歯科衛生士として転職や退職を考えるとき、「退職金は支払われるのか」「どのくらいの金額になるのか」「退職前に何を確認すべきか」と不安に感じる方は多いだろう。
結論からいうと、歯科衛生士の退職金は勤務先によって大きく異なる。退職金制度を設けている歯科医院もあれば、制度がないクリニックもあるため、勤続年数や月給だけで一律に判断することはできない。
退職金を確認するときは、まず勤務先の就業規則、退職金規程、雇用契約書、中退共などの外部制度への加入有無を確認することが大切だ。
本記事では、歯科衛生士の退職金制度の現状、平均給与、退職金の計算方法、税金、相談先について解説する。退職前に後悔しないための確認材料として参考にしてほしい。
歯科衛生士の退職金の現状|制度ありは全体48.3%
まずは、歯科衛生士の退職金制度の基本と、勤務先による違いを確認しておこう。
退職金は法律で必ず支払われるものではなく、勤務先が制度を設けている場合に、就業規則や退職金規程などに基づいて支給される。
退職金とは
退職金とは、勤務先を退職する際に、勤務先から従業員へ支払われる金銭のことだ。長年の勤務への慰労、退職後の生活支援、人材定着などを目的として設けられることが多い。
ただし、退職金制度はすべての歯科医院に義務付けられているわけではない。退職金制度を設ける場合は、対象となる労働者の範囲、支給要件、計算方法、支払方法、支払時期などを就業規則に記載する必要がある。
そのため、「歯科衛生士だから退職金がある」「正社員だから必ず退職金が出る」とは限らない。まずは勤務先の規程を確認しよう。
歯科衛生士の平均給与額
厚生労働省の職業情報提供サイト job tag に掲載されている統計データでは、歯科衛生士の全国平均年収は396万円、求人賃金の月額は25.6万円となっている。
ただし、実際の給与は地域、勤務先の規模、経験年数、役職、勤務時間、雇用形態によって変わる。退職金も同じように、月給や勤続年数だけでなく、勤務先の退職金制度の有無や計算方法によって変わる点に注意したい。
歯科衛生士の退職金制度は勤務先と雇用形態で差がある
日本歯科衛生士会の第10回勤務実態調査では、退職金制度の有無について、全体では「ある」が48.3%、「ない」が41.3%、「わからない」が10.4%だった。
就業形態別では、常勤で「ある」が76.8%、非常勤で「ある」が8.5%となっており、常勤と非常勤で大きな差がある。
| 区分 | 退職金制度「ある」 | 退職金制度「ない」 | わからない |
|---|---|---|---|
| 全体 | 48.3% | 41.3% | 10.4% |
| 常勤全体 | 76.8% | 14.1% | 9.1% |
| 非常勤全体 | 8.5% | 78.8% | 12.7% |
| 診療所 | 61.6% | 21.6% | 16.8% |
| 病院・大学病院 | 90.5% | 5.8% | 3.7% |
| 行政 | 74.7% | 24.5% | 0.8% |
病院・大学病院では退職金制度がある割合が高い一方、診療所では制度の有無に差が出やすい。個人クリニックでは院長の方針や経営状況によって待遇が変わることもあるため、入職時や退職前に必ず確認しておきたい。
退職金の計算方法を理解しよう
退職金の計算方法は、勤務先の退職金規程によって決まる。歯科医院ごとに制度が異なるため、全国共通の計算式はない。
ここでは、退職金を確認するときに見るべきポイントを整理する。
- 勤続年数と退職金の関係
- よくある退職金の計算方法
- 支払い時期と中退共の手続き
- 退職金にかかる税金
勤続年数と退職金の関係
退職金制度がある勤務先では、勤続年数が長いほど退職金が増えやすい。退職金の支給条件として「勤続3年以上」などの基準が設けられていることもある。
ただし、ここでいう勤続年数は、歯科衛生士としての通算経験年数ではなく、原則として同じ勤務先で働いた期間を指す。別のクリニックでの勤務経験は、退職金計算に含まれないことが多い。
また、育児休業、休職、短時間勤務、試用期間、再雇用期間などを勤続年数に含めるかどうかは、勤務先の規程によって異なる。退職前に人事・労務担当者や院長へ確認しておこう。
