歯科衛生士の退職金は、勤務先に退職金制度があるかどうか、あればどの方式で計算するかで大きく変わります。日本歯科衛生士会の調査では、退職金制度が「ある」と答えた歯科衛生士は全体の48.3%で、半数近くは制度がない、またはわからない職場で働いています。
たとえば、中小企業退職金共済(中退共)に掛金月額1万円で加入している歯科医院なら、勤続10年で約127万円、勤続20年で約267万円が基本退職金の目安です。
本記事では、勤続年数別の退職金の目安、制度がある割合、計算方法、税金、退職金制度がない場合の備え方を解説します。
この記事でわかること
- 中退共に掛金月額1万円で加入した場合の基本退職金(勤続10年で約127万円、20年で約267万円、30年で約421万円)
- 常勤・非常勤別の退職金制度がある割合(常勤76.8%、非常勤8.5%)
- 中退共の退職金を請求してから支払われるまでの期間(おおむね1か月〜2か月半)
- 勤続30年の退職所得控除額(1,500万円)と、税金がかからない金額の目安
歯科衛生士の退職金はいくら?勤続年数別の目安
歯科衛生士の退職金に全国共通の相場はありません。ここでは、歯科医院が加入していることがある中退共と、基本給連動型の退職金規程を例に目安を示します。
中退共に加入している歯科医院の場合
中退共は、中小企業が国の制度を使って退職金を積み立てる仕組みです。退職金は掛金月額と納付期間で決まり、勤務先ではなく中退共から本人に支払われます。中退共の退職金の基本退職金は次のとおりです。
| 納付期間 | 掛金月額5,000円 | 掛金月額1万円 |
|---|---|---|
| 5年 | 30万4,100円 | 60万8,200円 |
| 10年 | 63万2,800円 | 126万5,600円 |
| 20年 | 133万3,300円 | 266万6,600円 |
| 30年 | 210万6,550円 | 421万3,100円 |
出典:厚生労働省「基本退職金額表」 ※基本退職金のみ。運用利回りに応じた付加退職金が上乗せされる場合がある
掛金月額は、原則5,000円〜3万円の範囲で事業主が決めます。勤続20年で200万円台、30年で400万円前後が一つの目安になりますが、掛金月額が高ければ金額も増えます。自分の掛金月額は、勤務先や中退共からの通知で確認できます。
基本給連動型の退職金規程がある場合
勤務先独自の退職金規程では、「退職時の基本給×勤続年数に応じた支給率×退職理由別の係数」で計算する方式があります。たとえば、基本給24万円、勤続10年、支給率が勤続1年あたり0.5か月分の制度なら、24万円×10年×0.5=120万円が目安になります。
ただし、支給率や係数は勤務先ごとに異なり、自己都合退職では減額されることもあります。上記はあくまで計算の例で、実際の金額は退職金規程で確認しましょう。
病院・行政で働く場合
公立病院や自治体(保健所など)で正規職員として働く歯科衛生士は、地方公務員として自治体の条例に基づいて退職手当が支給されます。退職手当の基本額は「給料月額×支給率」で計算され、勤続年数が長いほど大きくなります。計算方法は「地方公務員の退職金早見表」で解説しています。
歯科衛生士に退職金はある?制度ありは48.3%
日本歯科衛生士会の「第10回歯科衛生士の勤務実態調査」(令和6年度調査、令和7年3月公表)では、退職金制度が「ある」と答えた割合は全体で48.3%、「ない」は41.3%でした。
| 区分 | 退職金制度「ある」 |
|---|---|
| 全体 | 48.3% |
| 常勤 | 76.8% |
| 非常勤 | 8.5% |
| 常勤のうち診療所勤務 | 61.6% |
| 常勤のうち病院・大学病院勤務 | 90.5% |
| 常勤のうち行政勤務 | 74.7% |
出典:日本歯科衛生士会「第10回歯科衛生士の勤務実態調査報告書」
病院・大学病院では9割が制度ありと答えている一方、歯科医院(診療所)では約6割にとどまります。非常勤では制度がある割合が1割未満にとどまります。個人の歯科医院は院長の方針や規模によって待遇が分かれるため、入職時や退職前に必ず確認しておきましょう。
なお、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、歯科衛生士の全国平均年収は396万円(令和7年賃金構造基本統計調査を加工)、ハローワークの求人賃金は月額26.2万円(令和7年度)です(job tag「歯科衛生士」)。
退職金制度の有無を確認する方法
| 確認すること | 確認先 |
|---|---|
| 就業規則に退職金の項目があるか、退職金規程が別にあるか | 就業規則・退職金規程 |
| 支給対象者に自分の雇用形態(常勤・非常勤)が含まれるか | 退職金規程の適用範囲 |
| 「勤続3年以上」など最低勤続年数の条件があるか | 退職金規程の支給要件 |
| 自己都合退職と定年退職などで支給率が変わるか | 退職金規程の支給率表 |
