボタンから確認できます。
出典
- e-Gov法令検索「社会福祉施設職員等退職手当共済法」(昭和38年法律第133号)
- 厚生労働省「社会福祉法人制度」
- 福祉医療機構「社会福祉施設職員等退職手当共済制度について」
- 福祉医療機構「退職される皆さまへ」
- 群馬県社会福祉協議会「県単共済(群馬県社会福祉協議会民間社会福祉施設等職員共済)」
- 群馬県社会福祉協議会「退職手当金給付の仕組みについて」
- 群馬県社会福祉協議会「退職手当金算定乗率表」
- 中小企業退職金共済事業本部「退職手当共済制度に加入している事業所です。中退共制度に加入できますか?」
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
- 国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
- 日本証券業協会「金融商品仲介業者」
- 金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」