よくある退職金の計算方法
歯科医院や病院で見られる退職金の計算方法には、次のようなものがある。
| 計算方法 | 概要 | 確認したいポイント |
|---|---|---|
| 基本給連動方式 | 退職時の基本給に、勤続年数や支給率を掛けて計算する | 基本給にどの手当が含まれるか |
| 定額方式 | 勤続年数ごとに決められた金額を支給する | 勤続何年から支給対象になるか |
| ポイント制 | 勤続年数、役職、評価などをポイント化して計算する | 評価や役職がどの程度反映されるか |
| 中退共など外部制度 | 掛金月額と納付月数などに応じて退職金が決まる | 加入有無、掛金月額、納付月数 |
例えば、基本給連動方式では次のように計算されることがある。
退職金=退職時の基本給×勤続年数に応じた支給係数×退職理由係数
仮に、退職時の基本給が24万円、勤続10年、支給係数が0.6の場合、退職金の目安は24万円×10年×0.6=144万円となる。
これはあくまで計算例であり、実際の退職金額を示すものではない。自己都合退職と会社都合退職で係数が異なる場合もあるため、退職金規程の計算式を確認しよう。
支払い時期と中退共の手続き
退職金の支払い時期は、勤務先の就業規則や退職金規程で定められている。退職金制度を設けている場合は、支払時期を就業規則に記載する必要があるため、退職前に確認しておこう。
勤務先が中退共に加入している場合、退職金は勤務先からではなく中退共から退職者本人に支払われる。中退共は、中小企業が退職金制度を設けやすくするための制度だ。
中退共の退職金請求は、主に次の流れで行う。
中退共では、請求を受け付けてから書類に不備がない状態で、1カ月から掛金の納付方法によっては2カ月半程度で支払われる。
中退共に加入しているかどうかは、勤務先に確認すれば分かる。退職前に「中退共に加入しているか」「退職金共済手帳はいつ受け取れるか」「掛金の納付月数は何カ月か」を確認しておこう。
退職金にかかる税金
退職金は、原則として「退職所得」として所得税・復興特別所得税・住民税の対象になる。ただし、長年の勤務に対する退職金は税負担が軽くなるよう、退職所得控除や2分の1課税の仕組みがある。
一般的な退職所得の金額は、次の式で計算する。
退職所得控除額は、勤続年数によって次のように決まる。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
例えば、勤続30年の場合、退職所得控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円となる。
【シミュレーション例】勤続30年・退職金500万円の場合
| 計算内容 | 金額 |
|---|---|
| 勤続年数 | 30年 |
| 退職所得控除額 | 1,500万円 |
| 退職金 | 500万円 |
| 退職所得 | 0円 |
このケースでは、退職金が退職所得控除額以下のため、一般的な計算上は退職所得が0円になる。
【別パターン】勤続30年・退職金2,000万円の場合
| 計算内容 | 金額 |
|---|---|
| 退職所得控除額 | 1,500万円 |
| 退職金 | 2,000万円 |
| 控除後の金額 | 500万円 |
| 退職所得 | 250万円 |
| 所得税・復興特別所得税の目安 | 約15.5万円 |
| 住民税の目安 | 約25万円 |
| 税金合計の目安 | 約40.5万円 |
上記は一般的な退職所得の計算例であり、実際の税額は退職金の種類、勤続年数、同じ年に複数の退職金を受け取るかどうかなどで変わる。
退職金を受け取る前に「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先へ提出していれば、退職所得控除を反映した源泉徴収が行われるため、原則として退職金だけを理由に確定申告をする必要はない。
一方、申告書を提出していない場合は、退職金の支給額に対して20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収される。この場合は、確定申告によって本来の税額に精算する必要がある。