| 中退共など外部の制度に加入しているか(加入していれば掛金月額も) | 院長・事務担当 |
勤続年数は、歯科衛生士としての通算経験ではなく、原則として同じ勤務先で働いた期間で数えます。育児休業や休職期間の扱いも勤務先によって異なるため、あわせて確認しましょう。
歯科衛生士の退職金の計算方法
退職金の計算方法は勤務先の規程で決まります。歯科医院や病院で見られる主な方式は次のとおりです。
| 計算方法 | 概要 | 確認したいポイント |
|---|---|---|
| 基本給連動方式 | 退職時の基本給に、勤続年数や退職理由に応じた支給率を掛けて計算する | 基本給にどの手当が含まれるか |
| 定額方式 | 勤続年数ごとに決められた金額を支給する | 勤続何年から支給対象になるか |
| ポイント制 | 勤続年数、役職、評価などをポイント化して計算する | 評価や役職がどの程度反映されるか |
| 中退共など外部制度 | 掛金月額と納付月数に応じて退職金が決まる | 加入の有無、掛金月額、納付月数 |
退職金の受け取り方と支払時期
勤務先独自の制度の場合、支払時期は就業規則や退職金規程に定められています。中退共の場合は、退職者本人が中退共に請求し、書類に不備がなければ受付からおおむね1か月〜2か月半程度で支払われます。退職前に「退職金共済手帳をいつ受け取れるか」を勤務先に確認しておきましょう。支払時期の詳細は「退職金はいつ振り込まれる?」も参考にしてください。
歯科衛生士の退職金にかかる税金
退職金は「退職所得」として給与とは別に課税され、勤続年数に応じた退職所得控除があります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円未満の場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
出典:国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
たとえば中退共に掛金月額1万円で30年加入した場合の基本退職金は約421万円で、勤続30年の退職所得控除額1,500万円を大きく下回るため、税金はかかりません。勤続10年で約127万円の場合も、控除額400万円の範囲内です。
退職金を受け取る前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、原則として確定申告は不要です。提出しないと支給額の20.42%が源泉徴収され、確定申告での精算が必要になります。退職した年の手続きは「退職金と年末調整」で解説しています。
退職金制度がない歯科医院で働く場合の備え方
退職金制度がない職場では、老後資金を自分で準備する必要があります。代表的な方法は次の2つです。
| 制度 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| iDeCo(個人型確定拠出年金) | 掛金が全額所得控除になり、運用益も非課税 | 原則60歳まで引き出せない |
| NISA | 運用益が非課税で、いつでも引き出せる | 掛金の所得控除はなく、元本割れのリスクがある |
iDeCoは受け取り方によって退職所得控除の対象になるため、将来退職金を受け取る可能性がある方は受け取りの順番にも注意しましょう。詳しくは「iDeCoの出口戦略」「退職金はNISAで運用すべき?」で解説しています。
転職を考えている場合は、給与だけでなく退職金制度の有無や中退共の加入状況も比べておくと、長く働いたときの差が見えやすくなります。
歯科衛生士の退職金の相談先
| 相談内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 退職金制度の有無・支給条件 | 勤務先の院長、人事・労務担当者 |
| 中退共の請求手続き | 勤務先、中退共 |
| 退職金の未払い・トラブル | 労働基準監督署、社会保険労務士、弁護士 |
| 退職金にかかる税金 | 税務署、税理士 |
| 退職金の使い方・資産運用 | FP、IFAなどの金融アドバイザー |
退職金を受け取った後は、生活費や予備資金を確保したうえで、残りをどう活用するかを考えましょう。退職金の運用をIFAなどに相談する場合は、手数料や取り扱う商品の範囲を事前に確認しておくと安心です。
まとめ:まずは勤務先の退職金制度と中退共の加入状況を確認する
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 制度がある割合 | 全体48.3%(常勤76.8%、非常勤8.5%) |
| 中退共の目安 | 掛金月額1万円で勤続10年約127万円、20年約267万円、30年約421万円 |
| 独自制度の計算 | 「基本給×支給率×退職理由別の係数」で計算する方式がある |
| 税金 | 退職所得控除の範囲内に収まりやすく、税金がかからないこともある |
| 制度がない場合 | iDeCoやNISAで老後資金を自分で準備する |