なお、通常の退職時一時金は、社会保険料の対象とはされていない。一方、退職金相当額を在職中の給与や賞与に上乗せして前払いする制度では、報酬または賞与として社会保険料の対象になる場合がある。
歯科衛生士の退職金相場は勤務先の規程で決まる
歯科衛生士の退職金相場は、勤務先の種類、退職金制度、勤続年数、基本給、雇用形態によって変わる。
そのため、「歯科衛生士の退職金は何年でいくら」と一律に示すよりも、自分の勤務先の規程を確認し、計算式に当てはめて試算することが重要だ。
一般的な退職金の試算方法
歯科医院や病院でよく見られる退職金の試算方法は、次のようなものだ。
- 退職時の基本給×勤続年数×支給係数
- 勤続年数ごとに定められた定額を支給
- 基本給×勤続年数に、自己都合・会社都合の係数を反映
- 中退共の掛金月額と納付月数に応じて支給
例えば、退職時の基本給を24万円、勤続年数を10年、支給係数を0.5とする制度であれば、24万円×10年×0.5=120万円が退職金の目安になる。
ただし、実際には自己都合退職か会社都合退職か、チーフ・主任などの役職があるか、退職金制度の対象者に含まれるかによって変わる。必ず勤務先の規程で確認しよう。
雇用形態ごとの違い
歯科衛生士が退職金を受け取れるかどうかは、雇用形態によっても変わる。常勤は退職金制度の対象になりやすい一方、非常勤やパート・アルバイトは対象外とされることが多い。
日本歯科衛生士会の第10回勤務実態調査でも、退職金制度が「ある」と回答した割合は、常勤全体で76.8%、非常勤全体で8.5%となっている。
ただし、非常勤でも勤務先の規程で対象に含まれていれば退職金を受け取れる可能性はある。雇用形態だけで決めつけず、雇用契約書や退職金規程を確認しよう。
退職金がないクリニックもある?
退職金制度がない歯科医院もある。退職金制度の有無は、クリニックの規模、経営方針、院長の考え方、外部制度への加入状況によって異なる。
退職金制度があるかどうかを確認する際は、次の項目を見るとよい。
- 就業規則に退職金の項目があるか
- 退職金規程が別に用意されているか
- 支給対象者に自分の雇用形態が含まれるか
- 勤続年数の条件があるか
- 自己都合退職・会社都合退職で金額が変わるか
- 中退共など外部制度に加入しているか
転職時に退職金制度を重視する場合は、求人票だけでなく、面接時や内定時に「退職金制度の有無」「支給条件」「中退共加入の有無」を確認しておくと安心だ。
歯科衛生士の退職金相談はどこにするべきか
退職金の悩みは、制度の有無、支給額、税金、社会保険、資産運用など複数の分野に分かれる。すべてを一つの相談先で解決しようとせず、相談内容に合わせて相手を選ぶことが大切だ。
退職金の相談先は内容別に選ぶ
相談先の目安は次のとおりだ。
| 相談内容 | 主な相談先 | 確認できること |
|---|---|---|
| 退職金制度の有無・支給条件 | 勤務先の院長、人事・労務担当者、総務担当者 | 対象者 勤続年数 計算方法 支払時期 |
| 中退共の請求手続き | 勤務先、中退共本部 | 退職金共済手帳 必要書類 請求方法 支給時期 |
| 税金 | 税務署、税理士 | 退職所得控除 確定申告 住民税 |
| 社会保険・年金 | 年金事務所、市区町村、社会保険労務士 | 健康保険 国民年金 扶養 任意継続 |
| 退職後の生活設計 | FP、J-FLEC認定アドバイザー | 家計管理 ライフプラン 資金計画 |
| 退職金の運用 | IFA、FP、金融機関 | 資産配分 金融商品 NISA リスク管理 |
退職金の支給条件や支給予定日は、まず勤務先に確認する。税金の判断は税務署や税理士、退職後の資産運用はIFAやFPなど、専門分野に合った相談先を選ぼう。
IFAとは
IFAとは、独立系ファイナンシャルアドバイザーのことだ。日本では主に、金融商品仲介業者として、証券会社や登録金融機関から委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行う人や法人を指す。
退職金の運用相談では、退職後の生活費、年金収入、医療費や介護費への備え、リスク許容度を踏まえて、預貯金、投資信託、債券、NISAなどを組み合わせた資産配分について相談できる場合がある。
ただし、IFAは税理士や社会保険労務士とは役割が異なる。退職金の税額の確定、退職金規程の解釈、社会保険の手続きなどは、それぞれの専門家や公的機関に確認しよう。
IFAを活用する際の注意点
IFAに相談する場合は、次の点を事前に確認しておくと安心だ。
- 金融商品仲介業者として登録されているか
- 提携している証券会社・金融機関はどこか
- 相談料、販売手数料、信託報酬などの費用はいくらか
- 提案できる商品の範囲に偏りがないか
- 元本割れや為替変動などのリスク説明が十分か
- 運用後のフォロー体制があるか
退職金は退職後の生活を支える大切な資金だ。高利回りや安全性を強調する説明だけで判断せず、リスクと費用を理解したうえで検討しよう。
退職金は目的別に分けて管理する
退職金を受け取ったら、すぐに全額を投資に回すのではなく、使う時期ごとに分けて管理することが重要だ。
| 資金の区分 | 主な使い道 | 管理方法の例 |
|---|---|---|
| 短期資金 | 退職直後の生活費、税金、健康保険料、転職活動費 | 普通預金など換金しやすい形で管理 |
| 中期資金 | 引っ越し、医療費、家電買い替え、家族への支援 | 定期預金、個人向け国債など安全性を重視 |
| 長期資金 | 老後資金、介護費、将来の住み替え資金 | 余裕資金の範囲でNISAや投資信託などを検討 |
一般預金等は、1金融機関ごとに元本1,000万円までと破綻日までの利息等が預金保険制度で保護される。一方、NISAは非課税保有限度額1,800万円の制度だが、投資商品には元本割れのリスクがある。
制度のメリットだけで判断せず、使う時期、生活費への影響、リスク許容度を確認したうえで退職金の使い道を考えよう。
まとめ
歯科衛生士の退職金は、勤務先の制度によって大きく異なる。日本歯科衛生士会の調査では、退職金制度が「ある」と回答した割合は全体48.3%であり、常勤と非常勤、診療所と病院・大学病院でも差が見られる。
退職金制度は法律で必ず設けるものではないため、退職金を受け取れるかどうかは、勤務先の就業規則、退職金規程、雇用契約書、中退共への加入状況を確認する必要がある。
退職金の計算方法は、基本給連動方式、定額方式、ポイント制、中退共など勤務先によって異なる。勤続年数や退職理由によって金額が変わる場合もあるため、退職日を決める前に試算を依頼しておくと安心だ。
また、退職金を一時金で受け取る場合は退職所得控除が使えるが、申告書の提出状況や複数の退職金を受け取るかどうかで税額が変わることがある。税金に不安がある場合は、税務署や税理士に確認しよう。
受け取った退職金を運用する場合は、生活費や緊急資金を確保したうえで、余裕資金の範囲で検討することが大切だ。退職金の使い道に迷う場合は、IFA、FP、J-FLEC認定アドバイザーなど、相談内容に合った専門家を活用しよう。
歯科衛生士の退職金や運用について相談したい場合は、以下のボタンから確認できる。
出典
厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「歯科衛生士」
公益社団法人 日本歯科衛生士会「第10回歯科衛生士の勤務実態調査報告書」
厚生労働省「モデル就業規則」
厚生労働省「中小企業退職金共済制度(中退共制度)」
中小企業退職金共済事業本部「従業員が退職した際の手続の流れ(従業員)」
中小企業退職金共済事業本部「退職金は請求してから何日くらいで支給されますか?」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(公開日:2025年4月1日)
厚生労働省「いわゆる退職金の前払いに係る社会保険料の取扱いについて」
金融庁「預金保険制度」
金融庁「よくある質問:NISA特設ウェブサイト」
日本証券業協会「金融商品仲介業者」
金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」
金融経済教育推進機構 J-FLEC「専門家に相談したい」
金融経済教育推進機構 J-FLEC「J-FLEC認定アドバイザー」

